サターン・デッドヒート2――ヘキシーの星のライオン――

[題名]:サターン・デッドヒート2――ヘキシーの星のライオン――
[作者]:グラント・キャリン


※このレビューには前作『サターン・デッドヒート』のネタバレがあります。ご注意ください。

 本作は、緻密な筆致で土星圏の姿を見事に描き出してくれた『サターン・デッドヒート』の続編です。
 前作では土星とその衛星を舞台にした宝探し風のストーリーでしたが、今回は一変して異星人との接触をメインに据えています。ハードSF的色彩の強かった前作よりもやや空想寄りになっていますけど、異星人ヘキシーがとても魅力的で、また別種の面白さがあると言えるでしょう。
 そしてもちろん、ホワイティとジュニアのコンビも健在です。前作で優れた行動力と決断力を持つ人間へと成長したホワイティは、今回は船長として異星遠征隊を率いることになります。彼と固い友情の絆で結ばれたジュニアも、その風変わりな個性を大いに発揮してくれます。
 異星人の残した人工物のメッセージを解読し、太陽系外縁に用意された恒星間宇宙船へと乗り込んだホワイティ率いる遠征隊。その目的地には、ジョークを愛する異星人・ヘキシーが彼等の到着を待っていたのです。

 土星人工物回収から数年ほど後――。地球と、複数のスペースコロニー群からなるスペースホーム社は相も変わらず対立していました。
 最後のお宝たる正十二面体のメッセージは、太陽-土星間距離を六十倍した位置に、人工物を作った異星人・ヘキシーの星へと至る無人宇宙船があることを示していました。そして両陣営のどちらもが、そこから得られる情報をできるかぎり独占したいと考えていたのです。
 回収チーム解散後にスペースホームへと戻ったクリアス・ホワイトディンプル(ホワイティ)は、大学で教鞭を執りながらも、来るべきヘキシー星への遠征隊に参加したいと考えていました。その下を、親友にして天才少年のジュニア・バディルが訪れます。彼はホワイティの希望により、急速に進行していた自分の老化現象を食い止めるためにコロニーへとやってきたのです。生化学と老人医療の権威にして魅力的な女性カーリ・ナングェッサーの助けを得て、ジュニアは老化を食い止めることに成功しました。
 やがて、ヘキシー船の予備調査が終わり、遠征隊の選抜が始まります。ヘキシーの星への距離は三百光年以内と知らされていますので、太陽系への帰還は往復で六百年ほど未来と予想されます。つまり、遠征隊員は全ての係累を捨てなければいけません。ホワイティは遠征隊の船長として、ジュニアやカーリを含む十九名の科学者、及び二名の〈コンタクト・スペシャリスト〉(それぞれ地球とスペースホームの利益を求める、言わば“会社側のスパイ”)を率いることになりました。
 そして、いくつかのトラブルを乗り越え、出発の時がやってきます。かつて地球側が人工物回収に使った宇宙船〈ハイ・ボーイ〉を改装し、船ごとヘキシー恒星船の中へ乗り込んで目的地まで運んでもらうのです。
 船内時間でおよそ二年間が過ぎた後、遠征隊は目的地へと辿り着きました。そこでホワイティら遠征隊は、遂にヘキシーとのファーストコンタクトを果たすのでした。

 本作の注目ガジェットは、異星人ヘキシーです。
 太陽系から二百三十八光年離れたG0型恒星系で生まれた生物で、体型は地球人に良く似ているようです。手足は二本ずつで指は六本、全身が短い灰色の柔毛に覆われています。両目は小さくつぶらで、鼻はほとんどありません。身長は百六十センチメートル前後で、男女の性別があります。
 ヘキシーの呼び名は六角形の人工物の制作者であることから付けられたものですが、文化的にも彼等は『六』の数字を多用しています。これはヘキシー達の使う数字が六進数であることに由来するもので、逆にヘキシーから見ると地球人は「十が好きな種族」と感じられるようです。この対比がとても面白いですね。
 ヘキシー文化の特徴として、とにかくジョーク好きな点が挙げられるでしょう。社会を円滑に運営するための潤滑油として笑いを活用しているようです。日常会話でジョークが頻繁に使われるだけでなく、政治や経済活動にまでその範囲が及びます。例えば、政権批判はしばしば上演される〈冗談劇(ジョークプレイ)〉によって行われ、笑い者になった政治家はその座を追われることになります。(ジョークプレイが当を得たものでなければ、上演した側が逆に笑われることに)
 このジョーク気質はホワイティ達との交流でも発揮されます。遠征隊員はヘキシーの惑星名を「THARTHEE(ツァルツィー)」だと教えられますが、これは実は「THE EARTH(地球)」のアナグラムだったりするわけです(^^;)

 異星人ヘキシーの設定や描写が本作の肝ですが、冒険物語としても前作同様に胸躍る作品と言えます。
 特に主人公ホワイティの活躍が見所ですね。自己批判的な一人称でお話が綴られるために一見すると頼りない印象を受けますけれども、読み進めていくと実は皆(特にジュニア)から大いに信頼される有能な人物であることが見えてきます。
 相棒のジュニアもその持ち味を発揮してくれます。その小鬼のような外見に偏見のないヘキシー達からは、賢く悪戯好きの少年として絶大な人気を集めることになります。
 誰もまだ実物を見たことのない土星の情景をリアリティ豊かに描写してくれた前作とは傾向が異なるものの、架空の惑星THARTHEEとその住人ヘキシーを巡るストーリーは別の意味で魅力的です。異なる星で進化を遂げた知的生命体とのカルチャーギャップが楽しい、異生物SFの傑作です。

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