軌道学園都市フロンテラ

[題名]:軌道学園都市フロンテラ
[作者]:ジョーン・スロンチェフスキ


 静止衛星軌道上に置かれたスペースハビタット、フロンテラ大学を舞台とする近未来SFです。
 本書の内容はかなり盛りだくさんで、ジャンル分けが困難なのですが(^^;)、やはりメインとなるのは主人公ジェニーを中心に据えた青春小説でしょうか。
 これに加え、環境/政治/宗教/情報インフラ/デザイナーズ・チャイルドといった諸問題が取り上げられ、かなりのボリュームになっています。更には、異星生命体との接触という大がかりな内容も盛り込まれており、物語後半はダイナミックに物語が動き出すのが見所です。

 二十二世紀、世界には様々な危機が訪れていました。
 悪化する温暖化の影響で、不毛地帯デスベルトが拡大し、身の回りからは多数の動植物が姿を消しています。一方で、南極は肥沃な土地へと変わり、その領土を巡って国際紛争が激化していました。
 海面上昇も続いており、住居が海没し難民となる人々が後を絶ちません。しばしば洪水が発生し、多大な被害をもたらしています。
 また、地球外からやってきたと見られる奇妙な生命体ウルトラファイトが跋扈し、その青酸ガスのせいで多数の人間が命を落としていました。
 アメリカでは、「宇宙など存在せず、星は蒼穹("the Firmament")に張り付いた光だ」と考えるキリスト教徒が多数派となり、彼らの推す中心党が政権を握っています。

 ジェニファー・ラモス・ケネディ(ジェニー)は、複数の大統領を輩出した名家の少女で、中心党と対立する統一党一派の秘蔵っ子と目されています。しかしながら、ジェニーは双子の兄弟ジョーディを津波で亡くしたばかりであり、また群衆を前にすると言葉が出せなくなるという弱点を持っていました。
 高校を卒業したジェニーは、進学先として静止衛星軌道にある唯一の学園都市・フロンテラ大学を選びます。ここならば、DIRG(警備ロボ)を常時同伴する必要もなく、優れた環境下で希望を植物学専攻に専念できると考えたためです。
 フロンテラに入学すると、アスペルガー症候群で会話が成り立たないメアリ・ダイアーが彼女の同室者になりました。そして、元アーミッシュのトム・ヨンダー、頭はよいもののクラッカー気質のアヌーク・シュレイフといった友人達と親交を深めつつ、勉学・スポーツ・ボランティア活動にてんてこ舞いの日々が始まります。
 けれども、一見すると理想の学舎に見えたフロンテラ大学は、様々な問題を抱えていました。そして、誰も予想しなかった驚くべき事態も……。
 ジェニーはフロンテラで何を得ることになるのでしょうか。

 本作の注目ガジェットは、トイボックスです。
 トイボックスとは、拡張現実と仮想現実の機能を併せ持った情報ネットワークシステムで、ダイアドと呼ばれる何らかの装置(?)を額に貼り付けることで、視覚や聴覚に介入して様々な情報を直接見聞きすることができるようになります。
 目の前に浮かんで見える光の立方体の中に情報を表示させることができ、操作もまばたきや意識だけで行えるようです。我々の知るコンピュータのようにモニターやキーボード、タッチパネルなどの入出力デバイスを必要としないわけですね。また、トイルームと呼ばれる設備を使うことで、仮想世界の中に入り込むこともできます。
 但し、良いことばかりではありません。トイボックスは世界中の人々と常時繋がっており、ニュース番組でインタビューを受けた際などにはリアルタイムで視聴者の反応(支持率)を知ることができます。このことが、衆愚政治にかなり拍車をかけている模様です。繋がりすぎてしまうのも善し悪しですね。:-)

 また、異星生物ウルトラファイト("ultraphyte")も作中で重要な位置を占めています。
 ウルトラファイトは地球外からやってきたとおぼしき、一つ一つの細胞がリンゴほどの大きさを持つ奇妙な生物です。細胞数は必ず素数個(多くは十三個)からなり、細胞同士の合議制により行動を決定しています。
 危機に陥ると青酸ガスを放出するという性質があり、多数の死者を出していることから見つけ次第駆除対象となります。フロンテラ大学はウルトラファイトを持ち込ませないよう細心の注意を払っています。 もっとも、このくらい奇妙、まして地球外生命ともなれば、大学で研究していてしかるべきもののような気もしますが。

 作中にはとにかく大量のネタが詰め込まれ、独特の世界を形成しています。
 家具や食物はおろかウイルス(インフルエンザやエボラなど)も印刷可能な3Dプリンタが存在したり、自在に遺伝子をデザインできるため多くの子供達がポール・ニューマンやマリリン・モンローの遺伝子を受け継いでいたり、多数のスペースデブリのせいでロケットの打ち上げが困難になっていたり、税金はカジノでお金を賭けることで支払うことになっていたり……。
 そのせいでストーリーがやや散漫になっているきらいはありますけど(^^;)、これにより現実感のある世界が浮かび上がってきます。それは、なんとも俗っぽい、グダグダで近視眼的な未来社会です。しかしながら輝かしい科学文明や、あるいは強大な権力に抑圧されたディストピアなどよりもずっと、現実の世界の延長線上にあるように感じられます。
 大枠はジェニーの青春物語であり、また終盤には少々どんでん返しもあるものの、作品全体の肝はこの未来観にあると言えるかもしれません。もっとも、あまり来て欲しくない未来ではありますけど(笑)

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