時の凱歌

[題名]:時の凱歌
[作者]:ジェイムズ・ブリッシュ


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 〈宇宙都市シリーズ〉の第四巻にして最終巻です。
 前巻『地球人よ、故郷に還れ』にて、ニューヨーク市は大マゼラン雲に安住の地を見いだしましたが、その彼らを今度は全宇宙規模の災害が襲います。
 避けられない滅亡を前にして、アマルフィは、そしてヘイズルトンは何を思い、どう行動するのでしょうか。

 大マゼラン雲の中にある惑星を、悪名高き海賊都市IMTの圧政から救ったアマルフィ達。その惑星を新地球(ニュー・アース)と名付け、ニューヨーク市は渡り鳥の日々を終えて永久にそこへとどまることになりました。
 そして、時は流れて西暦四〇〇〇年。大マゼラン雲の市長ジョン・アマルフィは、廃都となったニューヨーク市にやってきていました。彼は何とかニューヨーク市を再び宇宙へ飛び立たせることができないかと調べに来たのです。
 しかし、そこでかつての天文局長ジェーク・フリーマンに会い、彼が今の生活に満足していること、そして宇宙を放浪した日々を少しも懐かしんでいないことを知ったアマルフィは、当初の考えを断念します。それは結局、もはや大きな事件の起こることもなく、閑職となった自分の立場に飽き飽きしていたことへの代償行為でしかないと悟ったためでした。
 アマルフィは自分の地位をかつての片腕ヘイズルトンに譲り、単身宇宙へ旅立つことを決心します。ヘイズルトンはアマルフィを止めようとしますが、彼の決意を翻させることはできませんでした。
 ところが、アマルフィが行動に出る前に、新たな事態が発生します。当初、空に現れた新星と思われたものが、実は新地球に猛スピードで接近中の惑星だということが判明したのです。
 それはかつて、ニューヨーク市が依頼に応じてスピンディジーを設置し、惑星丸ごとを宇宙船と化しアンドロメダ星雲へ向けて(無責任にも(^^;))送り出したヒー星でした。当時未開だったヒー星人達は、自らスピンディジーを解析してその制御方法を理解し、アンドロメダから引き返してきたのです。
 彼らは驚くべき情報を携えていました――程なくこの宇宙が反物質宇宙と衝突し、消滅してしまうのだという破滅の知らせを。

 本書の注目ガジェットは、反物質です。
 元々、反物質とは物理学者ポール・ディラック氏がご自身のディラック方程式から導き出したもので、通常物質とは反対の電荷を持つ粒子から構成されたものです。たとえば、電子の対となる陽電子は、性質は電子と同じながらプラスの電荷を持っており、両者が衝突すると膨大なエネルギーを発して消滅することになります。
 なお、ディラック氏は真空が負エネルギーの電子で満たされているものと見なし(ディラックの海と呼ばれます)、ここに開いた穴がプラスの電荷を持つ電子(陽電子)として振る舞うという空孔理論を提唱されましたが、現在ではこの理論は使われないようです。
 作中では、反物質は通常物質とは逆方向に時間が流れているとされ、その反物質だけで構成された世界が全宇宙規模で通常宇宙と衝突しようとしていることが判明します。原題"Clash of Cymbals"は、この衝突を「シンバルを打ち合わせた様」に喩えている訳ですね。

 さて、「全宇宙の滅亡」という大がかりな設定を持ってきている本巻ですが、展開としては今ひとつ派手さに欠ける印象があります(^^;) 不老不死のせいで新地球の人々が活力を失い、滅亡をあっさりと受け入れてしまうのが一番の理由でしょうか(アマルフィと二人の若者、そしてヒー星の住人達は違うようですが)。前作の登場人物を使い、破滅テーマに仕立てた後日談的エピソードという印象です。
 政治劇・陰謀劇に宇宙への渇望を絡めた『宇宙零年』、ややビターながらも心躍るジュブナイル『星屑のかなたへ』、渡り鳥都市という設定を存分に活かした『地球人よ、故郷に還れ』、そしてキャラクタの内面に焦点を当てた破滅もの『時の凱歌』と、連作を形成しながらもそれぞれの巻でかなり作風が異なる点が〈宇宙都市シリーズ〉の面白い部分と言えるかもしれません。

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