星間パトロール 太陽強奪

[題名]:星間パトロール 太陽強奪
[作者]:エドモンド・ハミルトン


 〈星間パトロール・シリーズ〉に属する五編のエピソードを集めた連作中編集です。
 本シリーズは収録作品『激突する太陽』を嚆矢としますが、この時点ではまだ人類は本格的に太陽系外へ進出しておらず、事件に当たる組織名も太陽系巡視隊("Interplanetary Patrol":意味的には「惑星間パトロール」)です。
 このお話が人気を博したことにより、その後のシリーズは銀河系へ進出した後の時代となり、組織名も星間パトロール("Interstellar Patrol":違いを強調すると「恒星間パトロール」)に変わります。
 基本的に各話でのストーリーの繋がりはほぼなく、舞台設定が共有されるのみです。例外的に『宇宙の暗雲』だけは長編版の『銀河大戦』と主人公が共通で、時間的にその少し後に相当します。
 また、シリーズに属する作品としてもう一作、日本語未翻訳の短編もしくは中編"The Sun People"が存在するようです。(詳細不明)

◎激突する太陽

 人類が太陽系の八惑星(作品発表当時は冥王星未発見。奇しくも現在と同じ(^^;))へと進出を果たした十万年後の未来。しかし、その太陽系には恐るべき災害が訪れようとしていました。太陽系へ接近中だった恒星アルトが突如軌道を変え、太陽との正面衝突コースに入ってしまったのです。放置すれば太陽とアルトは一年以内に激突し、人類は全滅を逃れられません。
 幸運なことに、俊秀少壮の科学者サート・センが、エーテルに振動を起こすことで光速度を出すことができる振動推進式宇宙船を開発していました。太陽系巡視船船長で英雄のジャン・トールは、〈八惑星連合〉最高評議会議長マー・ダクに推薦され、六名の乗員及びサート・センと共にアルトへ赴き、その軌道を再変更するという使命を負うことになったのです。
 途中のエーテル空洞に悩まされながらも、出発から四十日目にアルトへ到着した一行。しかし、その周囲を回る惑星には球体に手足が付いたような球体人が存在し、ジャン・トールらの宇宙船を拿捕してしまいます。太陽系の運命やいかに。

◎太陽強奪

 人類が銀河へ進出し、多数の異星人と共に銀河連邦に参加した時代。
 あるとき、銀河連邦艦隊に参加していた全ての太陽系艦艇に対し、太陽系へ帰還するよう指令が出されました。その内の一隻の艦長ラン・ララクと二等航宙士ダル・ナーラ(シリーズ唯一の女性キャラクタかも(^^;))達も、不思議に思いながら指示に従います。
 帰還した彼らが聞かされたのは、太陽系に迫る恐るべき危機でした。銀河系外から接近しつつあった超巨大な暗黒星が急に軌道を変え、太陽をかすめようとしていたのです。このままでは太陽は暗黒星の重力に捕らえられ、銀河系外へ引きずり出されてしまいます。
 この緊急事態に対し、暗黒星の軌道を変えるべく五十隻の特別な恒星船が用意され、ラン・ララクの戦艦がその船団の旗艦に選ばれたのです。
 危険なエーテル渦巻を乗り越え暗黒星へ到達した彼らは、暗黒星の表面に知的生命体が存在していることを発見するものの、円錐型飛行機の攻撃を受けてしまいました。唯一難を逃れたラン・ララク艦は暗黒星に軟着陸し、そこに棲息する知性体・触手人の行動を探ろうと潜入するのですが……。

◎星雲のなかで

 直径数光年に及ぶ超巨大な燃えるガス塊、オリオン大星雲。しかし、そこでは異常事態が起きつつありました。星雲全体が回転し始め、次第にその回転速度を速めつつあったのです。このままでは、燃えるガスの雲が分離四散し、銀河中の惑星が燃やし尽くされ銀河文明が全滅してしまいます。
 銀河連合評議会は、星雲の超高熱に耐えられる恒星間宇宙船を開発し、星雲が回転する原因追求と阻止のため、その船を送り出すことを決定しました。そして議員の中から、アークトゥルスの球根型人カー・サル、カペラの植物人間サー・サン、地球人ジョー・ダハットの三名が乗員として選ばれます。
 三人の乗る宇宙船がオリオン星雲に接近したとき、船はその焔に飲み込まれてしまいます。しかし、星雲の内部は空洞になっており、驚くべきことに惑星が存在したのです。
 地表全てが金属で覆われた惑星上を飛行中、縦坑から延びる光線に当たって宇宙船は墜落してしまいました。そして彼ら三人はその惑星の支配者、無定形の肉塊のような星雲人が目論む恐るべき計画を知ることになります、

◎彗星を駆るもの

 電気エネルギーの塊で、一部のエネルギーを放出しつつ空間を移動する天体・彗星(我々の知る彗星とはずいぶん違いますが、この世界ではそういう設定(^^;))。銀河内ではありふれた存在ですが、銀河の外に突如として超巨大な赤い彗星(笑)が現れ、銀河系へ向かって移動を始めました。このままでは、超強力な電気エネルギーが恒星・惑星を抹殺し、銀河が消滅することになります。
 星間パトロール司令官で地球人のケル・ケンは三人の副指令、毛むくじゃらのベテルギウス人ゴー・ハン、両棲動物のアルデバラン人ジャート・タル、昆虫人間のプロキオン人ナジェス・ナールに命じてパトロール艇一千隻を集結させ、その進路を逸らすべく大彗星へ向けて出発します。
 しかし、深紅の大彗星で星間パトロール艦隊を迎えたのは、謎の立方形宇宙船でした。攻撃してきた立方船を撃退し、その後を追って大彗星の尾からコマへ侵入したパトロール艦隊ですが、そこで彗星内部に複数の円盤状天体を発見します。そして、現れた幾万もの立方船に出口を塞がれてしまいました。
 多勢に無勢、六隻のみ生き延びた船団は、円盤状天体の一つに姿を隠して敵をやり過ごします。そして、不時着した仲間を救い出すべく、液体でできた生物・彗星人の都市へ潜入するのですが……。

◎宇宙の暗雲

 銀河系宇宙の中央に横たわる、光を通さない暗黒星雲。その周辺で、宇宙船が消息を絶つという事件が多発していました。
 事態を重く見た星間パトロール総司令官ラック・ラルスは、かつて他の島宇宙からの侵略に際し銀河を守った英雄(『銀河大戦』参照)、地球人ダー・ナル、アンタレス人の金属人間コーラス・カン、スピカ人の甲殻人間ジュール・ディンの三名に事件の捜査を要請します。
 三人の乗る宇宙船が暗黒星雲に接近し調査を行っていたとき、突如として謎の力が船を星雲の中に引きずり込みました。恐るべきことに、星雲の中では明かりを点けても何も見えず、三人共が盲目状態だったのです。
 彼らが手をこまねいている間に、宇宙船は大気のある惑星らしき場所に着陸させられました。全く何も見えないながらも、鰭状の手足を持つ知性体・暗黒生物が彼らを捕らえたこと、同じように失踪した船が拿捕されていることが判明します。
 暗黒生物の隙を突いて逃げ出したダー・ナルは、文字通り手探り状態で暗黒生物の都市をさまよっていたとき、かつて同じように暗黒生物に捕まったデネブ人の科学者ザット・ザナットと偶然出くわします。ザット・ザナットは暗黒星雲の研究者で、暗黒を見通すことができる特殊な眼鏡を開発していたのです。
 果たしてダー・ナル達は、暗黒生物の目論む恐るべき侵略計画を阻止できるのでしょうか。

 本書の注目ガジェットは、星間パトロールです。
 星間パトロールは銀河連合(あるいは銀河連邦?)の参加種族によって形成された平和維持組織で、本来の主たる任務は宇宙海賊の撲滅のようです(作中では銀河の危機に立ち向かうだけなので詳細不明(笑))。
 『激突する太陽』は太陽系巡視隊、『太陽強奪』は太陽系艦隊のみが登場するため構成員が地球人だけですが、それ以外のエピソードは多数の種族が協調して仕事に当たっている様が見て取れます。銀河の異星人はどれも地球人から見ると怪物的な姿ですけど、互いに固い信頼と友情で結ばれているようです。
 この「多数の異星種族が協力し合って形作る警察組織」という概念が、ハミルトン氏の発案だと言われています。本シリーズがなければ、スペースオペラの名作〈レンズマン・シリーズ〉や、あるいは〈スタートレック・シリーズ〉や〈スターウォーズ・シリーズ〉なども生まれてこなかったのかもしれません。SF史における重要なマイルストーンと言えるでしょう。

 ただ、作品的には少々難があります。科学考証の不備は置いておくとしても、それ以上に展開がワンパターン過ぎるのは頂けません(^^;) お話の流れとしては、

・銀河(太陽系)破滅の危機
・パトロール員などが調査に赴くと、新たな知的生命体を発見、相手に拿捕される
・知的生命体は絶滅に瀕しており、それを回避するために世界の破滅の原因を作り出していたことが判明
・何やかやで知性体の野望を砕き、世界は救われる

 という形をほぼ踏襲しています。
 単発の作品として読むとそう悪くもないのですが、連作集としてまとめられてしまったことで欠点が目立ってしまったような気がしますね。
 個人的には、取っ掛かりがパトロール隊らしい調査任務から始まる『宇宙の暗雲』がお気に入りです。オチも(暗黒生物にとっては)悲惨ながらもどこかユーモラスで、切れが良い印象です。

この記事へのコメント

  • X^2

    この本も読んでいるのですが、「激突する太陽」以外は粗筋が記憶になく、さらにそれも表題作の「太陽強奪」の粗筋と勘違いしていました。確かに見事にワンパターンで、どれもこれも固有名詞を入れ替えるとほぼ区別がつかないので、すべてが記憶の中でごっちゃになっているのかも。

    > 太陽とアルトは一年以内に激突し
    > エーテルに振動を起こすことで光速度を出すことができる振動推進式宇宙船
    > 出発から四十日目にアルトへ到着

    この部分が結構している少なくとも相当に無理がある気もするのですが、気にしたら負けという事でしょうか。

    > 銀河系外から接近しつつあった超巨大な暗黒星が急に軌道を変え、太陽をかすめようとしていた

    この作品での太陽系は、銀河系のほとんど外縁ぎりぎりくらいにあるという事なんですかね。

    > 超強力な電気エネルギーが恒星・惑星を抹殺し、銀河が消滅

    あるいはこの辺りの設定から考えると、そもそもこの世界の銀河系は相当に小さいのかもしれません。



    2020年06月01日 18:25
  • Manuke

    > この本も読んでいるのですが、「激突する太陽」以外は粗筋が記憶になく、さらにそれも表題作の「太陽強奪」の粗筋と勘違いしていました。

    それも無理はないです(^^;)
    (特に『激突する太陽』と『太陽強奪』は設定が似通っているので)
    『激突~』で起きたことが作中で教訓になっていなさそうなのが残念なところ。

    > > 太陽とアルトは一年以内に激突し
    > > エーテルに振動を起こすことで光速度を出すことができる振動推進式宇宙船
    > > 出発から四十日目にアルトへ到着
    >
    > この部分が結構している少なくとも相当に無理がある気もするのですが、気にしたら負けという事でしょうか。

    出発三十日後にいったんスピードを緩めてから恒星アルトへ近づくのですけど、計算してみるとこの時点で太陽-アルト間の距離は0.1光年ぐらいです。
    「一年以内に激突」となると、おそらく0.1光速より速い速度で太陽とアルトが接近していることに……。
    まあ、暗黒星や大彗星は光速度をぶっちぎる速さと思われるので、この程度の天体であれば普通に存在する世界設定なのでしょう(笑)

    # 恒星の軌道を変える方法の説明も明らかにおかしいのですが、こっちは突っ込まないw

    > > 銀河系外から接近しつつあった超巨大な暗黒星が急に軌道を変え、太陽をかすめようとしていた
    >
    > この作品での太陽系は、銀河系のほとんど外縁ぎりぎりくらいにあるという事なんですかね。

    これは、どうやらそう設定されているらしいです。
    「わが太陽系は、この円盤[※銀河系]のいちばん端に位置している」という説明がありますし。

    > > 超強力な電気エネルギーが恒星・惑星を抹殺し、銀河が消滅
    >
    > あるいはこの辺りの設定から考えると、そもそもこの世界の銀河系は相当に小さいのかもしれません。

    はたまた、彗星の持つ電気エネルギーとやらが超膨大、とか(^^;)
    (そんなに帯電していたら、反発力で彗星がたちまち崩壊しそう……)
    いずれにしても、スケール感が不足しているのは困ったものですね。
    2020年06月04日 21:25