殺戮機械

[題名]:殺戮機械
[作者]:ジャック・ヴァンス


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 〈魔王子シリーズ〉の第二巻、『殺戮機械』です。前巻『復讐の序章』に引き続き、カース・ガーセンの復讐が行われます。
 今回その対象となるのは、魔王子の一人で殺戮機械("The Killing Machine")の異名を持つココル・ヘックスです。前回のマラゲート同様、ココル・ヘックスもその正体をなかなか現さず、読者を大いにハラハラさせてくれます(^^;)
 また、本書で面白いのは、ストーリーの途中でがらりと背景が変化する点ですね。前半は未来世界であるオイクメーニなのですが、後半は異世界ファンタジー風の場所へと舞台を移すことになります。ガーセンと蛮族の族長の決闘は手に汗握る場面です。
 魔王子ココル・ヘックスの消息を掴む為に奔走するガーセン。幾多の困難を乗り越えて彼が突き止めたのは、人々からおとぎ話だと思われていた謎の惑星サンバーだったのです。

 災厄のマラゲートへの復讐を成し遂げた翌年。カース・ガーセンはIPCC(星際保安協力機構:超国家的な民間警察組織)から、ある男性を連れ帰るか殺すかするよう依頼されました。ガーセンは依頼を受けますが、任務遂行時に接触した男が魔王子の一人ココル・ヘックスだった可能性を事後に知らされ、好機を逸したことに落胆します。
 その後、ココル・ヘックスの名は頻繁にニュースへ登場するようになります。様々な人々を誘拐し莫大な身代金を要求するという事件が多発しており、その黒幕がココル・ヘックスだと言うのです。
 ガーセンはとある誘拐された子供を引き取る代理人として、誘拐犯との仲立ちを行う〈交換所〉へと赴きました。そこで彼は、かつてココル・ヘックスと取引をしたことのあるという男マイロン・パッチと出会います。パッチはココル・ヘックスから、全長二十三メートルもの巨大なムカデ型の歩く要塞を建造する仕事を受けたのですが、その出来上がりに満足してもらえませんでした。そして、暴行を受けた後に誘拐され、〈交換所〉の住人となっていたのです。
 ガーセンは子供に加えてパッチの身代金を支払い、その代わりとしてパッチ機械製作所の共同経営者に収まります。そして歩く要塞の不出来な部分を改良し、再びココル・ヘックスへと商談を持ちかけます――復讐する機会を得るために。
 けれども、事態は彼の思惑通りには運びませんでした。要塞引き渡しの後、効を急いだあまりガーセンはココル・ヘックスの手下に捉えられ、〈交換所〉送りにされてしまったのです。

 本書の注目ガジェットは、〈交換所〉です。
 〈魔王子シリーズ〉の舞台オイクメーニでは、身代金目当ての誘拐が珍しくありません。宇宙船で飛び去ってしまえば犯行現場から簡単に逃げることができ、かつ警察に居場所を突き止められる恐れもないという事情からです。
 この状況に対処するため、独立営利施設である〈交換所〉が存在します。誘拐犯は誘拐実行後人質を〈交換所〉に預け、身代金のやり取りは〈交換所〉が仲立ちするというものです。
 預けられた人質は自由の身ではないものの、〈交換所〉の中で安全に保護されます。また逆に、誘拐犯の居場所等を〈交換所〉が明かすこともありません。基本的に、双方にとって有益なわけですね。(誘拐行為自体を除けば(^^;))
 興味深いのは、〈交換所〉が犯罪者達とは独立した組織であるとされている点です。このため、ひとたび〈交換所〉に預けられた人質は、魔王子であろうとも手出しをすることができません。これを利用し、自分自身に莫大な身代金を課して〈交換所〉へと入ってしまえば、自由と引き換えに安全を手に入れることができます。但し、身代金を払える者が登場してしまえばそれまでなのですが。

 冒頭で言及したように、物語の後半は神話とされている惑星サンバーへと舞台を移します。サンバーは人類の移住した惑星ではありますが、オイクメーニからはその在処が知られていません。サンバーの文化レベルは中世ヨーロッパ程で、人々は惑星外に人類が存在することを知らないようです。この辺り、文明人のカース・ガーセンがいきなりヒロイック・ファンタジーの世界へ迷い込んでしまったようなおかしさが感じられますね。
 また、今回の宿敵となる殺戮機械ココル・ヘックスもなかなかに強烈な人物です。ココル・ヘックスの正体に関してはかなり終盤まで引っ張られるのですけど、その薄気味の悪さはある意味魔王子随一と言えるかもしれません。残酷さで人々から恐れられるココル・ヘックスの真の姿が明らかにされるとき、そのおぞましさに背筋が寒くなることでしょう。

この記事へのコメント

  • nyam

    こんにちは。
    魔王子シリーズ、懐かしいですね。古書?
    同じ作者では「大いなる惑星」がお気に入りです。
    ヴァンスの作品は、もっと翻訳されてもいいと思います。
    2008年02月24日 09:44
  • Manuke

    > こんにちは。

    いらっしゃいませー。

    > 魔王子シリーズ、懐かしいですね。古書?

    買った当時は新刊でした(^^;)
    今ではかなりボロボロになっちゃってますけど、本は読んでナンボのものですから仕方ないですし。

    > 同じ作者では「大いなる惑星」がお気に入りです。
    > ヴァンスの作品は、もっと翻訳されてもいいと思います。

    ヴァンス氏の作品では、そのうち読もうと思っている『竜を駆る種族』しか持ってないです。
    設定の緻密さと心情描写控えめのクールな本シリーズはお気に入りなので、他のものも色々読んでみたいですね。
    もっと海外SFの翻訳が活発になって欲しいところですが……。
    2008年02月24日 23:30
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/85796592

この記事へのトラックバック