グレー・レンズマン

[題名]:グレー・レンズマン
[作者]:E・E・スミス


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 『グレー・レンズマン』は、〈レンズマン・シリーズ〉の第二作にあたります。
 前作『銀河パトロール隊』にて大きな成果を上げた新米レンズマンのキニスンですが、今回はベテランとして更なる活躍を見せてくれます。
 本書の冒頭では、ついにアリシア人とエッドール人というシリーズ最奥の構図が明かされます。二十億年前に起こった二つの銀河の接近から、価値観が異なるこれら超種族の争いが始まったわけですね。
 以上のように、この〈レンズマン・シリーズ〉は銀河文明対ボスコニア文明という大掛かりな対立が肝です。主人公キニスンは重要かつ鍵を握る人物ではあるものの、あくまでその中の一個人に過ぎません(スーパーヒーローですが(^^;))。
 もっとも、本書はタイトル通りグレー・レンズマンとなったキニスン個人の活動がメインとなります。シリーズ中で一番、宇宙冒険活劇としての色彩が強いと言えるのではないでしょうか。
 前作末尾で決着がついたかに見えたボスコーンと銀河パトロール隊との戦い。しかしそれは、更なる強大な敵との前哨戦でしかありませんでした。ボスコーンとの戦いは、まだ始まったばかりだったのです。

 ボスコーン代表ヘルマスを熾烈な戦いの上倒したキムボール・キニスンですが、敵要塞を調べたところ、別の場所への通信装置があったことを知ります。その経路を辿った先は、なんと銀河系の外にあるランドマーク星雲だったのです。それはヘルマスがボスコーンの頂点ではなかったことを意味し、そしてボスコーンが単なる海賊組織などではない超銀河文明ボスコニアであることをも示唆していました。
 キニスンは新規に建造された超弩級戦艦ドーントレス号を駆り、第二銀河系と名付けられたランドマーク星雲へと赴きます。そして実際にそこがボスコーンの支配下にあることを知るのでした。ドーントレス号は第二銀河系の中でボスコーンの支配に抵抗していた惑星メドンを助け、住人を惑星ごと第一銀河系(我々の銀河のこと)へと連れ帰ります(笑)
 これでボスコニアが銀河文明と比するほど巨大な文明であることがはっきりしましたが、その全容は未だ掴めないままです。
 そこでキニスンはグレー・レンズマンとしての立場を利用して、第一銀河系にはびこる麻薬密売組織を単独調査することにしました。ズウィルニクと呼ばれる麻薬取引業者達はボスコーンの末端組織であり、このルートを上に辿っていけば銀河パトロール隊が未だ知らないボスコーン上層部へと到達できるかもしれないと考えたためです。
 キニスンは第二段階レンズマンとしての能力を活用し、ズウィルニクへ接近するために様々な人物に化けることにしました。あるときは富豪チェスター・Q・フォーダイス、そしてあるときは酔いどれ荷役労働者、はたまた腕っこきの隕石鉱夫で二丁デラメーター(光線銃)使いワイルド・ビル・ウィリアムズへと。

 本書の注目ガジェットは、超兵器ネガスフィア(負の球体)です。
 ネガスフィアは我々が知っている通常物質とは違い、質量がマイナスの値を持つ負物質からなります。負と言っても反物質とは全く異なるもので、今風に言うとエキゾチック物質でしょうか。仮にこの負物質をハカリにかけられたとすれば、針はマイナスの値を示す訳ですね。ただし、通常物質と負物質が接触すると、両者はともに消滅してしまうようです。(劇中ではこの消滅により大量の放射線が放出されるとあります)
 銀河中の天才をかき集めて作成されたこの物体(その天才のトップにキニスンとウォーゼルがちゃっかり収まっています(^^;))、外観は真っ黒の球ですが、キニスンが知覚力を使って内部を探っても完全な虚無としか認識できません。しかも、普通の人間が長いこと見つめていると精神に異常を来しかねないという危険な代物です。
 ネガスフィアは、この奇妙な負物質を惑星サイズまで成長させ、敵惑星にぶつけるというとんでもない使い方をします。ぶつけられた惑星はネガスフィアともども消滅し、宇宙の藻くずと化してしまうのです。
 個人的に、シリーズを通じてイチ押しのガジェットです。

 先に述べた通り、本作の見所の一つがキニスン個人の活躍ですね。
 前巻『銀河パトロール隊』でキニスンはその能力の高さを認められ、エリートであるレンズマンの中でも更に選りすぐりのグレー・レンズマン(独立レンズマン)に抜擢されました。銀河パトロール隊の組織から外れるため階級を持ちませんが、その代わりに絶大な特権を与えられます。一個人の判断で捜査・裁判・処刑執行が可能であり、銀河のどこへ行ってもパトロール隊の助力を得ることができ、資金は上限なしでいくらでも引き出し可能(だからお給料もなし(笑))と、何でもやりたい放題です。無論、その権力に値する高潔な人物でなければグレー・レンズマンにはなれません。
 キニスンは他の巻では銀河パトロール隊組織の一員として動くことも多いのですが、今作中ではグレー・レンズマンとして数々の単独行動をこなしていきます。言わば、キニスンがレンズマンとして一番脂が乗った時期といったところでしょうか(^^;)
 その意味で、本書『グレー・レンズマン』はシリーズ中最もスペースオペラの醍醐味が味わえる作品となっています。キニスン君の手に汗握る活躍を大いに楽しみましょう。

この記事へのコメント

  • ココット

    レンズマンは宇宙船も良いですよね。

    ちうか、ブリタニア号ですよね。
    なんかブリタニカ号とごちゃまぜに(笑)

    『グレー・レンズマン』 では我々がイチオシの
    "ワイルド・ビル・ウィリアムズ" の登場ですね!(笑)


    レンズマンは、確かに独立捜査官の単独行といった
    イメージなので、基本的には単独行が似合っている
    と思います。

    そして、最後は強大な権力を使役して、巨大な悪を
    ババーンとこらしめる!

    そう遠山の金さんのごとく!(笑)


    でも時には、神林長平さんの 『敵は海賊』 シリーズ
    みたいな、くたびれた刑事の悲哀っぽい、宇宙捜査官も
    またオツなものです(笑)
    2005年11月27日 23:32
  • Manuke

    レンズマンと言ったら、涙滴型宇宙船ですよね。
    無慣性航法で宇宙をかっ飛ばすのに最適な形態、というこけおどしにシビれます(笑)

    > 『グレー・レンズマン』 では我々がイチオシの
    > "ワイルド・ビル・ウィリアムズ" の登場ですね!(笑)

    無駄に格好いい設定ですからねー。
    酒に強くて剛胆、デラメーターの早撃ちでは誰もかなわず、かつては腕のいい技師だった男。けれども麻薬で身を崩し、今ではしがない隕石鉱夫……。
    使い捨ててしまうには惜しい『仮の姿』だったと思います。

    > でも時には、神林長平さんの 『敵は海賊』 シリーズ
    > みたいな、くたびれた刑事の悲哀っぽい、宇宙捜査官も
    > またオツなものです(笑)

    ラテル君は、あれはあれで凄腕みたいですけどね。
    他のキャラクタの印象が強すぎて(^^;)
    2005年11月28日 00:23
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