スタークエイク

[題名]:スタークエイク
[作者]:ロバート・L・フォワード


※このレビューには前作『竜の卵』のネタバレがあります。ご注意ください。

 本書『スタークエイク』は、中性子星の表面に棲息する知的生命体を扱ったハードSF『竜の卵』の続編に当たります。
 中性子星の表面にて地球人の百万倍ものスピードで生きる知的生物チーラは、長らく未開レベルの文明に留まっていましたが、前作『竜の卵』で地球の探検船と接触したことにより科学技術を吸収し、(文字通り)瞬く間に超文明のレベルへ到達しました。
 そして今回では、そのチーラ文明を大規模災害が襲います。ハードSFの大家フォワード氏が紡ぎ出す本作は、ディザスター・ノベルの色彩を帯びた破滅テーマ、そして壊滅した文明の復興を扱った物語で、かつ異生物SFであるという欲張りな内容になっています。インパクトは『竜の卵』に譲りますが、作中に登場する数々のガジェットも見逃せません。
 わずかな期間に超々高度な科学技術を獲得し、人間を遥かに超える文明を築き挙げたチーラ達。しかし、その彼等に凄まじい大災害――“星震(スタークエイク)”が襲いかかるのです。

 中性子星〈竜の卵〉の、表面重力六百七十億Gもの環境で棲息する知的生命体チーラ。彼等は人類が接近させた接近観測用宇宙船ドラゴン・スレイヤー号を通じて科学技術を学び、地球人を遥かに上回る超文明を(人間の尺度からは瞬時に、チーラの尺度からは長い時間をかけて)築き上げました。
 チーラ達は人間の援助に感謝の意を表しながらも、これ以上の交流は地球人が自力で成長する妨げになると考え、別れを告げます。ドラゴン・スレイヤー号が収集するはずだった〈竜の卵〉の内部構造データや、将来発見されるだろう物理学的事項に対するヒントを人類へプレゼントして。役割を終えたドラゴン・スレイヤー号の乗組員達は、予定を切り上げて帰投準備に入りました。
 ところが、ここで予想外の事故が起きます。中性子星の潮汐力から船を守る補償体集塊の誘導ロケットが、流星に貫通されて制御不能となってしまったのです。このままでは五分後に、数百Gの潮汐力のため乗員は死んでしまいます。ここに至り、チーラ達は救いの手を差し伸べると連絡してきました。
 人間にとってはわずか五分でも、チーラの主観では十年に相当する長い期間です。救出計画の責任者スター=グライダー提督や技術者クリフ=ウェブは、なかなか予算を通そうとしない政治家達に焦らされることになります(^^;) それでも、なんとか予算を獲得した彼等は超テクノロジーを用いて誘導ロケットを修理し、計画を成功させます。
 これで、全ての問題が片付いたかに見えました。ドラゴン・スレイヤー号は再び帰還へ向かい、チーラ達は穏やかな日々を過ごして。けれどもそれは、つかの間の平穏に過ぎませんでした。
 救出成功の三分後、それは起こります。東極(〈卵〉の磁極は地軸の極と大きくずれているため、こう呼ばれます)で発生した超巨大地殻震をきっかけとし、〈卵〉全土に凄まじいカタストロフをもたらすことになる、“星震”の襲来でした。

 本作の注目ガジェットは、題名にある星震("Starquake")です。
 私達の地球上でも巨大地震は恐ろしい災害であり、それがもたらす被害は甚大です。ところが、中性子星上の地震である星震は「桁違い」という表現すら生温いほどの超災害となってしまうようです。
 元々が数百億倍もの高重力環境である〈卵〉表面では地殻震もかなりのエネルギーを発生させるのですが、同時に重力に抗うために必要な力も大きいことから、さほど警戒されていません(チーラの建物に屋根が存在しないことも、その理由の一つのようです)。けれども、地殻震の規模がある限度を超えてしまうと、単なる震動では収まらず更なる事態へと発展します。中性子星内部へ衝撃波が伝わると物質に相変化が起き、密度が変化したことにより中性子星がわずかに収縮してしまうのです。その結果、地表が激しく揺さぶられ、磁場の震動により膨大なガンマ線が発生します。これが星震と呼ばれるものです。
 地球上の巨大地震はおよそマグニチュード八クラスと言われます(『マグニチュード』にも定義がいろいろあるのでややこしいですが(^^;))。これに対し、作中の星震はマグニチュード十六、単純計算で一兆倍ものエネルギーに達するようです。それに伴って発生した強力なガンマ線の影響も加わり、〈卵〉上のチーラがほぼ全滅するという恐ろしい事態を引き起こします。
 本作における星震の描写はもちろんフィクションですが、星震という事象は架空のものではありません。時折宇宙からやってくる強力なガンマ線バーストのうちいくつかが、ある種の中性子星由来であるらしいと推測されているのです。通常の中性子星より強い磁場を持つもの(マグネターと呼ばれます)の上で発生した星震が、地球からはガンマ線バーストとして観測されるわけです。
 どうやら中性子星上は、生物が生息するには少々過酷過ぎる環境のようですね。もっとも、元来人間には縁のない世界ではありますけど。:-)

 前作『竜の卵』は物理学者であるR・L・フォワード氏の利点を活かしたSFであり、現代物理学によって深く考察された内容でした。一方、今作『スタークエイク』は人類よりも進歩したチーラ文明を対象としていることもあって、かなり大胆な未来的ガジェットが目白押しです。もちろんフォワード氏のことですから、単なる荒唐無稽なものではありません。
 その中でも興味深いのが、宇宙ファウンテン("Space Fountain")ですね。これは読んで字のごとく「宇宙規模の噴水」です(但し、流れるのは水ではなく、金属でできた小さなリング)。噴水の頂点に軽い物(ボールとか)を置くと安定して留まり続けるのをご存知の方も多いでしょうが、宇宙ファウンテンはそれを宇宙規模で行ってしまうというものです。軌道エレベータのような宇宙への輸送用施設として、中性子星の超重力環境でも建設可能なものだとされています。
 その他にもタイムマシンや重力カタパルト等、大抵のSFならば「そういうもの」と済まされてしまうガジェットに対しても最大限の科学考証がなされているのが凄いですね。巻末の『専門的補遺』の参考文献中に、フォワード氏ご自身の論文が含まれているのも前作同様です。:-)
 中心となるストーリーは星震にまつわる事柄ですが、その周辺に散りばめられたネタの数々も魅力的な、傑作ハードSFです。

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック