知性化の嵐1 変革への序章

[題名]:知性化の嵐1 変革への序章
[作者]:デイヴィッド・ブリン


 多種多様な異星人と、度肝を抜くスケールで人気の高い、デイヴィッド・ブリン氏の代表作〈知性化シリーズ〉に属する作品です。
 本作の特徴は、とにかくその分量に尽きます。『変革への序章』は三部作の第一巻に当たる作品ですが、お話そのものは完全に続き物となっているため、『知性化の嵐』という長大な一つの作品が三つに分冊されたものと捉えるべきでしょう。日本語翻訳版で四百字詰め原稿用紙五千枚(!)という文章量の中に、無数の登場人物と数々のエピソードがこれでもかという程に詰め込まれています(^^;)
 文字通り序章である本巻の中頃まではさすがに状況説明ということもあって、ややスローペースで物語は進展していきますが、そこから先はノンストップです。切り替わる視点毎に発生する数々の事件に翻弄されるのが快感ですね(笑)
 休閑地扱いの惑星ジージョに不法入植した六種属の知的生命。銀河文明から発見されることに怯えて暮らす彼等が一人の男を救出したことを契機に、やがて銀河をも揺り動かす大事件が動き始めるのです。

 遥かな昔、惑星ジージョには高度な銀河文明種属ブユルが居を構え、繁栄を謳歌していました。しかし五十万年前、ブユルはジージョを休閑宣言し、何処かへと去っていきます。
 銀河文明は古い知的種属が準知的種属を『知性化』することにより脈々と続いてきた文明圏であり、休閑地指定された惑星が新たな生命を育むために、そこへの立ち入りは厳禁でした。しかし、惑星ジージョは接近困難という地理的条件から、銀河の中に居場所をなくした種属がいくつも不法入植を行っていたのです。
 それは一対の車輪を持つ生物グケック、ドーナツを円錐状に積み上げたようなトレーキ、放射相称で五つの足を持つ外骨格生物ケウエン、二足歩行でのどぶくろを持つフーン、ケンタウロス様の生物ウル、そしてヒトの六種属でした。それぞれ別個に入植した彼等は、かつては互いに争った時期もありましたが、現在は〈属際連盟〉を形成して平和に暮らしています。
 ある日、ヒトの紙漉師ネロの娘サラは数人の異種属の仲間と共に、沼地で重傷を負った男を発見し、村へ連れ帰ります。頭部に大穴が開き体中に火傷を負った男・賓(まれびと)は、迅速な手当とサラの熱心な介護のおかげで一命を取り留めました。
 時を同じくして、更なる訪問者がジージョへとやってきます。銀河文明の宇宙船が姿を現したのです。けれどもそれは六種属が予見していたような、不法入植を裁く審判者ではなく、休閑地から有用な遺伝子を略奪しようとする犯罪者の集団でした。
 略奪者ローセンの意図はなんなのか。そして賓の正体は。長らく平穏な日々が続いていた惑星ジージョに、動乱の時が訪れます。

 本書の注目ガジェットは、不法入植六種属です。
 休閑地指定されているジージョは、次代の生命を育むために知的生物の立ち入りが禁止されており、それぞれ別個の理由でジージョへ逃れてきた六種属は、できる限りジージョの生態系を乱さないよう慎ましく生活しています。
 彼等が掲げる目標は〈贖罪の道〉と呼ばれ、知的生物から準知的生物へ退化することで不法入植の罪をあがなうことができるとされています。入植した知的生物のうちグレイバーと呼ばれる種属は既にこの目標を達成し、現在は動物のレベルへと退行しています。
 〈知性化シリーズ〉における銀河文明は生き馬の目を抜くような世界で、特に孤児種属として注目を集める地球人は危険な立場に立たされています。しかし、このジージョの上では六種属が互いを尊重しつつ仲良く暮らしているのが面白い部分ですね。銀河文明由来でない原始的技術(紙や鍛冶等)でジージョに産業革命をもたらした地球人は、銀河における後進的立場とは逆に技術者として尊敬されているというのも愉快です。

 大勢の登場人物のうち、特に重要なのはクールハン三兄弟と〈ウーフォンの港町〉の少年少女ですね。
 紙漉師ネロ・クールハンの長男ラークは生物学者かつ異端者で、主に星界からの闖入者ローセン及びその従者の女性リンと関わります。長女サラは数学者/言語学者で、賓周辺のエピソードを担います。次男ドワーは名猟師として、野蛮な不法居住者の娘レティと接触し、更に他のグループとも横断的に関ります。
 〈ウーフォンの港町〉の少年少女は非人類の種属四人で構成され、フーンの若者アルヴィン(ヒトかぶれで、ニックネームの由来はA・C・クラーク氏作『都市と星』主人公(^^;))、グケックの少女ハック(マーク・トウェイン氏の『ハックルベリー・フィンの冒険』主人公から)、ケウエンの若者〈鋏の先〉、ウルの娘ウル=ロンからなります(視点はアルヴィンの一人称)。いずれも人間ではありませんけど、微笑ましい愛すべき少年少女達ですね。彼等の冒険は児童文学的な雰囲気で、他の視点とは一風変わった楽しさがあります。
 とにかく文量の多い本作ですが、ちゃんと名前が付けられている人物は『変革への序章』の中だけでも五十名を軽く超えています(^^;) もっとも、キャラクタはそれぞれ非常に個性的ですから、ストーリーを追っていれば誰が誰だか分からなくなることはないでしょう。

この記事へのコメント

  • nyam

     遅いコメント、申し訳ありません。実は「変革への序章」を読書中でネタバレを警戒しました(!)。
     散りばめられた謎を推理しながら読んでましたが、あまり解明されてませんねえ。
     推理1:トレーキ+レウク=ジョファー
     推理2:ブユル=ヌール
     推理3:ローセン=ザン
    などと考えてみましたが、はたして・・・。
     「戦乱の大地」読了後、またコメントします。
     
    2008年06月12日 20:21
  • Manuke

    おお、読書中でしたか。
    内容に関してはひとまず置いておくとして、登場人物ではやっぱりアルヴィンが好きですね。
    「ムゥフ~ン」と言いながらハックと掛け合い漫才をしているところが目に浮かびます(^^;)
    2008年06月14日 00:24

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