闇に待つ顔

[題名]:闇に待つ顔
[作者]:ジャック・ヴァンス


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 〈魔王子シリーズ〉の第四巻です。
 今回ガーセンが狙いを定めるのは、魔王子レンズ・ラルク。もっとも、レンズ・ラルクは他の四人とは異なり、魔王子という通り名から連想する「洗練された犯罪者」というイメージにはほど遠い人物ですけど。:-)
 本書は執筆された時期が前巻とは十年以上離れているためか、これまでとは若干趣が異なる部分が見られるようです。特に、ガーセン君の性格が少々あくどくなっているのは目に付く点かもしれません(^^;) また、このシリーズではタチの悪い(しばしば笑えない程シニカルな)ユーモアが時折見られましたが、本巻ではその面もより強く表れているように感じられます。
 とは言うものの、それらは決して物語にとってマイナスではなく、むしろプラス方向に働いている要素です。ガーセンの復讐は折り返し点を過ぎ、いよいよ盛り上がりを見せてくれます。展開のスピード感や結末の鮮やかさはシリーズ屈指ですね。
 魔王子の一人レンズ・ラルクを追い求めるガーセンは、その消息と共に謎の計画の存在を知ります。果たしてレンズ・ラルクは何を企んでいるのでしょうか。

 莫大な資産と、著名雑誌コズモポリス誌を手に入れたカース・ガーセンは、更なる復讐を遂げるためにそれらを有効活用していました。
 かつて自分の故郷であるマウント・プレザントの虐殺に使われた宇宙船ファヌーティス号が、エッティリア・ガルガンティール号と名を変えて現在も就航中であることを知り、ガーセンはその船主レンズ・ラルクを法廷に引きずり出すべく画策します。けれども、その思惑はレンズ・ラルクの策略によって台無しにされ、ガーセンは投入した資金をまんまと持ち逃げされてしまいました。普段は感情を面に出さないガーセンも、思わず己の頭を拳で殴ってしまう程に落胆します(^^;)
 しかし、それらの経緯の中でガーセンは、レンズ・ラルクが野卑で知られるダー・サイ人であるらしいことを突き止めていました。ガーセンは手がかりを求め、宇宙船で旅立ちます。
 熱砂の惑星ダー・サイへ到着したガーセン。そこで彼は、レンズ・ラルクがコツァッシュ相互という企業を隠れ蓑に、何やら奇妙な計画を実行しようとしているらしいことを知りました。ガーセンはレンズ・ラルクに接近するため、紙屑同然の価値しかないと見なされているコツァッシュ相互の株券を買い占めるべく奔走します。
 ところが、ガーセンの行動はレンズ・ラルク側に知られてしまいました。どちらが先に過半数を獲得できるのか――奇妙な風習の惑星ダー・サイを舞台に、株券買い占めのいたちごっこが始まるのです。

 本書の注目ガジェットは、コーランヌ世界("The Coranne")です。
 コーランヌ世界は恒星コーラ("Cora")を中心とする太陽系を指し、周回する惑星のうち二つが居住可能惑星のようです。
 第二惑星ダー・サイ("Dar Sai")はコーラに近いため、非常に過酷な環境となっています。極地帯は対流のため風が吹き荒れており、それに続く〈泥沼〉は毒の沼地・病原性を持つ藻類・虫達のため人は足を踏み入れることができません。赤道地方は強い日差しのせいで砂漠化していますが、砂の中から貴重な元素デュオデシメートを産出するため、この地で人々は生活しています。
 砂漠地帯〈ウェイル〉の日中は非常な高温となることから、ダー・サイでは“天蓋”という施設が作られています。これは高さ百五十メートルもの巨大なパラソルの上から、組み上げた地下水を絶えず流し落とすという大掛かりなものです。この“天蓋”の下に住居を構えれば、砂漠の中でも涼しく過ごせるというわけですね。
 ダー・サイ人は粗野で自己中心的・偏屈ですが、その一方で勇敢かつ嘘をつかないという長所も持っています。環境の影響からか、その文化は非常にエキゾチックです。また、ダー・サイ料理はおそろしく不味いとの評判です(^^;)
 第三惑星メセル("Methel")は、ダー・サイよりもずっと暮らしやすい惑星です。メセル人は非常に尊大な種族で、他星の種族(特にダー・サイ人)を見下しています。隣人としては付き合い辛い人達のようです。
 対照的な両者ですけれども、どちらも架空の文化であるにも拘らずリアリティを感じられる程に緻密な設定がなされているのは見事ですね。特にダー・サイに関しては、シリーズ中で最も面白い惑星だと言っても過言ではありません。

 今回での標的であるレンズ・ラルクもまた終盤まで正体をなかなか現しませんが、どちらかと言えば本書の核心は彼本人の追求よりも謎の計画の方かもしれませんね。
 他の魔王子がいずれもおぞましい面を持つ人物であるのに比べると、レンズ・ラルクは比較的普通(?)の性格です(それでも残忍な犯罪者であることに変わりはないですけど)。彼は要するにマフィアの親玉であり、粗暴で悪辣ではありますが、異常さはあまり際立っていないようです。
 レンズ・ラルクはダー・サイ人で、その種族的特徴は彼にも当て嵌まるようですが、実のところ繊細な部分も持っているらしいことがその計画から分かります。題名『闇に待つ顔』(原題:"The Face")の意味が明らかになったとき、思わずニヤリとしてしまうことでしょう。:-)

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