ドルセイへの道

[題名]:ドルセイへの道
[作者]:ゴードン・R・ディクスン


 未来史〈チャイルド・サイクル〉の一エピソードです。
 元々のディクスン氏の構想では、〈チャイルド・サイクル〉は十四世紀から始まる壮大な物語になる予定だったようです。シリーズは未完に終わってしまったため、本書の舞台である二十一世紀が一番古い年代になります。作中設定では、人類の恒星間進出を目前にした時代ですね。
 原題は"Necromancer"で、翻訳版あとがきでは「占い師、もしくは魔術師の意」とされていますけど、最近はファンタジーRPGの影響から「死霊術師」と訳される言葉です。(実は、ここ重要だったり(^^;))

 青年ポール・フォーメインは、少し周囲から浮いた存在でした。彼には〈自分の身を守るための利己本能〉が欠落しており、それが知人を当惑させる原因となっていたのです。また、彼は五年前、小型ヨットの遭難事故を起こしており、それ以降奇妙な幻に悩まされています。
 鉱山で技師として働くことになったポールですが、発生した貨車脱線事故へ対処するため坑道へ降りたとき、事故に巻き込まれ左腕を失ってしまいます。
 それから八カ月後、ポールは失われた左腕の再生方法を求めてシカゴへやってきていました。欠損した部位を補う医学技術は存在するのですが、ポールの肉体は代替器官接合に心理学的な拒否反応を示しており、その原因は不明でした。更に不思議なことに、残された右腕はかつてよりも大きく頑強に発達し始めていたのです。
 接合拒否の原因を見つけられない精神科医に見切りをつけた後、ポールは〈礼拝ギルド〉を訪れることにしました。〈礼拝ギルド〉は文明の完全破壊を訴える過激な異教者集団ですが、ポールは以前からニュースで拝見していたギルドマスターのウォルター・ブラントに興味を惹かれていた上、その教義の中に「失われた四肢の再生」が謳われていたためです。
 ギルドの呪術師ジェイスン・ウォーレンの面接を受けたところ、ポールは〈礼拝ギルド〉の教義を受け入れていないにも拘らず、その神秘的な〈第二の力〉を部分的に有しているらしいことが判明します。しぶしぶながら、ポールは〈礼拝ギルド〉に招き入れられることになりました。
 こうしてポールは、ギルドにまつわる様々な事件に巻き込まれていくことになります。〈第二の力〉とは何なのか、ウォルター・ブラントは何をしようとしているのか、そしてポール・フォーメインとは一体何者なのか――事態は誰も予想していなかったところへと収束していくのです。

 本書の注目ガジェットは、〈第二の法則("Alternate Laws")〉もしくは〈第二の力("Alternate Forces")〉です。
 とは言うものの、実際に〈第二の力〉がどのような能力なのか、よく分かりません(笑) 念動力やテレポーテーションといった、いわゆる超能力と言われるもののほか、四肢再生といった身体の制御、果ては精神・人格そのものを操るような能力が含まれるようです。〈第二の法則〉は、そうした〈第二の力〉を引き出すためのルールでしょうか。
 ウォルター・ブラント率いる〈礼拝ギルド〉は、その〈第二の法則〉を教義として与えることで信奉者に能力を授けているようです。ただ、主人公ポールは〈礼拝ギルド〉に属する前からこの能力を若干ながら有しており、これがストーリー上の鍵になります。

 本書は、ストーリーとしてはややアンバランスな感があります。
 特に前半から中盤にかけては、ポールの行動原理と肉体の異変の理由、〈礼拝ギルド〉の目的、各登場人物の立ち位置、といったかなりの部分が不明なまま事態が進行していきます。展開も、殺人事件あり、〈第二の力〉にまつわるエピソードあり、人類の行動を制御しようとするスーパー集合コンピューターとの対決ありと、取っ散らかった印象です(^^;)
 これが、終盤で一気に収束し、ピースが噛み合う様は爽快です。
 ポール・フォーメイン君は設定とは裏腹に極めて自己が確立されており(しばしば他人から傲慢と評されます)、いささか感情移入を拒むキャラクタではありますが、その理由もむべなるかな、といったところですね。ただ、物語を振り返ってみると、あまり自発的に行動することはなく、他者の思惑にひたすら翻弄される巻き込まれ体質のように見えなくもないのですけど(笑)
 本書の終わりをもって、人類が地球という単一の惑星上に住んでいた時代は終焉し、複数の恒星系に分散した〈分離文化(スプリンター・カルチャー)〉が始まることになります。はてさて、それは誰の思惑だったのでしょうか。

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