さいはてのスターウルフ

[題名]:さいはてのスターウルフ
[作者]:エドモンド・ハミルトン


 〈スターウルフ・シリーズ〉第二巻です。
 前作『さすらいのスターウルフ』で、外人部隊へ所属することになったケイン君。本作でも引き続き、ディルロ隊長の下で傭兵のミッションを遂行することになります。
 今回の任務は、行方不明になった大富豪の弟の捜索です。果たして、彼らは無事に目的を達成することができるのでしょうか。

 アケルナー星系での仕事(『さすらいのスターウルフ』参照)を終え、地球へと帰還した外人部隊。地球人ながらも惑星ヴァルナで生まれ育ったモーガン・ケインにとって、それは初めての地球訪問でした。
 宇宙外人部隊の隊長ジョン・ディルロは、巨大企業アシュトン貿易会社の社長ジェームズ・アシュトンに仕事を依頼されます。それは、ジェームズの弟で星間人類学の第一人者であるランドール・アシュトンの捜索でした。ランドールは異星人を拒絶する閉鎖星系へ仲間達と赴き、数ヶ月間消息不明だと言うのです。ディルロはランドールが死亡している可能性が高いことを依頼主へ伝えながらも、巨額の報酬と、自分が老いぼれて仕事ができないのだと言われたくないがために、その依頼を受けることにしました。
 一方、ヴァルナと比べれば刺激の少ないニューヨークに退屈していたケインは、両親の故郷であるウェールズのカーナヴォンへ赴くことにしました。ヴァルナに似たところのある荒涼とした風景と、荒っぽいが気のいい男達と出会い、ケインはこの土地が好きになります。
 ニューヨークへ戻った後、ケインはディルロ率いる外人部隊の一員として閉鎖星系の惑星アルクウへ向かいます。しかし、アルクウ人は非常に排他的で、ディルロ達はけんもほろろに追い返されてしまいました。ところが、このときケインだけは、ビルの窓が船間通信用点滅符号(モールス符号のようなもの?)で“ASHTON”と点滅していたのを見逃しませんでした。
 ディルロはメンバーを厳選し、滑空飛行艇で秘密裏に惑星アルクウへ侵入した後、目的のビルへ突入します。そこには、気の強いアルクウ人の娘ヴレヤと、アシュトン調査隊の一員マーチン・ガルシア博士がいました。そして彼らから驚くべき話を聞かされます。
 アルクウは今でこそ衰退しているものの、かつては非常に高度な文明を持っており、その一つが「空間の自由移動の秘密」なのだと。そして、空間の自由移動を使えば、精神のみを宇宙のどこへでも瞬時に行くことができ、これを得るためにランドール・アシュトン達はアルクウを訪れたのだと。
 ディルロ達は半信半疑ながらも、アシュトン達の足取りを追って密林地帯へ向かいます。しかしそこは、かつて栄えた文明の負の遺産、恐るべき人工生物ネインの住処だったのです。

 本書の注目ガジェットは、「空間の自由移動」("Free-Faring")です。
 これは古代アルクウ人が作り出した、肉体はそのままに精神のみを宇宙のどこへでも瞬時に飛ばすことができるという技術です。幽体離脱のようなものでしょうか?(^^;)
 詳細不明ですが、青白い光を放つ台の上に体を横たえるだけで発動します。ただし、肉体との繋がりを断ち切るわけではないらしく、横たわった体の方が死んでしまえば精神も死亡するようです。当然ながら、長時間にわたって自由移動を行うと肉体が衰弱してしまいます(多分、トイレ休憩も必要?(笑))。また、精神が抜けた状態の肉体を台から降ろすと、精神が戻ってこられなくなります。
 自由移動状態の精神は、ただ念ずるだけで宇宙を自在に移動し、何の制約もなくどこへでも行くことができます。もっとも、精神は視聴覚情報を受け取るのみで、対象に干渉することはできません。同じ状態の精神同士はテレパシー的な手段で会話可能です。
 体験としては神の視点で宇宙を見ることができるようなもので、ランドール・アシュトンらは完全に魅了されてしまいますが、スターウルフ気質のケインの肌には合わなかった模様。作中の描写を見る限り、実際に精神を宇宙の彼方へ飛ばすと言うより、遠い宇宙の風景を体感できる没入型の仮想現実システム(いわゆるフルダイブVR)のような気がしないでもないですね。
 なお、古代アルクウ人は、皆がこの自由移動の魅力に取り憑かれてしまったせいで滅亡したとされています。システムに「長時間の自由移動は健康を損なう恐れがあります」と警告する機能があればよかったのかも。:-)

 本書では、アルクウ人ヴレヤがヒロイン的な位置付けになっています。(アルクウ人は肌が青みを帯びた黄金色、髪が黄色の人類で、おそらくは地球人と先祖が共通)
 惑星アルクウを含むアルベイン星系は異星人との接触を拒む鎖国状態となっており、ここから閉鎖星系(クローズド・ワールド)とも呼ばれています。ただ、全員が鎖国に同意しているわけではなく、中には星系解放主義者(オープン・ワールダーズ)と名乗るレジスタンスも存在します。
 ヴレヤも解放主義者の一人で、他星系との交流が必要だとする他、失われた遺産となっている「空間の自由移動」の復活も望んでいます。このことから、ランドール・アシュトンに協力しているわけです。
 かなり気が強く豪胆な性格で、手が出るのも早く、そんなことろがケインの好みに合ったようですね。もっとも、「空間の自由移動」に関する見解はケインとは異なり、虜になる危険を認めつつも運用次第だと考えているようです。
 登場は本巻だけですが、ケインには強い印象を残したようで、ヴァルナ人女性以外で魅力を感じたのは彼女一人のみといった台詞もあります。確固とした自分を持った、なかなかに魅力的なキャラクタです。

この記事へのコメント

  • X^2

    以前に「惑星タラスト救出せよ!」のコメントで書きましたが、同作に登場した〈喪心の刑〉が"Free-Faring"と同系統のものに思えます。どちらも主人公に取って辛く感じたのも同様です。ただ〈喪心の刑〉では受刑者同士すらコンタクトできないようなので、余計に辛いでしょうね。
    2019年09月08日 22:30
  • Manuke

    > 以前に「惑星タラスト救出せよ!」のコメントで書きましたが、同作に登場した〈喪心の刑〉が"Free-Faring"と同系統のものに思えます。

    おお、そうでした。
    読み返してみると、確かに似ていますね。

    > どちらも主人公に取って辛く感じたのも同様です。ただ〈喪心の刑〉では受刑者同士すらコンタクトできないようなので、余計に辛いでしょうね。

    加えて、あちらは移動能力もほとんどなさそうです。
    その一方で、〈喪心の刑〉はテレパシー交信機さえあれば近くの人間と会話できるので、精神が実際に移動しているのでしょうね。刑罰以外にも有用な使い道がありそうな気がします(^^;)
    2019年09月10日 21:11