巨神降臨

[題名]:巨神降臨
[作者]:シルヴァン・ヌーヴェル


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 古代の巨大ロボット発掘を端とする出来事を描いた〈テーミス・ファイル〉三部作の最終巻です。
 前巻『巨神覚醒』では、地球に到来した巨大ロボットをローズが撃退した後、ローズ達を乗せたテーミスが異星へ転移してしまうところで次巻に続く、いわゆるクリフハンガー・エンディングで読者をやきもきさせてくれました(笑)
 本巻は、彼らが地球を去ってから九年後、テーミスが地球へ帰還するところから始まります。また、それと並行して、ローズ達が異星エッサット・エックトで過ごした九年間の出来事が、記録文書を通じて徐々に明らかにされていきます。九年後に何が起こるのかあらかじめ知らされつつ、その経緯が後から提示されていく、倒叙形式的な展開になっています。
 これまでと同様、物語はは記録された短い文書の連続で表現されています。エッサット・エックトでのエピソードは主にローズとヴィンセントの個人的記録(日記的なもの)、帰還後のエピソードは、ロシア情報総局員との対話や通信記録が主となります。

 異星の巨大ロボット撃退後、テーミスに乗ってお祝いのパーティーを開いていたEDC(国連地球防衛隊)科学室長ローズ・フランクリン、テーミス・パイロットのヴィンセント・クーチャー、ヴィンセントの娘エヴァ・レイエス、そしてEDC司令官ユージーン・ゴヴェンダーの四人。ところが、誰も操縦していないのにテーミスが作動し、彼らは共に謎の惑星へ転移してしまったのです。
 その惑星こそは、テーミスを始めとする巨大ロボットを建造した異星人の本拠地エッサット・エックトでした。その住人であるエックト達は、先の事件(『巨神覚醒』参照)に関してテーミスを自分たちの星へ呼び寄せたのです。
 エッサット・エックトは地球より進歩した世界ですが、その社会は差別と無縁ではありません。エックトは自分達と他の種族の混血を認めておらず、ローズ達地球人四人以外にも多数の別種族が抑圧されていました。そして、ローズ達を地球に返すかどうか、評議会はずっと結論を出さないままでした。
 ローズはエッサット・エックトに傾倒し、エヴァはエックトに抑圧された他種族のコミュニティに溶け込んでいきます。一方、ヴィンセントはエッサット・エックトが娘のためにならないと考え、エヴァを地球に返す方法を模索していました。
 そうした中、ゴヴェンダーが癌を患い、エックト達が一切の治療を拒んだことで、それまでエックトに心酔していたローズは動揺を受けることになります。

 そして転移から九年後、ローズ/ヴィンセント/エヴァ及びエックト青年エッキムが乗ったテーミスは、地球のエストニアに帰還します。
 一億人の人間が巨大ロボット団のガスで虐殺された九年前の出来事は、地球社会を一変させていました。異星人の襲来に怯えた人々により、混血の度合いが大きい者を強制収容所送りにするという差別が全世界で行われていたのです。
 EDCはもはや機能しておらず、ローズが破壊し地球に唯一残された巨大ロボットは修理され、ラペトゥスと名付けられてアメリカ一国の示威行動に使われていました。それまでラペトゥスへの対抗策を持たなかったロシアは、出現したテーミスをすぐさま確保し、自国のために利用しようとします。
 エヴァがロシアから逃げ出しアメリカ側に渡ると、アメリカは彼女の頭に爆弾を埋め込み、ラペトゥスのパイロットになることを強要しました。ヴィンセントもまた同様に、テーミスを操縦するよう毒ガスで脅迫されます。
 中国と北朝鮮が軍事行動を起こそうとしたとき、アメリカとロシアはそれぞれの有する巨大ロボットを戦場に投入することを決めました。ラペトゥスとテーミスの、そしてヴィンセントとエヴァの戦いが始まってしまいます。
 九年前と九年後――交錯する二つの物語はどのような決着をつけるのでしょうか。

 本書の注目ガジェットは、エックト("Ekt")です。
 惑星エッサット・エックトは現地語で「エックトの家」を意味する名前で、そこに住む種族はエックトと呼ばれます。エックトは、これまでの巻で明らかになっているように、脚の関節が人間より一つ多く、膝が逆方向に曲がるという特徴を持っています。また、彼らには体毛が一切生えていないようです。
 エックトは数世代前まで何千もの星を支配する大帝国を形成していましたが、現在はそこから撤退してしまったようです。女帝は未だ存在するものの政治的発言力はなく、権力は評議会に移行しています。また、面白いことに政策決定には直接民主制が取られています。(そのせいで決定が長引いたり、議題の取捨選択が恣意的だったりする問題点も)
 エックトは他種族と遺伝子が混ざり合うことを否定的に見ているようで、かつての帝国の遺産である様々な混血種族が一地域に押し込められ、冷遇されています。
 全体的に見れば温和で親切な種族なのですけど、その社会は完全無欠とは言い難いようです。また、文明のレベルが大きく異なるため、ローズ達の意見はあまり尊重されていない傾向もあります。
 なお、面白い設定としてエックトは英語の子音「L」が発音困難とされています。原語版では主に「L」が「Y」に置き換わっている模様で、"Rose Franklin"が"Rose Frankyin"と発音されます(日本語訳では「ローズ・フランクリン」が「ローズ・フランクイン」に)。一般的な日本人のように「L/R」が区別できないわけではなさそうです(^^;)

 本巻のテーマは人種差別問題、親子問題、異星社会の構造など盛りだくさんな印象です。エピソードとしての要は、テーミスとラペトゥス、巨大ロボット同士の戦いでしょうか。異星のオーバーテクノロジーを使い、米ロの威信を背負いながらも、実のところ壮大な父娘喧嘩という構図がどこかユーモラスです。
 三部作を通して振り返ると、個人的には匿名インタビュアーが強く印象に残っています。彼が前半で退場してしまうのは少し残念ですね。インタビュアーが客観的に描かれることは少ないのにも拘らず、その存在感は他のキャラクタの誰よりも強烈だったので(^^;)
 テーミス発掘から始まった大騒動の決着は、他力本願なきらいが無きにしも非ずですけど、結びが綺麗に決まった点は高評価です。やや食べ足りない感があるので、続編にも期待したいところですね。:-)

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