盗まれた街

[題名]:盗まれた街
[作者]:ジャック・フィニイ


 本作『盗まれた街』は、アメリカの片田舎にある町が変貌していく様を描いた、サスペンスタッチの侵略テーマSF小説です。
 この物語で地球侵略を行うのは、とある宇宙生命体なのですが、その手法は実に恐ろしいものです。日常が非日常にじわじわと浸食され崩壊していく様には、背筋が寒くなるものがありますね。
 派手なシーンはそれほど多くないものの、非常に密度が高くかつスピーディで、恐怖感もかなりのものです。幾度も映画化されているのも頷けます。
 医師マイルズが遭遇した、町の住民達に流行する奇妙な妄想。けれどもそれは、決して妄想などではなかったのです。

 アメリカ・カリフォルニア州の小さな都市サンタ・マイラで町医者を営んでいた青年医師マイルズ・ベンネルはある晩、ハイスクール時代のガールフレンド、ベッキイ・ドリスコルの訪問を受けます。
 ベッキイは従姉妹のウィルマの件で心配事があり、マイルズへ相談しに来たのでした。ウィルマは伯父アイラと同居しているのですが、その伯父が偽者だと思い込んでいるというのです。
 翌日、マイルズはベッキイと共にウィルマの下を訪れます。けれども、マイルズの判断する限りアイラ伯父は本人にしか思えません。また、ウィルマも何故自分が伯父を偽者だと感じるのか説明することはできませんでした。
 当初ウィルマ一個人のノイローゼかと思われたこの症状。しかしその後、サンタ・マイラの町では同様のことを訴える患者が続々と発生します。家族が、隣人が、姿形や記憶はそのままに別人へ入れ替わってしまったと彼等は言うのです。マイルズの知人で精神科医のマニー・カウフマンも、これにはお手上げでした。
 ところが、ここで思わぬ展開が起きます。小説家ジャック・ベリセックに呼ばれて彼の家を訪問したマイルズは、地下室で成人男性の死体を見せられたのです。物置を開けたときに偶然発見したものだとジャックは説明します。
 その死体は明らかに奇妙でした。成人ならば体に当然あってしかるべき傷が一つも見当たらず、顔にはまるで未完成品のようにディテールが存在しなかったのです。それどころか、指先には指紋すらありません。もしかしたらそれは死体ではなく、一度も生きたことがないのではないか――マイルズはそんな印象を抱きました。
 そして、マイルズはもう一つのことに気付きます。顔立ちを除けば、その『死体』の背格好がジャックそっくりであることに。

 本書の注目ガジェットは、人間の入れ替わり(メタモルフォーゼ)です。
 作中で入れ替わってしまった人物は、外見上は一切区別が付かず、オリジナルの記憶全てを有します。このため、親しい人間でない限りその変化に気付くことは難しいようです。
 但し、彼等は感情の発露という点において人間とは異なる態度を見せます。話しかけると笑顔を見せたり、ときには悪態をついたりもしますが、そうした表情の裏に人間的な感情は存在しません。当初は小さな差異に見えるこの部分ですけど、実は非常に根深く、本質的な違いであることが判明していきます。
 自分の知る人々がある日を境に、良く似た、けれども全く別の存在と入れ替わってしまうこの恐怖。ホラー的側面から見ても相当なものですね。

 本書の初出は雑誌掲載時の一九五四年で、書籍として刊行されたのが一九五五年なのですが、それから五十年余りの間に四回も映画化されたというのは興味深いところです。
 以下に列挙してみると、

・一九五六年:
 "Invasion of the Body Snatchers":『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』

・一九七八年:
 "Invasion of the Body Snatchers":『SF/ボディ・スナッチャー』

・一九九三年:
 "Body Snatchers":『ボディ・スナッチャーズ』

・二〇〇七年:
 "Invasion":『インベージョン』

 となります(それぞれ原題と邦題)。なかなか凄いですね(^^;)
 ストーリー的に原作小説に最も近いのは一九五六年版のようです。

 身近な家族や隣人が別の存在にすり替わってしまうという発端もかなり恐ろしいのですが、本書でもう一つインパクトがあるのは、その幕引きの仕方です。
 ストーリーとしてはきちんと終わっているのですけど、にも拘らず読者に途方もない不安を残したまま物語を終えるこの結末。田舎町サンタ・マイラの状況を思い浮かべると、実に物悲しいものがあります。
 侵略SFというメジャーなジャンルの中でも特に秀逸な作品と言えるのではないでしょうか。

この記事へのコメント

  • nyam

    フィニィのちょー古典的SFですね。残念ながらわたしはまだ読んでません。
    でも、これだけ繰り返し映画化されるのは名作の証拠でしょうか?
    ディックの短篇にも似たのがありましたっけ。
    2008年03月29日 19:45
  • Manuke

    オーソドックスなんですが、やはり良くできてるんですよね。後半は非常にハラハラさせられますし。
    度重なる映画化は、穿った見方をしてみると、本筋にSFX的な演出がそれほど必要ないというのもあるのかな、と。
    「元の人間と外観上は区別が付かないのに、中身は別の存在」というのが肝ですから。
    とは言うものの、映画はどれも未見なんですけど(^^;)

    ディック氏の短編の方はちょっと分かりません。
    積んである本の中にあるのかも。早く読まないと……。
    2008年03月30日 00:20
  • Kimball

    おおお!!
    スカパーのAXNでやっていた、
    「インベージョン」の原作が
    こちらの作品だったのですねー!!

    原作の存在を知らなかったので、
    TVドラマ・オリジナルだと思っていました。
    http://www.axn.co.jp/invasion/etc4.html
    http://www.axn.co.jp/invasion/story.html

    ご教示ありがとうございました!!
    ---------------
    2008年03月31日 00:01
  • Manuke

    ふむふむ、TVシリーズ版ですか。
    ちょっと調べてみたんですけど、直接フィニイ氏の小説を原作としているわけではないみたいですね。
    ただ、あらすじを見た感じでは全くの無関係でもなさそう。翻案された派生作品なのかな?
    いずれにしても、なかなか面白そうな印象です。
    2008年04月01日 00:07

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