望郷のスターウルフ

[題名]:望郷のスターウルフ
[作者]:エドモンド・ハミルトン


 〈スターウルフ・シリーズ〉第三巻です。
 シリーズの最後に、今まで断片的に語られるだけだったスターウルフ及びヴァルナ人がようやく作中に登場することになります。無慈悲かつ誇り高い、恐るべき宇宙略奪者達ですね。
 また、本巻ではケイン君が主人公らしい活躍を見せてくれます。前々巻・前巻では外人部隊の毛色の変わったメンバーとして受動的に働いていましたけど、今回は自責の念に駆られ、また過去との決着をつけるため、主体的に物語を動かしていきます。

 外人部隊を引退して、イタリアのブリンディシへ戻っていたジョン・ディルロ。彼は何をするでもなく、無為に時を過ごしていました。そこへ、モーガン・ケインが仕事の話を持ってやってきます。
 事の発端は、ケインの古巣スターウルフが、銀河系最大の芸術的至宝とされる〈歌う太陽〉をアルケナ星系から略奪したことでした。アルケナ政府は、〈歌う太陽〉を取り戻した者に二百万クレジットを支払うと発表しています。スターウルフのやり方を良く知っているケインは、〈歌う太陽〉がバラされて盗品市場へ流れたものと推測し、それを回収すれば大金を手に入れられると考えたのです。
 ケインはディルロに、彼が家を建てることもなく無為に過ごしているのは、家を建ててしまえば地球に縛り付けられてしまうからだと指摘します。ディルロは渋々それを認め、ケインの案に乗ることにしました。
 惑星ヴァルナを含む〈アルゴ星系突起〉は、非人類型の知的生命を多く含み、ヴァルナ人のみならず危険な種族が多い宙域でした。ケインはディルロと二人で、惑星ムルウンの盗品市場の商人クロヤ・クロイを襲撃し、〈歌う太陽〉の買い手の情報を得ます。また、ここでテディベアに似た姿のパラガラ人の大男グワアスを仲間にしました。
 更に、〈歌う太陽〉の買い手の一人、嵐が吹き荒れる惑星リスの支配者エロンを襲撃し〈歌う太陽〉を盗み出そうとしたところ、エロンはクロヤ・クロイからの連絡でそれを察知しており、外人部隊全員が拿捕されてしまいました。
 しかも、エロンは既に〈歌う太陽〉を転売しており、全ての〈歌う太陽〉はクアジャル人が買い占めたと言うのです。クアジャル人は自分達の存在を秘匿しつつ、宇宙各所の様々な財宝をコレクションする唯美主義者ですが、非常に排他的で他種族を嫌っており、惑星丸ごとを爆弾と化した多数の殺戮惑星(リーサル・ワールド)で守備を固めています。
 ケインとエロンは交渉の末、報奨金を山分けする代わりとして、ケイン/ディルロ/グワアスの三人だけでクアジャル人の住む惑星クランへ出向くことになります。しかし、遠距離から生命体に苦痛を浴びせる放射線のせいで、彼らの宇宙艇はクランに着陸することすらできず、這う這うの体で逃げ出す羽目になります。
 引退していたディルロを引っ張り出した挙句、苦痛で憔悴させてしまったことにケインは責任を感じ、一人で惑星リスを脱出します。彼が向かったのは故郷の惑星ヴァルナ、銀河系最凶の宇宙海賊スターウルフをクラン襲撃に利用しようというのです。
 しかし、彼は仲間のスサンダーを殺したことで、その一族から命を狙われる身です。ケインは無事、〈歌う太陽〉を回収することができるのでしょうか。

 本書の注目ガジェットは、ヴァルナ人です。
 ヴァルナは重力が強く、かつ資源の乏しい惑星です。暗黒星を無数に含む、銀河でも評判の悪い領域〈アルゴ星系突起〉に属します。
 ヴァルナ人は、高重力環境で生きるために極めて力が強く、敏捷な種族です。全身は黄金色の体毛に覆われ、頭の形は地球人とかなり異なります。作中でしばしば虎や豹に喩えられることから、猫科の生き物に似ているのでしょうか。ヒューマノイドですが、地球人との類縁関係は不明です。(同じく全身に毛が生えたパラガラ人は、「ヒューマノイドではあるが人間ではない」とされています)
 ヴァルナ人は地球人訪問前から惑星内で抗争を繰り返す、元々闘争心の強い種族だったようです。地球人から恒星間航行用エンジンの作り方を入手後、その頑強な肉体から来る高G耐性を活用し、銀河で最も恐れらる宇宙海賊スターウルフとなったわけです。
 ヴァルナ社会は、他の星系から財宝を強奪することにより富を得る、文字通りの略奪経済と思われます。ただ、よその星から買ってきて済ませるわけにはいかないものも当然あり、生産や事務などに従事する者も存在するはずです。惑星ヴァルナは高重力のためヴァルナ人以外が立ち寄りませんから、強奪に参加しない女性が主にそうした仕事を担っているのかもしれませんね。
 人々を纏める唯一の行政機関として住民評議会があり、これは過去に大略奪を成功させた大物達二十人の合議制により運営されているようです。もっとも、ヴァルナ人は個人主義で、そもそも法律すらないため、社会規範はもっぱら個々人の誇りによって形成され、卑怯な真似は疎まれます。地球人的な道徳的観念は希薄ですけれど、彼らなりの信念があり、案外気のいい連中かもしれません。
 なお、外人部隊では力の強さと敏捷性で一目置かれたケインも、本物のヴァルナ人の中では小柄で虚弱となってしまいます。ただ、身体的に不利な地球人ながらも、成人してスターウルフにまでなったケインのことを、ガッツがある男だと評価するヴァルナ人は多いようです。

 本書はケインが単独行動を起こすため、外人部隊隊長ディルロの出番は少なめです。けれども、その立ち位置は前々巻・前巻と比べても重要に感じられます。
 元々、ケインは略奪集団スターウルフの一員であり、外人部隊に属してからもその態度は決して褒められたものではありません。しかしながら、本巻で彼は「利害を考えれば殺した方がいい相手を殺さない」という選択肢を選びます。その理由は、ディルロが殺人を嫌うからです。
 ヴァルナ人は基本的に「やられたらやり返す」ことが当然の権利だと認識しています(事の発端であるスサンダー殺害は社会的な罪に問われてさえいません)。その考えに染まっているはずのケインが、自分の敵を殺さないことは、いかに彼にとってディルロが重要な存在なのかを伺わせます。
 おそらくですが、ケインはディルロの中に父親像を見ているのではないでしょうか。幼少時に父母を失った彼が、自分を匿い、厳しくも指導してくれる尊敬すべき年配の男性に父性を感じても不思議ではありません。
 一方でディルロも、外人部隊の仕事で家を空けていたときに火事で妻子を亡くしており、未だにそれを引きずっています。彼もまた、成長した息子の姿をケインと重ねているのかもしれませんね。(だとしたら、相当に手のかかる息子ですが(^^;))
 ケインはディルロの下で、新たな生き方を学んでいくのでしょう。もはやスターウルフではなく、さりとて生粋の外人部隊員でもない彼は、果たしてどんな人間へと成長していくのでしょうか。

 本書はディルロの言葉によって締めくくられます。根無し草である宇宙船乗り(スターマン)の寂寥と誇りが込められた、印象的な台詞です。
 〈スターウルフ・シリーズ〉はハミルトン氏の晩年に執筆された作品です(特に第四巻となるはずだった"Run Starwolf"は、氏の死去により未完)。そのせいか、〈キャプテン・フューチャー・シリーズ〉と比べ派手さには欠ける一方、硬派で荒唐無稽さが控えめのお話に仕上がっています。
 何より、星々の世界への憧れが登場人物達の言動を通じて湧き上がってくるのが良いですね。作風は違えど、本作もまた名作スペースオペラの一つであることは疑いありません。

この記事へのコメント

  • X^2

    読んだのがずっと以前の成人前なので、結末がどうなったのか記憶が定かでないです。
    ヴァルナ人が〈歌う太陽〉をばらして売ってしまった後で、クアジャル人が全てを買い集めて自星で組み直したというのは、むしろクアジャル人の行為が文化的に正しい訳で、ヴァルナ側が騙されたと怒るのは筋が通らないと子供心にも思いました。尤もそれが理解できる人たちではなさそうですが。
    2019年09月28日 23:45
  • Manuke

    クアジャル人をこき下ろすのは、ヴァルナ人と言うよりケイン君ですね。クアジャル人はせいぜい盗品と知りながら〈歌う太陽〉を買った程度で、むしろケインの方が略奪者なので、責められるいわれはないはずなのですけど(^^;)
    安全な遠距離から相手に苦痛を与える攻撃は、ヴァルナ人から見ると卑劣に映るようなので、それが許せなかったのかも。
    2019年10月01日 23:34