星間パトロール 銀河大戦

[題名]:星間パトロール 銀河大戦
[作者]:エドモンド・ハミルトン


 スペースオペラ作家ハミルトン氏の〈星間パトロール・シリーズ〉に属するお話で、作品発表順では四番目に当たる長編です(残りの五つは中編)。ハミルトン氏は執筆期間が長いのですが、本作はかなり初期の作品ですね。
 〈星間パトロール・シリーズ〉最大の売りは、何と言っても“星間パトロール("Interstellar Patrol")”という組織の着想です。複数の恒星系からなる連合を母体とする銀河規模の警察組織という設定は、今でこそスペースオペラで当たり前のように登場するものですけど、それ自体がハミルトン氏の功績だと言えます。
 もっとも、本書の発表年が一九二九年ということもあり、現代の視点で見ると作品評価が厳しいものになってしまうのは致し方がないところです。展開が少々雑な上に、科学考証がほとんど活かされず、ストーリーの深みも期待できませんので(^^;) ただ、エンターテイメント性という観点から見れば、決してつまらない作品ではありません。

 今より十万年の未来――地球人は太陽系外へ進出し、多数の異星人からなる銀河連合の一員となっています。
 星間パトロール中隊長で地球人のダー・ナル(一人称主人公)は、アンタレス出身の金属人間コーラス・カン、スピカ出身の甲殻人間ジュール・ディンを始めとする雑多な種族百名余りの部下と共に、宇宙船で銀河縁辺区域をパトロールしていました。
 あるとき、彼らは銀河系外の彼方から一千光速度を超える速度で飛来する多数の物体を発見します。それらの物体は隕石などではなく、敵対的な宇宙船団だったのです。
 五千隻の敵大艦隊を相手に、数を揃えた星間パトロール巡視船団は戦いを挑みますが、こちらの宇宙船を磁気か何かで引き寄せてしまう磁石船に拘束され、なす術もなく破壊されていきます。ダー・ナルが指揮する巡視船もまた、敵宇宙船との接触により大破してしまいました。
 ここで、ダー・ナルは大胆な作戦を実行します。敵船の一隻に接舷し、それを奪取しようというのです。作戦は成功し、宇宙船に乗り組んでいた細長い体の異星人・蛇人間を撃退した後、ダー・ナル一行は銀河の中心星であるカノープス(!)へ船を持ち帰ります。
 そして、船に残されていた記録文書を調査した結果、恐るべき事実が判明します。蛇人間の故郷は銀河系に似た島宇宙ながら死に瀕しており、すぐ隣にあるアンドロメダ宇宙を侵略しようとしたものの住人に撃退されてしまったことから、代わりに銀河系へ目を付けたというのです。そして、銀河連合の全種族を殲滅した後、アンドロメダ宇宙を再侵略し征服することを目論んでいました。
 座視すれば、武力で勝る蛇人間達に銀河系の住人が根絶やしにされてしまいます。そこで銀河連合評議会は、高度な科学技術を持つと思しきアンドロメダ人に助けを求めることを決定し、その決死行にダー・ナル達が抜擢されます。
 途中、恐るべきエーテル流に遭遇しながらも、なんとか切り抜けてアンドロメダ宇宙に接近した一行。しかし、彼らの行動は蛇人間側に察知され、宇宙船ごと捕縛されてしまいます。そして、蛇人間の本拠地である、死に瀕した宇宙へと連行されていったダー・ナル達が見たものは……。

 本書の注目ガジェットは、エーテル振動の壁です。
 作中の敵対異星人である蛇人間は、エーテルを振動させて壁を形成し、彼らの生息する島宇宙(銀河)全体をすっぽり囲んでいます。超巨大ながら、ほとんど見えないほど微かな青白い光の球殻ですが、非常に堅牢で、宇宙船がぶつかってもびくともせず跳ね返してしまいます。
 唯一の入り口は、直方体型の二つの宇宙要塞に挟まれた通路だけで、無数の殺人光線放射器によって厳重に守られています。
 この壁本来の目的は、防御用と言うよりも熱の遮断用とのことです。蛇人間の島宇宙は滅亡に瀕していて、死にかけた太陽の発する貴重なエネルギーを逃さないことが主目的だとされています。
 この「恒星のエネルギーを余すところなく活用するため、天体を球殻で囲む」というアイディア、規模こそ違うものの、どことなくダイソン球に似ているように感じます。しかしながら、フリーマン・ダイソン氏が提唱したのは一九六〇年代、その発想の元となったとされるオラフ・ステープルドン氏のSF『スターメイカー』すら一九三七年です。ハミルトン氏の発想力には驚かされますね。
 もっとも、ダイソン球は一恒星系を囲む(堅牢な球殻ではなく、無数の小天体で取り囲む)だけなのに対し、こちらのエーテル振動は銀河一つを丸々ですから、難易度は桁違いですけど(笑)
 なお、このエーテル振動の壁は島宇宙を囲むだけでなく、彼らの生活する都市でも、自在に形状が変更可能かつ堅牢な壁として使われているようです。蛇人間は作中では完全な悪役扱いですけれども、その科学技術は銀河連合やアンドロメダ人よりも相当進んでいるように感じられます。

 スペースオペラというジャンル自体が未成熟な時代の作品ということもあり、本書の宇宙や宇宙戦の描写には少々難があります。SF編集者ジョン・W・キャンベル氏が否定した「宇宙船が宇宙空間で直角で曲がる」系の描写ですね(^^;)
 恒星間・銀河間という広大な宇宙空間が舞台の割には、目視で敵宇宙船の乗員が確認できたり、船同士がちょくちょく衝突したり(中の乗員は無事)と、広いんだか狭いんだか分からない状況です。まあ、この辺りはスペースオペラ全般にありがちなことですので、気にしない方が楽しめるかもしれません。
 個人的にちょっと納得がいかないのは、恒星カノープスが銀河の中心にあるとされていることです。ハミルトン氏の執筆当時、太陽系とカノープスの距離がどの程度と見積もられていたのか不明なのですが、少なくとも銀河面にないカノープスが銀河の中心になるはずはないのです。これも「気にしたら負け」なのかもしれませんけど(笑)
 逆に潔いと感じるのは、本書に全く女っ気がないことですね。そもそも、地球人だと明確に言及されたのは主人公ダー・ナルと、銀河系評議員の一人(台詞もない端役)ぐらいで、後は我々から見て怪物のような異星人ばかりです(^^;) 宇宙での艦隊戦が幾度か行われることもあり、全体的に硬派な印象です。

この記事へのコメント

  • X^2

    小学生時代に読んだ、とても懐かしい作品です。その頃はとても面白いと思っていたのですが、確かに今思い返すとかなり無理のある話ですね。

    >エーテルを振動させて壁を形成し、彼らの生息する島宇宙(銀河)全体をすっぽり囲んでいます。

    この設定は実は覚えていませんでした。このせいで銀河系から不可視になっているんでしたっけ?

    > 恒星カノープスが銀河の中心にある

    これって、「政治的中心」ではなくて、物理的中心という設定でしたっけ?「スターキング」の中央銀河帝国の首都もカノープスでしたよね。やはり大国の首都はだれもが知っている明るい星にしたいけれど、シリウスはさすがに太陽の近くの星だとわりと知られているので、次に明るいカノープスが選ばれることが多いのかも。

    > 本書に全く女っ気がない

    書かれた時代からすると当然では。女性兵士なんて考えられない時代ですし、女性のリーダーもほぼあり得なかったわけですから。

    2020年04月26日 16:20
  • Manuke

    > その頃はとても面白いと思っていたのですが、確かに今思い返すとかなり無理のある話ですね。

    お話の作り自体は、隣の銀河へ助けを求めに行くという、某宇宙戦艦な感じで面白くはあるんですけど、今の目線だと粗が目立ってしまいますね(^^;)

    > >エーテルを振動させて壁を形成し、彼らの生息する島宇宙(銀河)全体をすっぽり囲んでいます。
    >
    > この設定は実は覚えていませんでした。このせいで銀河系から不可視になっているんでしたっけ?

    「振動の壁」のせいではなく、島宇宙の星々全てが死にかけているので、暗くて見えない模様です。

    > > 恒星カノープスが銀河の中心にある
    >
    > これって、「政治的中心」ではなくて、物理的中心という設定でしたっけ?

    そのようです。「はるか前方の銀河系の中心に輝く巨大な白い星」とあるので(^^;)
    (原文は未確認)
    「私達の知る宇宙とは似て非なる別の宇宙」ぐらいに捉えたほうがいいのかも。

    > > 本書に全く女っ気がない
    >
    > 書かれた時代からすると当然では。女性兵士なんて考えられない時代ですし、女性のリーダーもほぼあり得なかったわけですから。

    中編のほうでは女性士官が登場するエピソードもあるので、星間パトロールに地球人女性メンバーがいるのは間違いないようです。
    あと、作中では蛇人間に「生ける標本」にされた多数の異星人が出てきますけど、ここで「過去、蛇人間に拉致された地球人女性のヒロインが……」みたいな展開もできなくはないかな、と(安直過ぎ)
    2020年04月27日 20:03