たんぽぽ娘

[題名]:たんぽぽ娘
[作者]:ロバート・F・ヤング


 叙情的な筆致で、ロマンチックな物語をストレートに描く――それがロバート・F・ヤング氏の持ち味です。
 それほどメジャーな作家さんではありませんし、度肝を抜くような壮大さとも無縁ですが、そのお話は直球であるが故に抗しがたい魅力を持っています。「少女趣味だ」と言われることもあるようですが、良いものは良いのですから仕方がありません(^^;)
 本作『たんぽぽ娘』(原題:"The Dandelion Girl")は、ヤング氏の代表作と言える短編小説です。その優しく柔らかな物語に、心が温かくなること請け合いです。

 四十四歳の男性マーク・ランドルフは、妻のアンと共に湖のほとりにある山小屋で休暇を過ごす予定でした。しかし、アンは思いがけず陪審員に召還されてしまい、マークは一人で残りの二週間を潰す羽目になってしまいます。
 魚釣りや読書にもすっかり飽きて、マークは森の中をあてもなく散策していました。すると、丘の上で彼は一人の若い女性に出くわしたのです。たんぽぽ色の髪を風に踊らせ、古風な白いドレスを纏った二十歳ほどの娘に、マークは惹き付けられます。
 娘はジュリー・ダンヴァースと名乗り、自分は二百四十年後の未来からやって来たのだと微笑みながら語りました。本気にする必要はないけれども、信じたふりをして欲しいという含みを読み取ったマークは、ジュリーに話を合わせることにします。
 そして、ジュリーは父の発明したタイム・マシンで過去へ来たのだと説明しつつ、こう言います。

「おとといは兎を見たわ。きのうは鹿、今日はあなた」
"Day before yesterday I saw a rabbit, and yesterday a deer, and today, you."

 ジュリーは賢く、ウィットに富んだ娘でした。そして、病に伏せった父の代わりにこうして過去へタイム・トラベルし、その様子を父に話して聞かせるという優しい心根の持ち主だったのです。
 数日そうした逢瀬を繰り返すうちに、マークはすっかりジュリーに恋してしまいます。妻ある身で、そして親子ほども年齢が離れているのだと自覚していながら。
 ところが、ある日を境にしてジュリーは姿を見せなくなってしまいました。落胆し、かつ自己嫌悪に苛まれるマーク。ほんの数日前まで、彼は妻以外の女性に目をくれたことすらなかったのです。
 四日目になって、失意のマークがまた丘に登ったとき、果たしてジュリーはそこにいました――黒いドレスを纏って。彼女の父が亡くなったのでした。
 ジュリーはマークに、自分はタイム・マシンの部品交換を知らないため、あと一回時間旅行できるかすら怪しいのだと伝えます。そして……。

 本作の注目ガジェットは、タイム・トラベルです。
 ジュリーの説明によると、二十三世紀の未来にはタイム・マシンが存在するものの、過去への旅行は歴史的矛盾を引き起こす恐れがあることから、ごく一部の許可された者以外は時間旅行することができません。過去に憧れ永住したいと願う人を取り締まるために、時間警察という組織が存在するようです。
 しかし、ジュリーの父はそうした矛盾は起こりえず、未来人が過去へ干渉したことは元々歴史に組み込まれていたことになるのだと考えています。ジュリーは父の言葉を信じ、時間警察には秘密で過去へ旅行しています。なかなか大胆ですね(^^;)

 この『たんぽぽ娘』に限らず、ヤングは主に詩的で優しい物語を手がけられています。同じく詩的と称されるブラッドベリ氏と比べると、よりロマンチックなお話を好む傾向があるようです。
 本作はその中でもとりわけ美しい作品です。特に、前述のジュリーの台詞はとても印象的ですね。有名作家さんではないのにも拘わらず、本作をベストSFに推す方が大勢いらっしゃるのも頷けるところです。
ノスタルジックなラブストーリーとSFの取り合わせが素晴らしい、じんわりと心に染み入る素敵な物語です。

この記事へのコメント

  • Kimball

    うわーん!!
    これまたなんとも興味がそそられる
    作品ですね!!

    早速手にしたいとググってみたのですが...
    ○| ̄|_

    「絶版」....
    アマ損さん原書検索でも「なし」ですね..

    (T_T)(T_T)(T_T)

    リアル古本屋さん巡りしか
    なさそうです...
    --------------------------
    英名でググったら、原文公開サイトさんが
    ありました!\(^o^)/
    http://www.scifi.com/scifiction/classics/classics_archive/young2/young21.html

    検索かけると、ご紹介のセリフもありました!
    お、そこの上の、このセリフもいいですねえ!

    This is my favorite space-time coordinate.

    ----------------------------------
    Manukeさん、
    今年もたくさんの名作をご紹介頂き、
    ありがとうございました!!\(^o^)/

    良いお年を!!\(^o^)/
    2007年12月29日 09:09
  • Manukeさん、はじめまして。風と申します。

    ロバート・F・ヤングの短篇「たんぽぽ娘」、いいですよね~。私が初めて読んだのは、地元の図書館で。何気なく手にとった『年刊SF傑作選 第2巻』(創元SF文庫、ジュディス・メリル編)に入っていて、一読、切なくて優しい話の香りに魅了されました。タイムトラベル・ロマンスの数々の作品のなかでも、最上位に位置する名品だと思っています。

    この短篇が、ロバート・F・ヤングの作品集『ジョナサンと宇宙クジラ』(ハヤカワSF文庫)に収録されていないのは、本当に残念です。
    今はひたすら、本作品が収録されるだろう河出書房新社の「奇想コレクション」シリーズ、伊藤典夫編『たんぽぽ娘』(仮題)の刊行を、首を長くして待っているところです。

    こうしたハートフルなSF短篇では、ゼナ・ヘンダースンの「なんでも箱」、ジャック・フィニイの「愛の手紙」、ブラッドベリの「夜の邂逅」といった作品もいいですね。

    大好きな「たんぽぽ娘」の書き込みを見て、通りすがりに寄らせていただきました。

    よい年をお迎えください。
    2007年12月29日 17:05
  • Manuke

    To Kimballさん
    > 早速手にしたいとググってみたのですが...
    > ○| ̄|_
    >
    > 「絶版」....
    > アマ損さん原書検索でも「なし」ですね..

    そこなんですよね。
    こんな名作が入手困難というのはとてももったいないことです。なんとかならないものか……と思っていたのですが。
    下の風さんの情報によると、どうやら出版される予定があるようですね。
    大いに期待したいところですー。

    あと、図書館などにも置かれていたりするようです。
    (ウチの市の図書館、検索してみたら2冊ほど見つかりました)
    そちらに当たってみるのも良いかもしれません。

    > お、そこの上の、このセリフもいいですねえ!

    ジュリーの台詞は知的な部分が魅力的ですね。
    作中には印象的な文章が数多いのも、人気の理由だと思います。


    To 風さん
    > Manukeさん、はじめまして。風と申します。

    ようこそ、いらっしゃいませー。

    > ロバート・F・ヤングの短篇「たんぽぽ娘」、いいですよね~。私が初めて読んだのは、地元の図書館で。何気なく手にとった『年刊SF傑作選 第2巻』(創元SF文庫、ジュディス・メリル編)に入っていて、一読、切なくて優しい話の香りに魅了されました。タイムトラベル・ロマンスの数々の作品のなかでも、最上位に位置する名品だと思っています。

    私が持っているのは、コバルト文庫の『海外ロマンチックSF傑作選2・たんぽぽ娘』です。
    こちらに収録されているお話はどれも素敵なのですが(『なんでも箱』も含まれています。私も好き)、『たんぽぽ娘』はやはり一番のお気に入りです。

    > 今はひたすら、本作品が収録されるだろう河出書房新社の「奇想コレクション」シリーズ、伊藤典夫編『たんぽぽ娘』(仮題)の刊行を、首を長くして待っているところです。

    おおっ、刊行予定があったんですね。教えてくださり、ありがとうございます。
    私も風さんと同じく、首を長くして待とうと思います(^^;)


    それでは、お二方とも良いお年を~。
    2007年12月30日 01:12

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