復讐の序章

[題名]:復讐の序章
[作者]:ジャック・ヴァンス


 本書は、人類が恒星世界へと進出した未来を舞台に繰り広げられる復讐劇、〈魔王子シリーズ〉の第一巻です。
 当シリーズの特徴は、洗練されたストーリーです。緻密な舞台設定とスタイリッシュな文体が相まって、非常にクールな作品に仕上がっています。復讐劇は数ある物語形態の中でも人気の高いジャンルですが、凶悪で強大な敵、それに対峙するストイックな主人公、そしてSFらしい広大で異質な舞台が合わさり、胸のすく爽快感を味わわせてくれる良質のエンターテイメントを形成していると言えるでしょう。
 かつて五人の凶悪犯罪者・魔王子に故郷を滅ぼされたカース・ガーセンは、彼等に復讐すべく己を磨いていました。そして遂にその一人、災厄のマラゲートへと至る手がかりを掴むのです。

 人類が太陽系外へと進出し、一大文化圏・オイクメーニを形成するようになった時代。
 しかし、そこには繁栄と共に闇もまた存在していました。オイクメーニの外である〈圏外〉は法の外の地であり、宙賊や奴隷商人、殺人犯が跋扈する危険な区域です。中でも魔王子(デーモン・プリンス)と呼ばれる五人の凶悪犯罪者は、オイクメーニ全域における恐怖の対象でした。
 その〈圏外〉にある小さな惑星上の宿・スメード亭に、一人の探星師がやってくるところから物語は始まります。彼の名はカース・ガーセン。
 スメード亭には異星人スター・キングが逗留しており、更にガーセンの後からもう一人の探星師ルーゴ・ティーハルトがやってきます。ティーハルトはガーセンに、自分が非常に美しい惑星を発見したこと、そしてそれを魔王子の一人アトル・マラゲート――またの名を災厄のマラゲート――に知られてしまったことを打ち明けました。
 ティーハルトはマラゲートに惑星の所在を教えたくないと思いガーセンに相談しますが、巨悪であるマラゲートに対して何か打つべき手があるわけでもありません。そうこうするうちにマラゲートの手下がスメード亭へやってきて、ティーハルトを連れ去ってしまいます。
 ところが、このときマラゲート一派はティーハルトの宇宙船ではなく、誤ってガーセンの宇宙船を持ち去ってしまったのです。スメード亭の近くにはティーハルトの宇宙船、そして惑星の在処を記したモニター・フィラメントが残されました。
 厄介事に巻き込まれた形のガーセン――けれども、ガーセンの正体は探星師ではありませんでした。
 彼は少年時代、魔王子達に家族を殺され、故郷を滅ぼされたという過去を持ちました。そしてガーセンは体術や暗殺術を学び、魔王子全てに復讐することを己が使命としていたのです。
 偶然手に入れたフィラメントを活用し、ガーセンは行動を始めます――マラゲート抹殺のために。

 本書の注目ガジェットは、スター・キングです(本書の原題も"Star King")。
 スター・キングは鶴座ラムダ星の第三惑星で生まれた知的生命体で、外観は地球人に酷似しています。祖先は水陸両生生物で、性別はなく雌雄同体とされています。精神的には人類との違いは大きく、互いに相手を真に理解することは困難です。
 スター・キングの姿が人類そっくりである理由には幾通りもの説があるようですが、スター・キングという種族が秘密主義であるため、本当のところは分かっていません。また、彼等はオイクメーニの各所にスパイを送り込んでおり、その変装を見破ることはほぼ不可能です。
 ガーセンはある経緯から、災厄のマラゲートがスター・キングだという結論に辿り着きます。しかしながら、外観上は人間と区別が付かないスター・キングを特定することは難しいという問題があるわけです。この推理部分がミステリー的かつSF的で、ストーリーを大いに盛り上げてくれます。

 カース・ガーセンは復讐に人生を捧げた青年ですが、決して血も涙もない訳ではなく、他者に情をかけたせいで窮地に陥ったりもします。また、自分が復讐以外の生き方を知らないことにいささか劣等感を覚えている節もあり(^^;)、総じて好感の持てる主人公です。
 対するに、五人の魔王子は互いにタイプの異なる犯罪者で、その凶悪なキャラクタもまた本シリーズにおける魅力の一つです。やはり、敵は強大であってこそ復讐劇も栄えるというものですね。

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック