星を継ぐもの

[題名]:星を継ぐもの
[作者]:ジェイムズ・P・ホーガン


 本書『星を継ぐもの』は、ホーガン氏の代表作と言える〈ガニメアン三部作〉の第一弾に当たります。異星人ガニメアンと地球人の関わりを描いた人気作品です。
 但し、二巻以降とは異なり、生きているガニメアンは本書に登場しません。また、ガニメアンの存在自体もどちらかと言えば脇役に近いですね。お話の焦点は、月面で発見されたルナリアンの方にあります。
 物語は、発見された超古代の遺物に秘められた謎を解き明かすパズル・ストーリーとなっています。もっとも、一人の名探偵が全てを解き明かす推理小説とは異なり、あくまで学術研究として大勢の人間が謎の解明に当たるわけです(主人公ヴィクター・ハントは取り纏め役を果たしますが、彼のみの手柄ではないですね)。登場人物達に危機が迫るようなこともありませんし、それほど複雑な人間関係も見当たりません。
 しかし、これがとんでもなく面白いのです。次々と疑問点が解消され、次第に全貌が姿を現していく様は、それだけで高いエンターテイメント性が成り立つことを読者に示してくれます。もちろん、現実の研究がこれほどトントン拍子に行くことはないでしょうし、やや強引な論理も見られるのですが(^^;)、それでもこのわくわくさせられるストーリー展開は高く評価したいですね。その意味では、三部作を構成していながらも本書は続巻とは少々趣が異なり、かなり尖った作品だと言えるでしょう。
 月面で発見された、身元不明の宇宙服を着た遺体。しかし、それはどの国の所属でもあり得ませんでした。何故なら、彼は五万年前に亡くなっていたからです。

 イギリスの企業メタダイン社に所属する物理学者ヴィクター・ハント博士は、三十代半ばながらも核内部構造理論の世界的権威として知られる存在でした。彼はニュートリノ・ビームを使って物体を破壊せずに内部を透視可能な装置、トライマグニスコープを発明し、メタダイン社に大きく貢献していました。
 そんな彼がある日会社上層部から、アメリカのヒューストンにあるUNSA(国連宇宙軍)の研究所へ、トライマグニスコープの実用化第一号を携えて向かうよう要請されます。製品化前のスコープを社外へ持ち出す不利益に首を傾げながら、ハントはその指示に従いました。
 研究所に着いたハントは、そこで驚くべき発見を明かされることになります。月面で、死後五万年が経過した遺体が見つかったというのです。
 チャーリーと名付けられたその遺体は、人間の男性そっくりで、現代のものに匹敵する高機能な宇宙服を着ていましたが、現代文明とは縁もゆかりもないことは明白でした。果たして彼は何ものなのか。チャーリーとその所持品を調査するために、ハントのトライマグニスコープが必要だったのです。
 生物班、言語学調査班といった様々な研究部門でスコープが活用されたことから、必然的にハントは複数の分野に嘴を突っ込むことになりました。程なく彼は、各部署間の情報交換が上手くいっていないことに気付きます。その仲立ちをしているうちに、ハントは独創的な問題解決能力を買われ、それぞれの部署から上がってくる情報を統合するスーパーバイザ的な地位に就任するのでした。
 そして、チャーリーの研究が進むにつれて、一つの大きな謎が浮かび上がってきます。彼の出自は果たして地球なのか、それとも別の惑星なのかという問題です。矛盾する証拠を巡り、研究者達の議論は紛糾しますが、皆が合意できる結論は出てきません。
 そんなおり、もう一つの驚くべき報告がUNSAの木星派遣隊よりもたらされます。木星の衛星ガニメデの地表で、二千五百万年前に難破した巨大宇宙船が発見されたというのです。そして、その乗組員の遺体は明らかに地球人ではない、異形の巨人でした。

 本書の注目ガジェットは、ルナリアン("Lunarian")です。
 これはチャーリーの種族に対して付けられた名前で、語源はもちろん発見場所の月("Luna")ですね。もっとも、彼等は月で生まれたのではなく、そこで日常生活を過ごしていたわけですらないので、この名称はあまり筋が良くないようにも感じられますけど(^^;)
 チャーリーは月の洞窟内から、落盤で埋まった状態で発見されます。深紅の宇宙服を着込み、五万年の時間経過により体はミイラ化しています。
 ルナリアンは外見からも遺伝子からもホモ・サピエンスであるとしか考えられず、別の星で並行進化した異星人という見解は早期に否定されます。また、解読された手記によると、月面と彼等の母星(ミネルヴァ:"Minerva")がごく近いらしいということが判明します。ここから、「ミネルヴァ=地球」という意見が導かれるわけです。
 その一方、当時の人類は旧石器時代で、月面へ到達するほどの文明が存在した形跡は地球上に存在しません。また、手帳に書かれていたカレンダーらしき表からは、ミネルヴァの一年が千七百日あることが読み取れます。つまり、「ミネルヴァ≠地球」という意見が出されるわけです。この二つの意見対立が本書の肝です。

 物語中では、探求全体の取り纏めを行うハントと、生物学者のクリスチャン・ダンチェッカー教授がしばしば衝突することになります。ダンチェッカーは生物学の権威であり、当代屈指の業績を持つ人物ですが、非常に教条的かつ狭量で、しかも排他的な傾向の強い厄介な性格をしています。当初ハントはダンチェッカーを毛嫌いし、ダンチェッカーはハントを見下していますけど、ストーリーが進展していくうちに二人は互いを認め合うようになるわけです。初老の男性ながら、ダンチェッカーはどこか可愛い印象があって、個人的にもお気に入りのキャラクターです。
 なお、本書のメインである謎解きに関してですが、最も大きなネタに対して「力学的に考えて、その可能性は低いのではないか」との指摘を受けることがあります。もっとも、ホーガン氏ご自身も作中でハントに「自然界にままある、万に一つの偶然」と語らせていますし、第三巻『巨人たちの星』でフォローもされていますから、そういうものだと素直に受け止めてしまうのが吉ですね(^^;)
 もう一点、『星を継ぐもの』で特筆すべきは、その結びの鮮やかさです。エピローグの部分はプロローグと対を成しつつ、非常に奇麗な形で幕を下ろします。その背後に隠された壮大な物語に想いを馳せたくなるような、とても感動的な終わり方です。
 そして、次巻は『ガニメデの優しい巨人』、いよいよ生身のガニメアンが姿を現します。

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