知性化の嵐2 戦乱の大地

[題名]:知性化の嵐2 戦乱の大地
[作者]:デイヴィッド・ブリン


※このレビューには前巻まで及び『スタータイド・ライジング』のネタバレがあります。ご注意ください。

 数々の異星人からなる膨大な登場人物と奇妙で魅力的な舞台、そして多数のエピソードが複雑に絡み合う『知性化の嵐』第二巻です。
 辺境惑星ジージョから始まったこの物語ですが、いよいよ本巻からは〈知性化シリーズ〉のメインストーリーが合流します。トップギアに入った筆は留まることを知らず、ジージョに暮らす人々(と読者(^^;))を更なる混乱へと導いてくれます。
 星界からの来訪者である賓(まれびと)、遺伝子略奪者ローセン、そして凶悪種属ジョファーが次々と休閑惑星ジージョに現れたその元凶がついに明かされます。それこそは、驚くべき発見を成し遂げながら列強種属に追われてジージョへ逃げ込んだもの――ジリアン・バスキン率いる宇宙船〈ストリーカー〉。

 孤児種属である地球人の隠された主属だと騙り、ジージョに不和をもたらして自らの略奪行為を隠蔽しようとしたローセン。その宇宙船を、突如空から現れた更に巨大な宇宙戦艦が押さえつけ、行動不能にしました。
 しかし、戦艦はジージョにとって正義の味方などではありませんでした。それは温和なトレーキの兄弟分でありながら、銀河文明中最悪クラスの好戦的列強種属ジョファーの乗る船だったのです。ジョファーは近親であるトレーキを軽蔑し、グケックを毛嫌いしており、賢者達に対して両種属を差し出すよう命じます。トレーキはジョファー化するため、そしてグケックは根絶やしにするために。
 その上ジョファーは、ジージョの民が逃げ込んだイルカ船を匿っていると決めつけ、それを差し出すよう脅しをかけてきます。賢者達が否定しても聞く耳を持たず、見せしめとして虐殺を行います。
 一方その頃、列強種属に追われて惑星ジージョの海底に潜んだネオドルフィン宇宙船〈ストリーカー〉は、海底を探索に来たアルヴィン達と接触を果たしていました。ジリアンは当初自分達の正体を隠していましたが、ヒトかぶれのフーンであるアルヴィンはクルーが地球種属であることを見抜いてしまいます。
 暴虐なジョファーの振る舞いにジージョの潜伏六種属はどう立ち向かうのか。銀河中を追い立てられる〈ストリーカー〉の取るべき道は。事態は複雑に絡み合いながら、更に混迷を深めていくのです。

 本書の注目ガジェットは、トレーキとジョファーです。
 トレーキは湿地に棲息するぶよぶよしたドーナツ型の生物が元になっています。一つのドーナツ(嚢環と呼ばれます)は限定的な知能しか持ちませんが、円錐状に積み上がり蝋質記憶を共有することで知的生命体となります。
 積み上がったトレーキは、実際には一個体ではなく複数個体で構成された、いわゆる集合知性体です。意思決定は嚢環の民主主義的な合議により行われるため俊敏にはほど遠いのですが、その分思慮深いようです。性質は温和かつ平和的、生身で化学合成を行えることからジージョでは薬師として尊敬を受け重宝されます。
 しかし、トレーキを準知的生命から知性化した主属はその不活発な性質が気に入らず、別の種属の助けを借りてある特殊な嚢環を作り出しました。統制環と呼ばれるそれは嚢環集積体の最上位に置かれ、電撃による懲罰をもって全ての嚢環を奴隷化します。これがジョファーです。
 ジョファーはトレーキとは性格が全く異なり、自己中心的かつ他種属に対して非常に残忍です。銀河文明の中でも特に恐れられる好戦的列強種属で、猛烈なバイタリティと執拗性を持ちます。集合知性的な側面は同じく持ち合わせているようですが、意思決定は基本的に統制環のみが行い、他の隷環は強制的に従わされます。
 〈知性化シリーズ〉には多数の異星人が登場しますけれども、このトレーキとジョファーはその内面描写も含めて特に面白い存在ですね。トレーキの大賢者アスクスが、統制環によりジョファーのユウアスクスへ変貌させられてしまう部分は要注目です。

 ただでさえ登場人物数の多いところへ、本巻では更に〈ストリーカー〉一行の視点が加わることで、事態は混迷を極めます(^^;)
 また、正体不明だった賓(まれびと)が、〈ストリーカー〉の機関士エマースン・ダナイトであったことが前巻で判明しますが、言語を失った彼の物語も興味深いですね。言葉を交わす能力をなくしたエマースンの苦悩は察するに余りあるところですけれど、それでも決して後ろ向きにならないその姿勢は非常に魅力的です。
 銀河文明を捨ててジージョへ逃げ込んだ六種属が力を合わせ、原始的技術だけで凶悪なジョファーの巨大戦艦に立ち向かう場面も見所です。〈知性化シリーズ〉では、これまで孤児種属としてアースリング(ヒト/ネオ・チンパンジー/ネオ・ドルフィン)のみが他の銀河種属に迫害されるという構図が続いてきましたが、この『知性化の嵐』からは(ジージョ限定ではあるものの)変革が起こりつつあることを予感させてくれます。

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