巨人たちの星

[題名]:巨人たちの星
[作者]:ジェイムズ・P・ホーガン


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 〈ガニメアン三部作〉の第三巻、いよいよ締めくくりのお話です。
 かつて火星と木星の間に存在した惑星ミネルヴァと、そこに生まれた優しい巨人種族ガニメアンの物語において、今までのストーリーで語られていなかった部分が明らかになります。更に後の続編で補完される部分もありますけど、基本的には本書で三部作は一区切りとなります。
 前々巻『星を継ぐもの』において、五万年前に存在したルナリアン文明、そして二千五百万年もの超古代に存在したガニメアン文明の遺物から始まった本シリーズ。前巻『ガニメデの優しい巨人』では、その過去から現れたガニメアン一行とのファーストコンタクトが行われました。本巻では遂に、現存するガニメアン文明との接触が描かれます。
 この巻の特徴として、前作以上に楽天主義的な点が挙げられますね。いささか能天気過ぎるきらいはあるものの(^^;)、読んでいてとても楽しいのは評価すべきところでしょう。
 遥かな太古に太陽系から去ったガニメアン文明との接触を果たした地球人達。しかし、そこには奇妙な点がありました。相手は暴力にまみれた偽りの地球史観を持っていたのです。

 〈シャピアロン〉号が、かつてガニメアンが向かったとされるジャイアンツ・スター(ジャイスター)へと出航した直後、地球へ向けてジャイスターからのものと思われるメッセージが届きました。しかし、その後の呼びかけに相手が応じることはありませんでした。
 三ヶ月後、コールドウェルのオフィスに呼び出されたヴィクター・ハント博士は、再びジャイスターからの信号が入り始めたことを知らされます。しかも、相手の使う言語は英語だったのです。これは、異星人がずっと以前から地球を監視していたのだということを意味しました。
 通信相手は、ジャイスターを中心とする惑星系テューリアン("Thurien"。以後、現存文明自体がテューリアンと呼ばれます)へと移住したガニメアンの子孫であると名乗りました。ところが、テューリアンは地球の歴史に関して歪曲された理解をしていたのです。地球では戦争が過去のものとなっているにも拘らず、テューリアンは地球が惑星間規模の第三次世界大戦に瀕していると考えていました。そのような捏造行為は、ガニメアンらしからぬ振る舞いだとハントは訝しみます。
 更に奇妙なことに、テューリアンとの交信を取り仕切っている国連は、テューリアン側の誤解を解こうとしませんでした。そればかりか、その歪曲された歴史を肯定するかのような返答を行っていたのです。
 業を煮やしたアメリカは、単独でテューリアンとの交信を行うことにします。アラスカに招かれた無人宇宙船を介して、ハント達は超テクノロジーを有するテューリアン文明との接触を極秘裏に成し遂げます。
 情報の錯綜のため多少疑心暗鬼にはなっていたものの、テューリアン人は〈シャピアロン〉号一行と同じく温和な巨人族でした。しかし、遥かな過去より地球文明を監視しつつテューリアンに偽の情報を流していたグループは、ガニメアンではなかったのです。
 ジェヴレニーズ("Jevlenese")と呼ばれるそのグループこそは、地球人類にとって宿命的とも言える相手でした。

 本書の注目ガジェットは、テューリアン文明です。
 前巻で地球を訪れたガニメアン宇宙船〈シャピアロン〉号には超AIであるゾラックが存在しましたが、テューリアンではさらに進歩した超々AI・ヴィザー("VISAR")が様々な管理を行っています。このヴィザーが彼等の文明の中心的役割を担っていると言えるでしょう。
 ヴィザーの端末は寝椅子の形状をしており、パーセプトロン(知覚伝達装置)によって五感全ての情報が神経を素通りして直接脳へ送り届けられます。このため、現実そのものと区別がつかないほどの高度なヴァーチャルリアリティが実現されるわけです。もっとも、真面目なガニメアンのことですから、この装置を遊びに使うことはなさそうですけど(^^;)
 テューリアン世界では、超光速通信によって全ての惑星がリアルタイムに結びつけられています。ヴィザーを使えば、自宅にいながらにして世界のどこへでも赴くことができます。更に、現実では言葉の通じない者同士でも、ヴィザーが完全な形で同時通訳してくれるために、相手が自分と同じ言語を使っているかのように会話することができます。
 一方、地球を監視しているジェヴレニーズにも、同じようなコンピュータであるジェヴェックス("JEVEX")が存在します。このジェヴェックスですが、〈ガニメアン三部作〉の続編に当たる『内なる宇宙』で、なかなか面白い設定がなされています。

 三部作の締めくくりとして、本書ではそれまで推測でしかなかった様々な事柄が明らかになります。〈シャピアロン〉号一行はガニメアンが惑星ミネルヴァを去って以降二千五百万年の空白期間に関しては何も知らなかったわけですけど、テューリアンはそれを歴史として記録に残しているわけです。第一作『星を継ぐもの』に登場したルナリアン、コリエルへの言及が嬉しいですね。
 また、作中では地球における暴力的の歴史や宗教に関して、ある面白い設定がなされています。個人的には、そうした行動の責任を他者に押し付けてしまうのは、ちょっとお気楽過ぎるんではないかと思わないでもないです(^^;) もっとも、結局のところ本書はフィクションですから、あまり細かいことにこだわらず素直に楽しんでしまうのが良いかもしれません。
 前々作では学術研究、前作では穏やかなファーストコンタクトと、どちらかといえば派手な展開の少なかった本シリーズですが、この『巨人たちの星』では手に汗握る緊迫シーンがいくつか登場したりと、また一風変わった面白さがあります。三部作のトリを飾るにふさわしい、良質なエンターテイメント作品です。

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