前世再生機

[題名]:前世再生機
[作者]:キース・ローマー


 やや変わった味付けの、ヒロイック・ファンタジー風スペースオペラです。(原題は"A Trace of Memory")
 キース・ローマー氏と言えばユーモアSFで知られる作家さんですけど、本書はユーモラスな要素こそあるもののコメディではありません。長編第二作目のようで、執筆時期は早期の作品です。
 面白いのは、キャラクタの立ち位置です。主要人物のフォスターは若返りと記憶喪失を繰り返しながら永遠に生きる高貴な生まれの男と、ロジャー・ゼラズニイ氏の〈真世界アンバー〉に登場しそうなキャラクタですね(執筆はこちらが先)。しかしながら、本書の主人公はフォスターではなく、彼と関わることになる無職の男レジョンなのです。
 レジョン君は物語冒頭ではすっかり落ちぶれてしまっていますが、なかなかどうして有能でガッツのある男性です。現代地球人である彼の一人称で物語が進んでいくことで、やや突飛な設定も受け入れやすくなっている点が良いですね。

 学生の頃は指揮者を目指していたものの、運命に翻弄され軍の秘密諜報員・私立探偵・カジノの用心棒・マグロ船の船員と、職を転々と変えざるを得なかったレジョン。今ではすっかり落ちぶれて、いよいよ盗みを働く他はなくなってしまいました。
 しかし、ミシシッピ州タペロの商店で下見していたところ、運悪く(?)警官に見とがめられ、職務質問を受ける羽目になります。そのときレジョンは、先刻読んだ新聞の広告を思い出し、とっさにその名を口にします。
「当方は金と冒険のためならなんでもする男。異常な冒険のパートナーを求む。メイポート、私書箱十九号、フォスター」
(原文は"Soldier of fortune seeks companion in arms to share unusual adventure."なので、ちょっとニュアンスが違うかも(^^;))
 幸い、警察に呼ばれて現れた紳士フォスターは、レジョンが自分の求人に応募してきたのだと口裏を合わせてくれました。そして警察署を出た後、レジョンを自宅に招きます。
 辿り着いた豪邸で、フォスターは浮浪者同然のレジョンを丁寧にもてなし、求人広告の意味を説明します。ともすると三十代ほどにも、あるいは五十代にも見える彼は、一九一八年(雑誌掲載時の一九六二年から四十四年前?)にフランスの陸軍病院で記憶を喪失した状態で目を覚ましたとき、既に三十歳ほどだったと言うのです。彼の望みとは、失われた半生を取り戻すことでした。
 そして、フォスターのなくした記憶に繋がる唯一の手掛かりが、彼の所有していた手帳でした。その二重の円が描かれた手帳は、前半がレジョンの知らない言語で書き込まれ、最後の十数ページのみ英語で十八世紀初頭からの出来事が綴られていました。しかも、手帳はどんな手段を取っても、破くことも、燃やすこともできないものだったのです。
 更にフォスターは、自分が何か火の玉のようなものに追いかけられていると告げます。本能的恐怖を呼び起こす火の玉〈ハンター〉に襲われ、何度も住居を変えてきたのだと。それは手帳に書かれていることと符合しました。
 さすがにフォスターの正気を疑ったレジョンは、深夜にこっそりと彼の元を去ろうとしました。ところがそのとき、窓の外にフォスターの言った火の玉を見かけてしまいます。彼はフォスターを起こし、二人で家を脱出しました。
 ホテルに泊まった翌朝、新聞記事で自分がフォスター誘拐の嫌疑をかけられていることを知ったレジョンは、慌てて部屋に引き返します。けれども、フォスターはまた記憶を失い、しかも二十歳未満の青年にまで若返っていたのです。
 もはや引き返すこともできなくなった二人は、協力して手帳に記された暗号を解読し、謎がイギリスのストーンヘンジに隠されていることを突き止めます。そこへ赴いた彼らが発見したのは――遥かな太古に地球を訪れた、異星の宇宙船でした。

 本書の注目ガジェットは、記憶トレイス("memory-trace")です。
 フォスターは地球人ではなく異星人であったことが判明しますが、彼の故郷であるヴァルロンでは人々が事実上永遠の寿命を持っています(定命がないだけで、怪我などにより死亡することはあり)。ただし、精神と肉体の衰えを解消するため、ある程度(数十年から数百年?)の期間が過ぎると〈変化〉と呼ばれる過程を経て若返りをします。ことのき、〈変化〉前の記憶が失われてしまうわけです。もっとも、全ての記憶がなくなるわけではないようで、言語能力や一般常識などはある程度残ります。
 ヴァルロン人はこの〈変化〉による記憶喪失を回避するため、事前に当人の記憶をバックアップしておき、〈変化〉後に復元する技術を開発しています。これが記憶トレイスです。U字型の装置にシリンダー型の記録媒体をはめ込み、頭に当てるだけで以前の記憶を復元することができます。
 なお、記憶の復元は当人だけでなく、別人に対しても行えます。このとき対象者が元々記憶を失っていなかった場合、どちらが主の人格となるのかという問題も出てくるわけですね。
 また、人間の全記憶だけでなく、部分的な記憶を保存・再生することもできるようで、技術の学習や娯楽メディアとして活用もされます。(この場合、再生は臨場感あふれる記憶の追体験となります)
 ちなみに、作中では地球人は元々ヴァルロン人にルーツを持つとされ、レジョンも問題なく記憶トレイスを使用可能です。ただ、地球人の場合は病気に感染しており、〈変化〉前に死んでしまうため若返り自体が起きないようです(^^;)

 物語は大きく二つに分かれ、前半はあらすじにあるフォスターの記憶探しになります。一方後半は、フォスターの後を追ってレジョンがヴァルロン星に向かい、そこで活躍する話です。
 面白いのが、この時点でヴァルロンは文明が崩壊し、前近代的な封建社会へと逆戻りしているところです。宇宙船や各種の都市機能は、そこにあるにも拘らず使い方が分からないため、魔法的なものとして忌避されています。
 文明崩壊後のヴァルロン人も肉体的には寿命がないものの、記憶トレイスが失われたことで〈変化〉を超えて記憶を維持することができず、人格的な死を迎えることになるわけですね。このせい、科学技術も失われてしまったものと思われます。
 〈変化〉後に教育で技術継承を行えばいいようにも感じますが、これまで学習自体が機械で行えたため、教育システムの再構築が間に合わなかったのかもしれません。まあ、そもそも「文明維持に不可欠なキーパーソンのトラック係数が1」という時点で、危機管理に難があるようですけど(笑)

 主人公であるレジョンは落ちぶれ、食い詰めてしまった男性で、運だけではなく自業自得の部分もあるにせよ(^^;)、すっかり自信を失っています。明記されていないようですが、三十代ほどと思われます。
 しかしながら、職業遍歴のためか多才で、バイタリティにあふれ、かつ非常に義理堅い性格です。レジョンはフォスターを救おうと行動しますが、その理由はフォスターが彼を紳士として扱ってくれたからです。実際のところ、レジョンに手を差し伸べてくれた冒頭の老紳士フォスターは〈変化〉によって永遠に失われてしまったはずですけど、彼自身はその恩を忘れていないわけですね。
 夢も希望も失ってしまった男が、一つの出会いをきっかけに人生を取り戻す――本書は二重の意味での『再生』の物語と言えるかもしれません。

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