ドルセイ!

[題名]:ドルセイ!
[作者]:ゴードン・R・ディクスン


 G・R・ディクスン氏の未来史、〈チャイルド・サイクル("Childe Cycle")〉に属する作品です。
 ディクスン氏と言うと、ポール・アンダースン氏と共著されたユーモアSF〈ホーカ・シリーズ〉(テディ・ベア似の可愛らしい異星人ホーカ達のお話です)で知られる方も多いでしょうけど、代表作となるとこちらの〈チャイルド・サイクル〉なのではないかと思われます。日本語未翻訳の巻がいくつかあることに加え、作者死去のためシリーズは未完に終わってしまっているのは残念ですが。
 大枠としては、人類が三つの文化軸、勇気・哲学・信仰の対立の中から新たな進歩を目指していくというもののようで、中でも勇気を代表する傭兵惑星ドルセイの人々が中心となる場合が多いことから〈ドルセイ・シリーズ〉と呼ばれることもあります。同じ理由で、ミリタリーSF色もやや強めですね。
 ドルセイの出身ながら、普通のドルセイ人とは異なる洞察力を備えたドナル・グレイム。連戦連勝の軍功で英雄となっていく彼の行く先は……。

 超光速航法ハイパードライブにより、近隣の恒星系へと進出した人類は、いくつかの異なる文化圏を形成していました。その中でも資源を持たない惑星ドルセイは、訓練により自分達を優れた兵士とし、傭兵として別世界へ出稼ぎに出ることで糧を得ています。
 二四〇三年、ドルセイ人青年ドナル・グレイムは成人し、傭兵となるために惑星ドルセイを離れることになります。彼はドルセイ人の父とマラ人の母の間に生まれ、勇猛果敢なドルセイ魂を持ちながらも、同胞達にはない洞察力を有していました。
 友邦世界に向かう宇宙船の中で、ある出来事をきっかけに商業惑星セタの皇太子ウィリアムと面識を持ったドナルは、惑星フライランドの部隊長の座を獲得します。そして、惑星ハーモニーで行われた軍事作戦でただ一人、統一教会軍の奇襲を察知した彼は、部下を用いて少ない犠牲で敵を壊滅させるという戦果を上げます。
 ところが、これはウィリアムの望むところではありませんでした。ウィリアムは奇襲によるフライランド軍全滅と、司令官ヒュー・キリエンの自死を目論んでおり、ドナルはそれを読んでいたのです。
 フライランド軍元帥でドルセイ人のヘンドリック・ゴールトの知遇を得て、小型宇宙戦艦の先任士官となったドナルは、対ニュートン・カシダ連合との戦いにおいて劇的な勝利を収めます。そして更に、友邦世界の戦役最高司令官としても……。
 ドナルの視線の先には、ウィリアムがいました。彼は、世界に干渉し人々を操るウィリアムを危険視していたのです。度重なる勝利で複数世界に知れ渡る英雄となりながら、それ故に孤独なドナル。世界を意のままにしようと暗躍するウィリアム。二人の対決はどのような結末を迎えるのでしょうか。

 本書の注目ガジェットは、〈分離文化(スプリンター・カルチャー:"Splinter Cultures")〉です。
 〈チャイルド・サイクル〉における二十五世紀では、人類は太陽系以外の七つの恒星系に進出し、いくつかの異なる文化圏を形成しています。これが〈分離文化〉です。
 作中では、この世界設定に関して明示的な説明はなく、物語の中で断片的に語られるのみです。あらかじめ把握しているとストーリーが追いやすくなると思われますので、以下に恒星系と主要な惑星を示しておきます。

◇太陽系:金星/旧地球/火星
◇アルファ・ケンタウリ星系:ニュートン/カシダ
◇シリウス星系:新地球/フライランド
◇エリダヌス座イプシロン星系:アソシエーション/ハーモニー
◇プロキオン星系:マラ/クルティス/セント・メリー/コービー
◇くじら座タウ星系:セタ
◇アルタイル星系:ダニンズ・ワールド
◇フォーマルハウト星系:ドルセイ

 恒星は全て実在の星、かつ最遠のフォーマルハウトが太陽系から二十五光年と、現実感のある設定になっています。(太陽系外の惑星は架空のものですが(^^;)
 このうち、エリダヌス座イプシロン星系は友邦世界(フレンドリー:"The Friendlies")と呼ばれ、かなり宗教に凝り固まった狂信的な社会を形成しています。
 また、プロキオン星系は異邦世界(エキゾティックス:"The Exotics")と呼ばれ、高度な哲学を追求し、中には超常能力を有する者もいます。
 金星・ニュートン・カシダは、ハードサイエンスを信奉する〈金星グループ〉を形成しています。
 セタは単独ながら一大商業圏の中核を担っており、侮れない勢力です。
 それ以外の惑星は、中間的立場だったり、ドルセイのように独特の個人主義社会だったりと様々です。
 なお、シリウス星系に新地球("New Earth")と命名された惑星があることから、本来の地球は旧地球("Old Earth")と呼称されるようになっています。この時代においては、古い文化圏として求心力を失っているようです。

 惑星ドルセイは優秀な傭兵を輩出する星として知られ、ドルセイ人はその戦闘技術と勇敢さに敬意を払われていますが、一般人からは短気で粗暴な人種と認識されている模様です。
 主人公ドナルは、そうしたドルセイ人的気質(≒戦闘狂(^^;))を持ちながらも、同時に冷徹な分析眼・状況判断力・他者の性格を読み取る能力を有し、子供のころから変わり者として疎外感を味わっています。指揮官としては有能ですけど、他人の非合理的行動を理解できないという側面もあります。ドナルは母からそうした洞察力を受け継いでおり、そのルーツは異邦世界にあることが作中で明かされます。
 一方、敵役を担うウィリアムは、商業惑星であるセタの皇太子としての高い地位を利用し、裏から世界を操ろうとしています。ドナルの見るところ、ウィリアムの目的は全世界を支配下に収めることのようです。
 ただ、ドナルがここまでウィリアムを危険視する理由が、個人的には今一つピンと来ません。確かに危険人物で、かつ大きな権力を有する男ですけれども、そのくらいの野心を持った人間は少なくないように思われます(終盤では残忍なことも行いますが、これは追い詰められたからかも)。恐るべき野心家という意味では、むしろドナル本人の方が遥かに危険人物のような気がしなくもないです(笑)

 ストーリーとしては、ドナルは複数の恒星系をまたいで活躍するダイナミックな展開が見所です。単なる士官候補生に過ぎなかった青年が、次々と軍功を挙げて立身出世していく辺りは王道的な面白さですね。
 もっとも、振り返ってみると作中主要キャラクタの大半は、ドナルが最初に乗った宇宙船の中で出会っていることになります。〈チャイルド・サイクル〉の世界は、広いようで意外に狭いのかもしれません(^^;)

この記事へのコメント