銀河パトロール隊

[題名]:銀河パトロール隊
[作者]:E・E・スミス


 数あるSFの中で、最もスペースオペラらしい作品と言ったら何でしょう? もちろん、このような問いに万人の合意が得られるはずはないことは承知の上で。
 非SFファンにおける知名度では、映画『スターウォーズ』が一番かもしれません。けれどもSFファンの中でこの問いかけをしたなら、挙げられたリストのトップに躍り出てくるのはおそらく〈レンズマン・シリーズ〉ではないかと思われます。
 タフでハンサムなヒーロー、美しいヒロイン、敵や味方として登場する奇怪なエイリアン達、きらめく光線銃、無限の宇宙空間を邁進する宇宙船、ビームが飛び交い真空が沸き立つ艦隊戦、次々投入される超兵器、等々……。〈レンズマン・シリーズ〉にはその全てが含まれ、そしてそれ以上のものがあるのです。
 本書『銀河パトロール隊』は、スペースオペラにおける最高傑作との誉れ高い〈レンズマン・シリーズ〉の記念すべき第一作です。娯楽作品ではありますが、その壮大なスケールと次第に明かされるバックボーンには度肝を抜かれますね。
 銀河パトロール隊の超エリートであるレンズマンとなった青年キニスン。彼は様々な事件を解決していくことで成長し、やがて銀河を救う英雄となっていくのです。

 銀河パトロール隊とは、我々の住む銀河系を守るために設立された恒星間警察組織です。
 この時代、人類は地球を飛び出して銀河中へと広がり、そこに住む各種の異星人達とともに銀河文明を形成していました。無慣性航法と呼ばれる超光速駆動装置が開発され、恒星間の無限とも思える距離さえひとっ飛びなのです。
 しかしながら、便利な技術があれば悪用されるのも世の常です。犯罪者が罪を犯した後に超光速宇宙船で逃げてしまうかもしれず、警察組織も一つの星を超えた連携が必要になります。銀河パトロール隊とは要するに、国際警察の宇宙版といったところでしょうか。もっとも、近年は勢力を増し始めた宇宙海賊や麻薬業者に手を焼いているのが現状ですが。
 この銀河パトロール隊の中でも選りすぐりの精鋭が、レンズマンと呼ばれる人々です。肉体的および精神的に頑強な者が選別され、過酷な訓練過程を経て初めて、絶対偽造不可能な道具であるレンズを与えられることになるのです。そしてこの年、訓練学校を首席で卒業したのが、我らが主人公である地球人青年キムボール・キニスンです。
 レンズマンとなったキニスンへ最初に与えられた任務は、海賊船拿捕作戦でした。近頃は海賊船の能力向上が著しく、襲われた船を助けに銀河パトロール隊の宇宙船が駆けつけても逃げられてしまうことが多くなってきたためです。加えて、海賊をまとめているらしいボスコーンと呼ばれる謎の組織の存在も探る必要があります。
 キニスンは新造戦艦ブリタニア号を駆り、見事海賊船を拿捕してその動力の秘密を知ることに成功しました。けれども、その事実はボスコーン側に察知されてしまいます。ボスコーンは無数の海賊船を派遣し、秘密を銀河パトロール隊本部へ持ち帰らせまいと包囲したのです。これに対し、ブリタニア号のクルーは艦を破棄して二人ずつ小型艇に乗り、その包囲網を脱することにしました。
 キニスンと部下バン・バスカークは、海賊の包囲網をかいくぐり未知の惑星デルゴンへと辿り着きます。しかし、その場所には恐ろしい怪物がひしめいており、二人は絶体絶命のピンチに陥ってしまいます。キニスンがレンズを使って助けを求めたとき、それに応えて現れたのは――全長十メートルの巨大なドラゴンだったのです。

 本書の注目ガジェットは、レンズとその着用者レンズマンです。
 作中でのレンズとは、凸レンズ状をした絶えず揺らめく輝きを持つ物体で、銀河パトロール隊のエリートを示すシンボルです。それを与えられたものはレンズマンと呼ばれ、銀河文明圏のどこでも尊敬を得ることになります(犯罪者から見れば恐るべき敵ですが)。人間型のレンズマンは通常、腕輪に埋め込まれたレンズをちょうど腕時計のように着用します。非人間タイプのレンズマンでは、体に直接埋め込んでしまうことも多いようです。
 レンズは自らの惑星に隠遁している謎の種族アリシア人によって作り出されるもので、決して複製できません。また、正当な着用者でない者がレンズを身につけようとすると、その人間を殺してしまいます。警察手帳や保安官バッジの代わりになる訳ですね。複数の異星人が交流する銀河文明では、そもそも相手の正体を見極めることすら困難なのですが、レンズの着用者レンズマンは無条件で信頼できるということになります。
 このレンズ、単なる装飾ではなく、実用的な機能も持っています。レンズマンはレンズを通じてテレパシーを使うことができ、他のレンズマンや元々テレパシーを持つ種族と無線装置抜きで遠距離会話が可能です。そして物語が進むにつれ、更なるレンズの力が明らかになっていきます。

 〈レンズマン・シリーズ〉を魅力あるものにしている要素の一つが、驚くべき超兵器の数々です。本書に登場する兵器の中では、何と言ってもQ砲でしょう。
 敵宇宙船を牽引ビームで捕らえ、その土手っ腹にエネルギーでできた螺旋状の砲身を突きつけ、弾丸を直接打ち込む――これがQ砲です。時速百光年以上という超々光速で驀進する宇宙船にありながら、Q砲は事実上ゼロ距離兵器なのです。この馬鹿馬鹿しさがお分かりいただけるでしょうか(^^;)
 涙滴型戦艦ブリタニア号は銀河最速の宇宙船ですが、本来備えていてしかるべきビーム砲などの通常兵器を一切持っていません。ブリタニア号が持つ武装はQ砲のみです。この戦艦は、ただ海賊船を拿捕してその秘密を持ち帰るためだけに作られた宇宙船なのです。仮にボスコーン艦の防御シールドがQ砲の貫通力を上回っていれば、ブリタニア号はバックファイアで爆散し、宇宙の藻くずと消えてしまいます。まさに決死の任務ですね。

 本書に登場する人物の中で〈レンズマン・シリーズ〉上重要なのが、ウォーゼル、トレゴンシー、そしてクラリッサ・マクドゥガルの三人です。
 ヴェランシア人ウォーゼルは、全長十メートルあまりの蛇状の体に、なめし革のような翼、禍々しい爪の生えた手足を持った爬虫類型生物です。西洋のドラゴンと言うより東洋の龍に似ているでしょうか。勇猛果敢な戦士であり、かつ複雑な精神力を持つテレパシーの使い手でもあります。ウォーゼルは惑星デルゴンでキニスンと出会い、互いに得難い友となるのです。
 トレゴンシーはリゲル人のレンズマンです。外見は直立四本足ドラム缶(触手付き)と、こちらも怪物さながらですが(笑)、常に冷静沈着で頼りになる仲間です。彼もまた、後々の展開で重要な役目を担います。
 一方、クラリッサ・マクドゥガルは赤毛の美しい地球人女性ですが、ただヒーローに守られて安穏としていられる柄ではありません。彼女は星区看護婦長であり、強い意志力を持つ有能な人物です。キニスンが負傷により入院したときに二人は出会うのですけど、当初はお互いを手の付けられないほどわがままな患者、そしておよそ融通の利かない看護婦と感じていて、ロマンスにはほど遠いようです(^^;) この二人の仲が進展していく様は、なかなかに微笑ましくもじれったく、読者を楽しませてくれます。

 とにかくスケールの大きさでは天下一品の本書。科学考証は少々怪しいところがありますが、それを突っ込むのは野暮というものですね(笑)
 この際難しいことは忘れてしまい、スーパーヒーローたるキニスンの大活躍を大いに堪能しましょう。

この記事へのコメント

  • ココット

    ああ、レンズマンですね~。
    ちなみに複数形にするとレンズメン?(笑)

    実はこの作品は、子供の頃に読んだ児童文庫、
    そしてアニメの記憶が強いんです。

    こちらの本書を読んだのは、だいぶ大きくなってから
    だったりするのですよね。

    『宇宙怪獣ラモックス』、アイラブ 『航時軍団』 など
    こちらの掲示板では、たびたび話題となる珠玉の
    SFの児童文庫ですが、自分が 『レンズマン』 を
    学んだのも、まさにここだったりします。

    バンバスカーク、ウォーゼル、トレゴンシー、クラリッサ、
    そして思考スクリーンに必殺のQ砲は児童文庫でも
    略されずにちゃんとありましたね。

    クラリッサは、ちゃんとルビーレンズマンにもなりましたし。


    例えて言うなら、SF児童文庫はすごく上手に移植
    された移植版・携帯アプリみたいなものなのでしょうか(笑)
    2005年11月27日 23:21
  • Manuke

    > 実はこの作品は、子供の頃に読んだ児童文庫、
    > そしてアニメの記憶が強いんです。

    アニメ版は確か、キニスンがレンズを手にするのは偶然でしたよね?
    ウォーゼルももっと人間に近い体型だったと思いますし。
    ほとんど見てないものですから分からないんですけど、どのぐらい踏み込んだ内容だったのかな。

    > 例えて言うなら、SF児童文庫はすごく上手に移植
    > された移植版・携帯アプリみたいなものなのでしょうか(笑)

    おお、なかなかに言い得て妙かも(^^;)
    ああした、原作の味を生かしたまま子供向けに翻訳、という形態は、元々の英語圏では存在しなさそうな気がします。
    日本に、そしてこの時代に生まれたことは、SFファンとしては幸運なことだったのかもしれません~。
    2005年11月28日 00:21
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