スタータイド・ライジング

[題名]:スタータイド・ライジング
[作者]:デイヴィッド・ブリン


 本書『スタータイド・ライジング』は、ブリン氏の〈知性化シリーズ〉第二弾です。
 トップギアで邁進するハイスピードな展開と、無数の人物が織りなす複雑なストーリー、思わず息を飲む壮大なスケールを兼ね備えた一大スペクタクル小説であり、SF作家としてのブリン氏の評価は本作によって不動のものとなりました。
 前作『サンダイバー』はどちらかと言うと推理を主体とする落ち着いた展開であったのに対し、『スタータイド・ライジング』は無数の異星人達がドンパチをやらかす派手な物語です。少々都合のいい展開はなきにしもあらずですが(^^;)、エンターテイメント性は抜群であり、痛快無比なストーリーに心を奪われること請け合いです。
 凶悪な列強種族に追われて惑星キスラップに逃げ込んだ地球の探検船〈ストリーカー〉。八方塞がりの状況下、彼等の命運やいかに。

 探検船〈ストリーカー〉は、ネオ・ドルフィン(人間によって知性化されたイルカ)の乗組員を主体とした地球陣営の宇宙船です。地球種族が銀河文明の中で孤立に近い状態にある中、〈ストリーカー〉は銀河文明の持つ膨大な知識データベース〈ライブラリー〉の正確性を確かめるべく探検を行っていました。(その行為さえ、銀河の種族達から冷ややかな目で見られているのですが)
 そんなおり、〈ストリーカー〉は銀河系の外れでとある発見をします。重力の潮だまりを抜けた場所に、一つ一つが月ほどもある巨大な宇宙船が五万隻もの大船団をなしているのを見つけたのです。船は数億年もの過去からそこに漂流したままのようでした。〈ストリーカー〉は船の一つに接近し、一体の生物のミイラを運び出します。
 ところがその発見を地球へ報告した途端、聞き耳を立てていた銀河文明全体が熱狂状態となったのでした。何やら宗教的に重要な秘密がその船団に隠されているらしいのです。とりわけ好戦的な列強種族は、〈ストリーカー〉を捕獲してその発見を我が物にしようと戦艦を繰り出し、彼等をを追いかけ回します。
 〈ストリーカー〉は貴重な情報を地球に持ち帰るべく逃げ回りますが、圧倒的な彼我の戦力差になす術もありません。大破し、辺境の恒星クスセメニー星系へと命からがら逃げ込みました。
 そして物語は、クスセメニー星系にある海洋惑星キスラップから始まります。
 惑星表面がほとんど海に覆われたキスラップへと逃げ込んだ〈ストリーカー〉。頭上には、互いにいがみ合いながら〈ストリーカー〉拿捕を虎視眈々と狙う異星人達の戦艦がひしめき合っています。〈ストリーカー〉のダメージは甚大で、修理にはかなりの時間を要する状態です。つまり、絶体絶命ですね(^^;)
 しかも、〈ストリーカー〉内部でも不穏な動きが見え隠れします。危機に臨んで一致団結、という具合にはなかなかいきません。船員同士の確執は、次第に深刻なものへとエスカレートしていくのです。
 更に混乱へ拍車をかけるがごとく、無人と思われた惑星キスラップに隠された秘密が、物語が進むにつれ明らかとなっていきます。
 大波乱の中、〈ストリーカー〉一行は果たして無事逃げ延びることができるのでしょうか。ストーリーは息もつかせぬスピードで展開していきます。

 本書の注目ガジェットは、探検船〈ストリーカー〉です。
 この宇宙船は、銀河文明のテクノロジーを取り入れながらも地球独自の技術をベースに建造されています。周囲に爪状の停滞フランジが付いた円筒形をしており、超空間ジャンプにより宇宙空間を渡るFTL船です。
 船長以下、〈ストリーカー〉乗組員のほとんどがネオ・ドルフィンで構成されています。ネオ・ドルフィンは銀河有数の優れた宇宙船乗りであり、〈ストリーカー〉が列強種族の追撃をかわすことができたのはその技量があってのことのようです。
 乗員がイルカであることから、惑星キスラップ上のような重力下では船内が水で満たされます。逆に、彼等にとって無重量は苦にはならないようで(元々、水中生活者ですから)、宇宙空間においては〈ストリーカー〉内の大部分が無重量環境に保たれるようです。ネオ・ドルフィン向けに特化された宇宙船と言えるでしょう。

 物語に登場する数々の奇妙な異星人達は、〈知性化シリーズ〉における魅力の一つです。
 甲皮と鱗に覆われた恐ろしい女系種族、ソロ族。他種族に冷淡な昆虫様生物タンデュー。とさかの付いた大柄な爬虫類型で、実直な面もあるテナニン。支配欲が異常に強い、ぶよぶよした嚢環の集合体ジョファー。水中行動も可能な、環境適応力の高い〈ブラザーズ・オブ・ザ・ナイト〉。鳥型をしたグーブルー、等々……。
 いずれも好戦的な列強種族であり、〈ストリーカー〉の秘密を他種族に渡すまいといがみ合っています。
 さらに、それら主族に従う類族もたくさん登場します(知性化をした方が主族、された方が類族)。特に面白いのがタンデューの類族エピシアークと〈受容者〉ですね。毛むくじゃらのエピシアークはありとあらゆる現実を否定するネガティブな性質であり、彼等に空間を否定させて穴をあけ、宇宙船を遠距離まで移動させる跳躍航法なるものが出てきます(笑) 逆に、ひょろ長い格好の〈受容者〉は全てを良きものと受け入れる性質を持ち、生体センサーとしての役割を果たしてるるようです。
 加えて、〈ストリーカー〉メンバーの大部分を構成するネオ・ドルフィンもまた、人間とは異質な面を持つ生物として描かれます。人間的な部分と非人間的な部分を併せ持つ、陽気で魅力ある生物ですね。

 本作の特筆すべき特徴として、登場人物の多さがあります。
 〈ストリーカー〉にはネオ・ドルフィンのクルー百数十名のほか、人間が七名、そしてネオ・チンパンジーが一名搭乗しています。更に、キスラップ上空には無数のエイリアンがひしめき合い、互いに死闘を繰り広げているのです。多分、視点だけで二十を超えるのではないでしょうか(^^;)
 ストーリーは短い段落毎に次々と違う人物視点へとシフトしていきます。しかしながら驚くべきことに、視点入れ替えによって読み手が混乱することはまずないと言っていいでしょう。キャラクタがしっかり立っているため、人物を取り違えることがないのです。
 登場人物の多くが、それぞれに問題を抱えています。あまりにも多くの事態が同時進行していくため、果たして収拾がつくのか読んでいる最中に不安に駆られるほどです(笑) けれども、物語はきちんと結末で収束しますからご安心ください。(シリーズ物ですので、明かされない秘密もありますけど)
 この人物の多さは、本書にとって大きなプラスとなっています。複数視点で語られることにより、物語に文字通り奥行きが感じられるわけですね。『スタータイド・ライジング』を傑作たらしめている要因でしょう。

この記事へのコメント

  • クロンドルの炎

    いや~、面白いですよね、知性化シリーズ。
    オレは小学生の頃からSF好きで、もう何百冊って読んでますが、今まで読んだ中で最高の傑作です!。シリーズの最新巻まで読み終え(地球を包囲していた列強諸族の艦隊が、ストリーカーの出現で逃げ出すやつです)ましたが、今から続編が待ち遠しい。
    2006年02月14日 03:17
  • Manuke

    To クロンドルの炎さん

    〈知性化シリーズ〉はスピード感が凄いですよね。それなりに分量があるにも拘わらず、読み始めると全然止まらなくて、あっという間に読み終えてしまいますし。
    ブリン氏は読み手のツボを突くのが上手い作家さんだと思います。私も早く続編が読みたくてうずうずしている状態です(^^;)
    2006年02月15日 00:39

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