銀河市民

[題名]:銀河市民
[作者]:ロバート・A・ハインライン


 本書はSF三巨匠のお一人ハインライン氏による、少年の成長を通じて銀河規模の未来世界を描いたジュブナイルSFです。
 主人公ソービーが青年に至るまでの期間を描いた作品ですので、多分に成長物語の要素を含みます。ただ、ハインライン作品のジュブナイルの多くがそうであるように、必ずしも子供向けとは限りません。作中では風変わりな価値観や複雑な社会構造を扱っており、そうした部分が大人でも楽しめるものとなっています。
 地球から遠く離れた辺境惑星で、奴隷として売られていた少年ソービー。しかし、彼を買った乞食のバスリムにより、その運命は大きく動き始めます。

 人類が光の速さを超える移動手段を手に入れ、太陽系外へと進出した時代。
 広大無辺な銀河系では、しかし悪しき風習がまかり通っていました。地球近傍では根絶された奴隷制度が、辺境の地では未だに行われていたのです。
 九惑星連邦の主星サーゴンでは、そうした奴隷市場が堂々と開かれていました。そこである日、薄汚れた奴隷の少年ソービーが競売にかけられます。けれども、痩せっぽちかつ反抗的なその姿に、誰も彼を買おうとはしません。
 そのとき、競売を盛り上げるために集められていた乞食の一人、片足を失った老人“いざりのバスリム”が、開始価格を遥かに下回る値段で買い取りを申し出ました。さっさと済ませて次の物件に取りかかりたい競売人は、仕方なくバスリムに少年を売ってしまうことにします。
 ソービーを廃墟の中の家に連れ帰ったバスリムは、少年に自分を「父ちゃん」と呼ばせ、文明的な生活を彼に与えました。バスリムはただの乞食ではなかったのです。
 物心付く前から奴隷として家畜同然に扱われてきたソービーは、バスリムの下で健康を取り戻し、肉体的・知的に成長していきます。乞食の息子として物乞いをする傍ら、時折バスリムの謎めいた仕事の手伝いをし、隠れ家では高レベルの教育を受けて。ソービーはバスリムの正体が乞食ではないことに薄々気付いていましたが、それはなんら問題ではありませんでした。バスリムはソービーにとって本当の父親以上の存在だったからです。
 けれども、そんな日々にもやがて終わりが訪れます。バスリムの死を契機に、ソービーは辺境惑星サーゴンを出て、銀河系世界へと旅立ちます。
 彼の行く先には、果たして何が待っているのでしょうか。

 本書の注目ガジェットは、自由商人("Free Trader")です。
 自由商人は宇宙船を駆って銀河中を巡り、交易によって利益を得る人々です。彼等は宇宙船自体を自らの家と考え、同じ船に乗っている者同士は家族として大切にしています。逆に、家族でないものはよそ者(「フラキ」と呼ばれます)として疎外し、かなり排他的です。
 バスリムと死別したソービーは、生前の言い付けに従って宇宙船シス号の船長フジャラー・クラウサと接触し、その一族に迎え入れられます。シス号の乗員は八十人以上からなり、名目上の長は船長クラウサですが、実権は彼の母親である一等航宙士が握っています。
 面白い設定として、自由商人の船が一種の生命体のように見える点が挙げられるでしょう。家族の人数が増えてきたとき、新たな船を購入する必要が出てきますが、主に経済的な理由により二種類の方法が取られます。一つは一隻の船が費用全額を捻出するもので、自由商人内での地位が向上するものの負担が馬鹿になりません。もう一つの方法は、同様の問題を抱える別の船と費用を折半するというもので、新たな船の乗組員は双方の出身者から構成されることになります。それぞれ単為生殖と有性生殖に似ているのが興味深いですね。

 ハインライン作品の常として、本書でも力の論理を肯定する傾向が少々見られます。
 特に明示的なのが、非暴力主義に対する非難です。ある人物がガンジー氏を引き合いに出し、ソービーの取った行動をたしなめるシーンが登場しますが、この人物は愚かしさをかなり強調して描かれています。
 もっとも、この辺りはあくまで主人公ソービーの視点から見た話であって、物語性を損なうほどではありません。ソービー自身も色々と欠点を有する少年ですし。
 その意味では、老乞食バスリムこそが『銀河市民』におけるヒーローなのかもしれませんね。ハインライン氏お得意の、理屈よりも実際的な行動を好む誇り高い人物で、序盤で舞台からは退場してしまいますが、後々もソービーの人生に影響を与え続けます。ソービーはいささか彼を崇拝し過ぎのようにも感じますけど、まあ経緯を考えたら当然かもしれません(^^;) 氏の想定する理想の父親像というところでしょうか。
 また、奴隷の身分という社会の最下層から始まり、ソービー少年の居場所の変遷に従い拡大していく作中世界の奥深さは、さすがハインライン氏と言える部分ですね。エンターテイメント性の高い、優れたジュブナイル作品であることは疑いありません。

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