栄光の星のもとに

[題名]:栄光の星のもとに
[作者]:ロバート・A・ハインライン


 ビッグスリーの一人ハインライン氏のジュブナイルです。
 物語の骨子は、一人の少年が惑星間戦争を通じて成長していくというもので、〈新兵物語〉的な要素はあるものの『宇宙の戦士』よりマイルドです(笑) 本作の雑誌掲載が一九五一年と、『宇宙の戦士』の八年ほど前に当たるので、本作が発想の元になったのかもしれませんね。(舞台背景は全く異なりますが)

 宇宙航行中の船で生まれ、今は地球のニュー・メキシコにあるランチート・アレグレ校へ通う少年ドナルド・ハーベイ(ドン)。
 ある日、火星にいる両親から彼に電報が届きます。それには、学業を中断して火星に来るよう記されていました。困惑するドンですが、どうやら地球と金星の間で戦争が勃発するらしいことを校長から知らされます。幼少時を金星で過ごし、今は地球に友人がいる彼にとって、それは歓迎されざるニュースでした。
 ドンは火星行きのロケットに乗る前に、電報にあった指示に従い両親の知人ドクター・ダドリー・ジェファースンのところへ向かいます。けれども、二人は治安警察官に拘束されてしまうのです。
 翌日、尋問からどうにか解放されたドンは、そこで治安警察官からドクター・ジェファースンが心臓まひで死亡したことを知らされます。しかも、ドクター・ジェファースンが彼に渡すつもりだった小包も押収され、手元に残ったのは安っぽいプラスチック製の指輪だけでした。
 意気消沈し、地球周回ステーションに向かうロケットのグローリー・ロード号へ搭乗したドンは、船内で苦境に陥っていた金星のドラゴン、サー・アイザック・ニュートンを手助けします。
 しかし、地球周回ステーションでもまた苦難が待ち受けていました。地球からの独立を目論む金星共和国の軍隊が、ステーションを占拠してしまったのです。火星行きのロケットは出なくなり、地球に戻るか金星へ向かうかの選択を迫られたドンは、やむなく金星行きを選びました。
 かくして、金星で難民として生きる羽目になったドン。無一文の根無し草になった彼は、なんとか火星へ行く術を見つけようとあがきます――指輪に隠された秘密を知らないまま。

 本書の注目ガジェットは、金星のドラゴンです。
 作中世界では、地球人類は太陽系の各所に植民を始めており、金星と火星で知的生命体とコンタクトし交流を持っています。
 このうち、金星人は大型で六本足のトカゲ型生物で、しばしばドラゴンとも呼ばれます。具体的な体長の言及はないようですけど、おそらく十メートル以上はあると思われます(ドンがサー・アイザック・ニュートンの口の中に潜り込む場面あり)。眼柄で突き出た目は複数対、頭部には自在に動かせる巻きひげがあって、これが手の代わりになる模様です。
 ホイッスルのような響き(ドンは口笛で発音)の金星語は《まことの言語》とも呼ばれ、嘘の概念がありません。これは言語自体の特徴と言うより、金星人自体の種族的特性と思われます。
 金星人には地球の言語が話せないらしく、首から下げた翻訳機のキーを叩いて発音します。この際、金星人は自分が尊敬する地球人の名前を、自分の呼び名として使います。
 総じて温和な種族で、かつかなりの長命種らしく、地球人よりも時間感覚がスローペースです。見た目こそ恐ろし気ではあるものの、かなり付き合いやすい隣人ですね。

 裏設定として、本作では数百万年前の時代に第一太陽系帝国が存在していたことが判明しています。この発見を主導したのが、考古学者であるドンの両親です。
 第一太陽系帝国の本拠地は、火星軌道と木星軌道の間にあった第五惑星で、何らかの理由により崩壊してアステロイド・ベルトになり、帝国も滅んだ――という、いかにも古き良きスペースオペラ的な背景ですね(^^;)
 記録により、古代火星人が第一太陽系帝国に参加していたことは確実のようです。一方、時代的にホモ・サピエンス出現前ですので、地球人は不参加のように思われますけど、深く掘り下げられていないため詳細は不明です。

 物語の前半は、右も左も分からないドン少年が、周囲に流されるまま金星へたどり着きます。金星共和国軍兵士に志願したことで、自らの未来を律する、いかにもハインライン作品らしき青年へと成長することになるわけです。
 ただ、結果オーライではあるものの、前半における大人達、特にハーベイ夫妻とドクター・ジェファースンの行動はいただけません(^^;) 何も知らないドンを重要機密情報の運び屋にした上で、社会情勢が緊迫する中を出国させようとするのは、彼の命を軽んじているようにしか思えないですね。ドンが怒るのも無理からぬところです。
 両親との再会後、親子喧嘩が起きるのは不可避かも(笑)

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