地球からの贈り物

[題名]:地球からの贈り物
[作者]:ラリイ・ニーヴン


 このお話はニーヴン氏の人気作品群〈ノウンスペース・シリーズ〉に属する、ある植民地惑星での事件を描いたSF小説です。
 本書は〈ノウンスペース〉の中でもとりわけ密度が高いお話と言えるでしょう。大筋は植民地における支配階級と抵抗組織の諍いに巻き込まれた青年の物語なのですが、きっかけとなる「地球からの贈り物」、主人公の持つ謎の能力、植民地〈プラトー〉の社会構造、主要人物から端役に至るまでの各キャラクタが持つ役割の明快さ、某人物のあんまりな扱い(笑)、そしてフィナーレを飾る出来事と、とにかく各要素が綿密に絡み合いながら展開していきます。しかも、そうした内容の濃さを持ちながらも決して重い印象はなく、むしろ軽快に読み進めることができます。
 地球から植民地〈プラトー〉へ送り届けられたラムロボットには、社会の変革を迫る新たなテクノロジーが搭載されていました。それが引き起こす騒動に、鉱夫のマットは巻き込まれてしまうのです――自分の持つ特殊能力の存在を知らないまま。

 地球から遠く離れた惑星マウント・ルッキッザットにある植民地〈プラトー〉。ここでは乗員と移民の二階級に分かれた封建社会が築かれていました。
 かつて植民用宇宙船を操縦してきた者達の子孫である乗員は特権階級として享楽をほしいままにし、一方乗客の子孫である移民は労働階級として搾取されています。そして罪を犯した移民は、それが軽犯罪であれ裁判抜きで死刑を申し渡され、移植医療用の臓器にされてしまうのです。不満を抱く者はいましたが、表面上〈プラトー〉社会では平和が保たれていました。
 ところがあるとき、無人宇宙船であるラムロボット一四三号が、地球で発明された新技術を携えてマウント・ルッキッザットへと飛来します。それは大変に素晴らしい贈り物であるのと同時に、〈プラトー〉社会を瓦解させてしまいかねないほどの影響力を持つものだったのです。
 そんなおり、鉱夫として働く青年マシュー・リイ・ケラー(マット)は、酒場で旧友ジェイホーク・フッドと再会しました。そしてフッドに誘われ、ハリー・ケインが主催するパーティーへと参加したのです。けれども、それはただのパーティーなどではなく、乗員の支配を良しとしない革命グループ〈地球の子ら〉が連絡を取り合うための隠れ蓑らしいことにマットは気付きます。
 統治警察もまたそれを察知しており、パーティー参加者は皆一網打尽に拘束されてしまいます。〈地球の子ら〉側にラムロボットの積み荷を知られた可能性があったためでした。
 しかし、パーティーに参加した人間のうち、マットだけがその包囲網から逃れることに成功します。それは彼自身すら知らない、ある特殊な能力のおかげだったのです。

 本書の注目ガジェットは、マウント・ルッキッザット("Mount Lookitthat")です。
 太陽系から十一・九光年離れたG型恒星、鯨座タウ星の周りを回る惑星とされています。地球よりも金星に似た星で、濃密で有毒な大気と超高温のせいで人が生きるには適しません。但し、この惑星には高さ六十四キロメートルに達する巨大な山があり、その頂上にある平原のみが居住可能となっています。この山こそがマウント・ルッキッザットです。(惑星本体の方も、この山の名前で呼ばれている模様)
 〈ノウンスペース〉における太陽近隣の植民地は、無人の恒星間ラムスクープ自動探査艇が発見した居住可能惑星に、人の乗った宇宙船を送り届けるという形で植民されます。ところが、このラムロボットの判定基準はかなり見境なしで(^^;)、実際に赴いてみたら非常に住み辛い場所だったということが頻繁に起きています。
 マウント・ルッキッザットはその典型的な例で、遠路はるばる太陽系からやってきた植民船の船長が、驚きのあまり「見ろあれを(ルッキッザット)!」と叫んだのがそのまま地名となっているわけです(笑)
 とは言うものの、居住可能である〈山頂平原(プラトー)〉の面積はカリフォルニアの半分ほどとされていますから、少々狭いとは言っても日本の本州、あるいはイギリスのグレートブリテン島ぐらいの広さはありますね。作中の時代は植民から三百年後、人口は数万人規模に達しているようです。

 〈ノウンスペース・シリーズ〉は空間的・時間的に大きな広がりを持つ作品群で、本書もまた他のお話との関連を持っています。
 例えば、〈プラトー〉が移植用臓器確保のために軽犯罪をも極刑化している辺りは、『不完全な死体』等で語られる地球の状況を反映しています(但し、科学技術を乗員が独占しているため臓器密売人は存在しません)。
 また、〈ノウンスペース〉歴史中最大級の出来事となる「もう一つの贈り物」のエピソードも、シリーズのファンにとっては嬉しい要素です。本作を境に、〈ノウンスペース〉は新たな時代を迎えることになるわけですね。
 もっとも、ストーリー本筋は閉鎖社会である〈プラトー〉の中で完結しており、シリーズ特有の設定も全て言及されていますから、単独の作品としても十分に評価できるお話です。あまりラッキーに思えない〈マット・ケラーの幸運〉に翻弄される青年の物語をお楽しみください。

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