次元侵略者

[題名]:次元侵略者
[作者]:ジョン・ブラナー


 本書『次元侵略者』は、複数の異次元と交易を行う世界で起きた陰謀劇を発端とする、一風変わった侵略SFです。
 異次元世界(いわゆるパラレルワールド)とは、私達が住んでいる世界の隣(どう『隣』なのかは不明(^^;))に良く似た別の世界が存在するというものです。本作ではそのうちのいくつかと接触を果たした後、異次元世界間で貿易が行われているという設定がなかなか興味深いです。
 〈市場〉の下で異世界との交易を独占する豪商の一人ライケンは、あるミスをきっかけに足下をすくわれそうになります。富を手放すことを厭うライケンは反逆を起こそうと行動を始めますが、その事件の裏には別の思惑が隠されていたのです。

 〈世界経済同盟〉により国家が消滅した未来――タケットという名の科学者が、ある驚くべき発見を成し遂げます。それは、太陽の周囲には地球の姉妹世界が何十万も存在しているというものでした。
 タケットの〈原理〉を元に数多くの遠征隊が別世界へと出発し、そこで数々の異なる文明を発見しました。それらはいずれも共通の根――強欲の上に成り立っており、その結果として異世界同士の貿易が手当り次第に行われるようになります。
 しかし、そこで思いもよらぬ事態が発生します。どこかの世界から持ち込まれたウイルス性の疫病、〈白死病〉が猛威を振るったのです。数十億人が感染し、そのうち一億人の人間がこれによって命を落とした後、ウイルスの変異により流行は沈静化します。
 大打撃を受けた地球文明は、タケットの〈原理〉を管理する必要に迫られました。崩壊した経済を立て直すためには姉妹世界との交易が必要で、今更全てを放り出してしまうことはできなかったからです。
 かくして、〈市場〉と呼ばれる一千階もの巨大な塔の下で、特別に信頼された組織組合にのみ異世界交易のフランチャイズを賃貸するという仕組みが出来上がりました。しかし、時を経るに従いその仕組みは腐敗し、特権を持つ者が富を独占するようになります。
 そして〈白死病〉事件より一世代ほど後、豪商の一人アーメド・ライケンは、輸入した穀類にカビが生えていたという失態を突かれてフランチャイズを失いかけます。それは〈白死病〉とは違い害のないものでしたが、彼のライバル達は大げさにそのミスをあげつらうことで、ライケンの権利を横取りしようとしたのです。
 しかし、ライケンはそれに従う気はありません。〈市場〉とライバル達に対抗するべく私兵を組織し始めたライケンには、一つの切り札がありました。
 時を同じくして、妻オーリン・ヴェイジに対する殺人未遂容疑で追われていた男ルイス・ネバダが、ライケンの下に身を寄せることになります。それは一見すると関係のない物事のように思われていましたが、実はそうではなかったのです。
 多数の人間の欲望が渦巻く中、事態は動き出します――その裏にいる恐るべき侵略者の存在を誰も知らないまま。

 本書の注目ガジェットは、異次元世界("alternate world")です。
 原理発見者の名前を取って「タケットの諸世界」とも呼ばれ、地球にそっくりの世界が数十万個も見つかっているようです。それぞれの世界には地球と同じく人間が存在しますが、各々独自の文明を発達させています。
 作中では、科学者タケットが「三・一四一五九……」と続くお馴染みの円周率を取らない物理的条件を見つけ出し、その状況を生み出す装置を作ったとされています(空間を歪曲させたのでしょうか?)。その装置が実は、偶然に異次元世界へと通じる扉の役目を果たしてしまったというわけです。
 これによって多数の別世界への道が開け、探検と交易が始まりますが、タケットがその功績を讃えられることはありませんでした。その後に起こった〈白死病〉の責任を問われ、彼は暴徒に殺されてしまうのです。以後、〈白死病〉の後遺症を持つ者にとっては憎悪の対象となり、一般大衆の間では「タケット」の名は汚らわしい単語として通用しているようです。タケット自身が〈白死病〉をまき散らしたわけではないので、ちょっと気の毒ですね(^^;)

 本書のタッチはとてもシニカルです。主要な登場人物は、〈市場〉の最高長官マニュエル・クロストライデス、下層階級のボスであるジョッキー・ホールと手下のちんぴらカーディ・ウェンス、妻に危害を加えた男ルイス・ネバダとその妻で重傷を負ったオーリン・ヴェイジ、ネバダを追いかける副保安官キングズリー・アスロン、そしてアーメド・ライケンを含む豪商達と、いずれも自己中心的な面々です。特に誰が主役という訳ではなく、各々が強欲や憎悪に突き動かされて物語を織りなしていきます。
 世界設定もかなり陰鬱ですね。異世界との貿易で成り立つ社会では工業生産が壊滅状態となり、貧富の差が大きいようです。また、〈白死病〉の元患者の中にはタケットを呪う宗教団体に属する者も多く、儀式屋(カルティスト)と呼ばれ一大勢力を成しています。
 陰謀渦巻く巨塔・〈市場〉の下で繰り広げられるサスペンス。結末はいささか投げっぱなしの感があるものの(^^;)、独特の味わいがあるお話と言えるでしょう。

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