大宇宙の探究者

[題名]:大宇宙の探究者
[作者]:E・E・スミス


 スペースオペラの巨匠E・E・スミス氏による異色作品です。(原題:"Subspace Explorers")
 あらかじめ述べておくと、本書はかなりの色物です(^^;) 本筋としては、心霊能力(いわゆる超能力)を得た主人公とその仲間達が社会を変革していくという流れなのですが、そこに労使紛争やイデオロギーの対立が関わってくるという不可思議な展開を迎えます。作品評価も、あまり高くはなさそうです。
 ただ、個人的には本書を「ドク・スミスの自己パロディ」として読むことでがぜん面白くなると感じています。スミス氏ご自身が意図されたものなのかは分かりませんけど(^^;)

 人類が太陽系外へ進出し、多数の植民惑星を持つようになった未来――。
 恒星間連絡船プロシオンの一等航行士カーライル・デストンは、乗客で巨大企業ウォーン・オイル社の社長令嬢バーバラ・ウォーナーと恋に落ちました。デストンは元々心霊能力をわずかながら有していたのですが、バーバラと出会ったことでその才能が開花し、二人は心から惹かれ合うことになったのです。
 しかし、突然の事故がプロシオンを襲います。ゼータ力場(作中で説明はほとんどありません(^^;))の影響で、船の金属に触れていた者は全員死亡してしまったのです。心霊能力でそれを予知して回避できたデストン達及び二等航行士セオドア・ジョーンズとバーニス・バーンズのカップル、老天才科学者のアンドルー・アダムズ、そして幾名かが生き延びました。
 五人以外の人間はならず者で、デストンとジョーンズを殺して女を手に入れようとしたのですが、彼らの返り討ちに遭い始末されます。プロシオンの亜空間推進装置は完全に壊れていたため、通常の推進装置で近隣の惑星系に辿り着き、亜空間交信装置を回復させることにします。彼らがそれを成し遂げ文明社会に帰還したとき、事故からは一年以上が経過し、二組のカップルには一人ずつ子供が生まれていました。
 諸惑星の石油採掘を担う巨大企業ウォーン・オイル社は、実は心霊能力者バーバラが油田占い女(オイル・ウィッチ)として油田を探し当てることで成り立っていました。そして、新たに心霊能力を得たデストンは、バーバラより更に強力な、史上初の金属心霊探鉱者であることが判明したのです。二人は新会社デストン・アンド・デストンを起業し、これまで知られていなかった諸惑星の金属鉱床を次々と発見していきました。
 一方、地球では労使間に大きな問題が生まれていました。資本家はひたすら労働者を搾取し、労働組合は労働者の権利を声高に訴えるせいで、産業の進歩が遅々として進まず、オートメーション化が不可能となっていたのです。
 ギャラクティック・メタルズ社社長アプトン・メーナードは、デストン夫妻による地球外の様々な金属鉱床開発の打診を受け、地球を見限ることにしました。地球を除く九十五の植民惑星では〈進歩的利己主義の原則〉に則り、資本家も労働者も声高に権利を主張せず利益の分配を公平に行っていたため、オートメーション化がスムーズに行われました。
 メーナードに賛同した諸企業も続々と拠点を地球外へと移し、〈銀河人(ギャラクシアン)〉を形成していきます。そして、〈銀河人〉達は心霊工学を発達させることで、更に勢力を強めていったのです。旧態依然とした地球社会との対立は避けがたいものとなっていきます。
 けれども、地球側には途方もない隠し玉がありました。大企業のうち唯一〈銀河人〉に与しなかったプラスチックス社は、ある生産拠点を秘密裏に開発していたのです。
 そして更に、心霊能力者すら察知できなかった巨大な敵対勢力が……。

 本書の注目ガジェットは、心霊工学――ではなく(^^;)、〈世界(ワールド)〉です。
 〈世界〉はプラスチックス社が作り上げた生産用惑星で、住人全員がプラスチックス社のために働くことから、膨大な労働力を有します。
 ただし、その住人である〈人民〉は自分達がプラスチックス社の従業員であることを知りません。〈世界〉以外に人間の住む惑星があることも知らず、それどころか自分達の信奉させられている〈会社(コンパニー)〉がどういうものかすら理解していません。
 〈人民〉は一人ずつアルファベット七桁の符号が与えられ、符号が若いほど高い地位を示すようです。最高権威であるAAAAAAAはコンパニー、もしくはプラスチックス社社長パンサンビーを現し、神格化されています。事実上の最上位は〈最高代行者(ハイエスト・エージェント)〉のAAAAAABで、この人物だけは〈世界〉に常駐しながらその真相を知っています。
 〈人民〉は複数の階層に分かれ、生まれた子供は親と同じ階層に留まります。〈人民〉の多くは生産業に従事していますが、自分達が何を作っているか知らず、知ろうとすることすら許されていません。一週間は八日間からなり、月曜から日曜に加え〈会社曜日〉が用意されています(笑) 〈会社曜日〉以外は半日労働、〈会社曜日〉だけは四分の一日だけ労働して、もう四分の一日はカンパニーに感謝しつつ娯楽に充てるという、過酷な労働形態です。
 社会の在り方に疑問を抱く者は〈悪人(マル)〉と呼ばれ、発見され次第電撃で始末されてしまいます。〈人民〉にはその手段が知られていないため、神罰と受け止められている模様です。
 まるでディストピア小説『一九八四年』のごとく抑圧された悪夢のような社会ですが、あちらの超大国は存続すること以外に目的はなさそうなのに対し、〈世界〉はプラスチックス社が望む生産を行うという明白な目的があります。資源や生産物の輸送が必要ですから、〈世界〉の外にも世界があることを〈人民〉に隠し続けるのは難しいように感じます。

 心霊工学と心霊能力にも触れておきましょう。
 日本語訳で少々おどろおどろしい印象の「心霊工学」とされているのは、原語では"psionics"(サイオニクス)です。これは超心理学の接頭辞"psi-"に工学っぽい接尾辞("electronics"のような)を繋げたSF用語で、あまり霊的な意味は込められてないようです(^^;) 二十世紀の中ごろに作られた造語ですが、さほど定着はしなかった模様。ちなみに、心霊能力は単に"psychic"(サイキック)です。
 作中では心霊能力に関する説明はあまりなく、要するにただの超能力です(笑) デストン君のように鉱床を探す力のほか、予知能力/テレパシー/テレポーテーションと、心霊工学の研究が進むにつれ様々な力を発揮します。最終的には心霊能力大学("The University of Psionics")が設立され、多数の生徒がそこで心霊能力を学ぶことになります。
 〈銀河人〉のように進歩的な気質を持つ人間は皆心霊能力者の素質があり、古い観念に囚われた人間には素質がないという、かなりご都合主義な設定ですね。心霊能力者は押しなべて倫理的ですが、その「倫理」判断自体は絶対的なものではなく、共産圏にも少なくない心霊能力者が存在しています。(この点において、作中で共産主義が誤りだと断定していないのは興味深いです)

 本作品のテーマとなる部分については、雇用者による搾取や労使紛争でのストライキを否定し、〈進歩的利己主義の原則("Principle of Enlightened Self-Interest")〉に従って行動すれば労使間には争いがなくなるというものです。
 この「進歩的利己主義」は作中だけのものではなく、実際に存在するもののようです。原則は単に「自分が他者に求めることを、他者に対して行う」というものらしいですね。ただし利他主義とは異なり、あくまで自分の利益のために行動している点が肝です。いわゆる「情けは人の為ならず」ですね(^^;)
 主張自体は頷けないこともないのですけど、現実を見れば残念ながら進歩的利己主義なるものが広く受け入れられる未来は当面なさそうです。このこともあって、物語自体はかなり雑な印象です。(心霊能力の時点で既に……(笑))
 ただ、本書は作品構造がスペースオペラ、特にドク・スミスご自身の〈レンズマン・シリーズ〉に類似した部分があります。銀河パトロール隊と宇宙海賊の戦いを連想させるストライキ闘争、そして銀河文明とボスコニアの決戦に類似する進歩的利己主義・共産主義両勢力の宇宙艦隊戦と、文章自体は決してユーモラスではないのにも拘らず、字面から笑いがこみ上げてきます(^^;)
 冒頭で述べた通り、この辺りはスミス氏が意図されたものなのか、単に似てしまっただけなのかは不明です。本書をパロディとして読むのは邪道かもしれません。悪しからずご了承ください。

 なお、スミス氏が死去されて十八年後、遺作として本書の続編"Subspace Encounter"が刊行されています。日本語未翻訳のため詳細不明ですが、未完成のエピソードを編集して一つのお話に纏めてある模様。ちょっと読んでみたいような、みたくないような……。

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