宇宙の小石

[題名]:宇宙の小石
[作者]:アイザック・アシモフ


 本書『宇宙の小石』は、アシモフ氏の『銀河帝国の興亡』に連なる作品です。ただし、舞台背景を共有しているもののお話は独立しており、単体の作品として楽しむことができるでしょう。
 アシモフ作品はどちらかと言えば派手さに欠ける物語が多いのですが、本書もまた地味なお話と言えるかもしれませんね。全面に押し出すような奇抜なアイディアもありませんし、宇宙を股にかけて大活躍したりもしません(小活躍ぐらい?)。そもそもメインの人物はいい歳をしたおじさんですから(^^;)
 とは言え、それは本書が面白くないということを意味しないのです。現代人であるシュワーツが銀河帝国時代に迷い込み翻弄される様、そして複数の人々が権謀術数を巡らす様は十分に読み応えがあります。色々と陰謀渦巻きながらも暗い話にならないのは、アシモフ作品の特徴と言えるでしょうか。
 未来史である銀河帝国世界を現代人の立場から描くことにより、本書をアシモフ銀河帝国世界の入門書として位置づけることもできます。そして同時に、後のアシモフ未来史統合化において、決して大きくはないものの興味深い意味を見いだせるかもしれません。

 ジョゼフ・シュワーツは現代(本書が書かれた二十世紀中頃?)に生きる洋服屋のご隠居でした。高等教育を受けてはいないものの好奇心旺盛であり、様々な書物を濫読したことで多くの知識を得ています。
 その彼が散歩中、近くにあった核研究所の実験の余波を受けて別の世界へ飛ばされてしまいます。辿り着いた先には普通の人間がいたものの、言葉は通じません。右も左も分からないシュワーツは、あろうことか知能を増大する『シナプシファイアー』という装置の実験台にされてしまうのです。そのおかげでたちまち彼らの言葉を理解できるようになったシュワーツは、自分のいる場所が未来の地球であることを知ります。
 シュワーツが飛ばされた時代では、人類が宇宙へ進出し巨大な銀河帝国を形成していました。地球が人類の起源であることは忘れ去られ、放射能にまみれた辺境惑星として蔑まれています。地球人側はそれを恨み、ある野望を抱いているのです。
 そんなおり、地球が全人類の故郷であることを証明するために若き考古学者ベル・アーヴァダンが地球を訪れます。そのアーヴァダンと、そして『シナプシファイアー』の副作用で思いもよらない能力を獲得したシュワーツは、偶然と勘違いのせいで野望を巡るドタバタ騒ぎに巻き込まれてしまうのでした。

 本作の注目ガジェットは『シナプシファイアー』でしょうか。この装置のせいで単なる壮年男性だったシュワーツが物語を左右する重要人物になります。
 一つ注視するポイントとして、『シナプシファイアー』によってシュワーツの獲得する能力があります。この特殊能力、『銀河帝国の興亡』においてファウンデーション最大の敵として立ちはだかる〈彼〉の力に通じる部分がありますね。
 ただし、ストーリー的に直接の繋がりはなさそうです。晩年の補完作品で各物語を繋ぐエピソードが語られますが、本書『宇宙の小石』はあくまで番外的な扱いですし。
 もっとも、はっきりと明記されたものではありませんし、〈彼〉自身の過去にも謎がつきまといますから、〈彼〉と『シナプシファイアー』の関連に思いを巡らせてみるのも読者の楽しみの一つと言えるでしょう。

 本書の舞台は遠未来の地球ですが、あまり魅力的な社会とは言えません(^^;) 地球人達は他の銀河文明世界からの蔑視を受けて憎悪に凝り固まり、奇妙な宗教で生活を律しています。
 どちらかと言えば陰鬱な世界なのですけど、不思議と物語全体は明るい印象を受けます。少々無鉄砲な気はあるものの前向きな青年アーヴァダンや、相手の裏を読んでいるつもりで偶然に翻弄される〈古代教団〉の幹部など、どこかしらコミカルな登場人物達のおかげもあるでしょうか。
 また、さほど重要ではありませんが、ストーリーの背後に「老いること」への賛辞が含まれます。そうした要素もあって、本作は読後感の良い作品に仕上がっています。

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