プタヴの世界

[題名]:プタヴの世界
[作者]:ラリイ・ニーヴン


 『プタヴの世界』はニーヴン氏の処女長編であり、同時に〈ノウンスペース・シリーズ〉の長編第一作でもあります。
 〈ノウンスペース・シリーズ〉は科学的な正確さを追求しながらも、魅力的な異星人・複雑な勢力関係・長期にわたるスパン・そして斬新かつ壮大なアイディアを併せ持つSFシリーズで、しばしば「洗練されたスペースオペラ」と称されます。時にガジェット勝負だったり、あるいは推理小説風だったりと、様々な作品が含まれています。
 本書はその最初のお話としての要素が見事に詰め込まれていると言えますね。恐るべきスリント人クザノールと、彼に接触したラリイの顛末――バックボーンの壮大さと相まって非常にスリリングであり、ウィットに富んだ文章が読む者を楽しませてくれるでしょう。

 物語はまず、クザノールの宇宙船から始まります。
 クザノールは銀河の支配者スリント人の一員であり、彼らは強力無比なテレパシーをもって銀河中の生物を奴隷として使役しています。もっとも、クザノール個人は決して裕福とは言えず、賭博で手に入れた元手で一攫千金を夢見る一市民でしかありません。
 そのクザノールが乗る宇宙船ですが、事故により突然核融合モーターが爆発してしまいます。宇宙船は亜光速で飛行していて、このままでは救助を求めることすらできません。そこで、クザノールは宇宙服の停滞フィールドを作動させて自分自身を凍り付かせ、人の住まない惑星に突っ込むことにします。停滞フィールドを作動させると中の時間は止まってしまうので、その状態で救助を待とうというのです。
 そして、時は流れて十五億年後(!)――舞台は二十二世紀の地球へと移ります。ラリイ・グリーンバーグは最近開発されたコンタクト装置を使ってイルカと心を通わせる実験をしていました。コンタクト装置とは、人工的なテレパシーで接続された者同士の心を接続する機械なのです。
 その彼へ、物理学者ドーカス・ジャンスキーが接触を図ってきます。近年海底で発見された銀色の〈海の像〉が時間遅延フィールドに包まれた宇宙服だと見抜き、コンタクト装置を使って中の異星人とコミュニケーションを取ろうと言うのです。ラリイは興味を惹かれ、ジャンスキーに協力することにしました。
 技術的な制約から、フィールドを開けるのは一秒だけです。その一瞬のうちに、ラリイは中の異星人――クザノールと心を接触させ、その記憶を読み取りました。
 ところがここで、思いもかけないことが起きてしまいます。果たしてラリイはどうなってしまうのでしょうか。そして、十五億年の太古から復活したクザノールの運命やいかに。

 本作における注目ガジェットは、停滞フィールド(ステイシス・フィールド)ですね。このフィールドを発生させると内部の時間が停止し、その代わりにいかなる物理的影響も受けなくなるわけです。
 スリント人の宇宙服は、停滞フィールドを非常用の脱出カプセル代わりに使っているようです。フィールドを発生させれば外からの危険に晒される可能性はほとんどなくなりますし、時間が止まっているので空気や食料が尽きる心配もありません。遭難者は救助されるまで、時間が経過したことにすら気付かないのです。
 もっとも、この本書のクザノールのように「救助されなかった場合」にはかなり悲惨なことになるわけです(^^;) 未来に一方通行のタイムマシンのようなものと言えるでしょうか。
 スリント人文明最盛期にはおそらく数多くの者がこの停滞フィールドを使ったことでしょうから、停滞ほったらかし状態のスリント人も実は銀河のあちこちにたくさんいるのかもしれません。すごく傍迷惑ですね(笑)

 〈ノウンスペース・シリーズ〉における魅力の一つは、奇妙な異星人達の存在です。この『プタヴの世界』にもスリント人、そしてバンダースナッチが出てきます。
 中でもスリント人は、〈ノウンスペース・シリーズ〉中最も凶悪な連中と言えるでしょう。目玉は一つで、全身が緑色の鱗に覆われ、人間よりもやや小柄です。そして、ありとあらゆる他種族をそのテレパシーで精神支配し、奴隷として使役します。後の作品ではスレイヴァー(奴隷商人)とも呼ばれるほどです。
 また、本作では二十二世紀における地球と小惑星帯の確執など、シリーズに影響を与える要素がてんこもりになっています。ニーヴン氏は元々これをシリーズ化するつもりはなかったようですが、使い捨てにするにはあまりに惜しい設定ですよね。『リングワールド』まで繋がる壮大な未来史が本書から始まったことを考えると、実に興味深いものがあります。

この記事へのコメント

  • goldius

    クザノールは博徒なのに、ポーカーのルールを把握出来ない描写がありましたが、スリント人文明の賭博に疑問を持ちました。テレパシーがあるので対人博打は無かったということか?サイコロとかルーレットとか対物博打しかなく、対人博打は敵の手が読めるので、博打として成立せず、ポーカーが博打になるという認識がないので、ポーカーを理解出来なかったのか?
    2007年08月08日 10:42
  • Manuke

    気軽にクザノール=グリーンバーグの誘いに応じたところを見ると、スリント人同士でも賭け事を行っていそうな感じがします。思考遮蔽もありますし。
    ポーカーのルールは理解していても、駆け引きやら戦略が存在することを認識できなかったのではないでしょうか。麻雀初心者が相手の捨て牌を見ず、役作りに専念してしまうように(^^;)

    スレイヴァー的にはそもそも頭を使う行為を自分で行ったのが失敗のような気もしますね。
    スリント人は奴隷の頭脳を、あたかも自分の頭の拡張部分として使えるわけですから、ゲーム自体を奴隷に代行させる方が良かったのかも。
    ただ、こと賭け事に関しては自分の奴隷の思考を相手に読まれないようにする必要がありそうです。
    2007年08月09日 01:45
  • ちゅう

    ご無沙汰しておりました。タイムマシンで現在に飛んできましたw

    ワタシの部屋のステイシスフィールドは、ある日調子悪くなり、保存していたイチゴにカビが生えてしまったのにはショックでしたw

    ところで、大鍋で大量に作った料理をステイシスフィールドに入れておいて、少しずつ出来たてを食べるというのは、ニーヴンの何の物語だったでしょうね。だれもいない地球に戻ってきた男と、魔女みたいなお婆さんの戦いみたいな話でした。物質転送機かと思ったら、じつは若返りマシンだったりで、けっきょく仲直りすると。。
    2013年09月27日 23:55
  • Manuke

    はーい、半年ぶりぐらいでしょうか。
    タイムマシンで未来に行けるなら、パッと数万年ぐらい飛んでみたいです。
    人類滅んでるような気もしますが(^^;)

    「料理をステイシスフィールドに入れて~」は『時間外世界』ですね。
    『インテグラル・ツリー』ともリンクしている点が興味深い設定でした。
    2013年09月29日 01:02
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