コンタクト

[題名]:コンタクト
[作者]:カール・セーガン


 カール・セーガン氏と言えば、二十世紀天文学者でもとりわけ知名度の高い人物ですね。科学ドキュメンタリー・テレビ番組『コスモス』の制作監修及び司会進行役を務めたことで全世界的に顔を知られる他、木星生命(アーサー・C・クラーク氏が著作中で幾度か使用)等の宇宙生物学を開拓され、NASAの宇宙計画の多くに関るというバイタリティ溢れる人物です。その他にも、SETI("Search for Extra-Terrestrial Intelligence":地球外知的生命体探査)の設立を推し進めたり、疑似科学やオカルトに対する反駁を行ったりと、その活動は多岐に渡ります。
 そのセーガン氏の手による、異星知的生命との接触を描いたファーストコンタクトSFが、本作『コンタクト』です(タイトルそのまんまですね(^^;))。あくまでフィクションではありますが、氏ご自身がSETI設立に関ってきただけあって、そのリアリティはかなりのものです。特に前半でファーストコンタクトが行われる場面は、非常に感動的です。
 一方、本作は単なる小説に留まらず、メッセージ性が高いという側面も持ちます。作品を読み進めていくと、セーガン氏ご自身の主張が強く込められている場面にいくつか出くわします(フィクション性を壊すほどではありませんが)。『コンタクト』を読む上で、氏の経歴を知っているとより深く作品を理解できるかもしれません。
 聡明な少女だったエリーはその才能を科学的方面へと開花させ、地球外知的生命体の探査に従事することとなります。そしてある日、電波望遠鏡はキャッチするのです――こと座ヴェガよりもたらされた、異星人からのメッセージを。

 アメリカ・ウィスコンシン州に生を受けたエリナ・アロウェイ(エリー)は、幼い頃から既にその知的才能を垣間見せていました。
 彼女は長ずるに従い自然科学や工学に興味を抱きますが、子供だから、そして女だからという理由で周囲の人々から白眼視されます。しかし、それに対する反発をバネにしてエリーは大学へと進学し、天文学者となる道を選んだのです。
 アレシボ天文台にて少しずつ業績を伸ばしていたエリーの下を、かつて大学で師事していたピーター・ヴァレリアンが訪れました。ヴァレリアンは地球外にいるだろう知的生命体の発見という命題に取り憑かれた人間で、エリーをその計画へスカウトしに来たのです。ヴァレリアンの語る話に魅了されたエリーは、その話を受けることに決めます。
 そして十数年後エリーは、多数の電波望遠鏡を使って異星人の発する電波を探す〈アーガス計画〉の所長となっていました。〈アーガス計画〉はSETIの要でしたが、一部の天文学者からは資材の無駄遣いだと非難されています。エリーはそうした人達を時になだめ、時に妥協しながら、なんとか〈アーガス計画〉を存続させてきたのです。
 そしてある日ついに、彼女達の努力が報われる日がやってきました。地球から二十六光年しか離れていない、こと座α星ヴェガから、自然のノイズではあり得ない人工的な信号を受信したのです。
 その信号の内容は――二進数で記述された、素数の羅列でした。

 本作の注目ガジェットは、SETI(地球外知的生命体探査)です。
 このSETIという用語はフィクションではなく現実に存在するものです。特定のプロジェクトを指すものではなく、宇宙のどこかにあるだろう非人類の知性を探す試みの総称に当たります。
 個々のプロジェクトとしては、天文学者フランク・ドレイク氏の主導した『オズマ計画』(グリーンバンク電波望遠鏡で、くじら座タウとエリダヌス座イプシロンを調査)や、アレシボ天文台の収集したデータを世界中のボランティアが分散コンピューティング手法で解析する『SETI@home』、日本のなゆた望遠鏡によるレーザー光の探索『なゆたOSETI』等があります。
 作中に登場する〈アーガス計画〉は、ニューメキシコの砂漠上に建造された百三十一機の電波望遠鏡によって宇宙の隅々を観測し、受信した電波の中から人工的な信号を見つけ出すことを目的としたプロジェクトです。規模的になかり大掛かりなものですが、データの解析はコンピュータによって自動化されています。
 物語中では、この施設をもっと別の用途に有効活用すべきだと主張する人々が存在し、主人公エリーはしばしば突き上げを食らいます。こうした批判は現実のSETIに対してもしばしば行われるもののようですね。ストーリーが「SETIにより実際に地球外の知性が発見されたら」というところから始まる本作は、そうした声に対する反論、及びSETIの宣伝効果を狙った部分が少なからずあるように思われます(^^;)

 物語の中でエリーは、非科学的な観点との戦いを幾度も余儀なくされます。
 少女期から大人になるまでの間には、義父による「女に学は必要ない」系の非難や、周囲の人間からのやっかみを浴びせられます。物語が動き始めてからは、エリーはたびたび宗教的指導者との対話を行うことになります。また、後半では更に大きなものとの対峙を迫られます。
 こうした一連の対決は、疑似科学やオカルトに対して批判を行ってきたカール・セーガン氏ご自身の姿と重なる部分があるように感じられますね。その意味でも、本作はセーガン氏の人となりを体現していると言えるのではないでしょうか。

 余談になりますが、セーガン氏は本作を執筆するに当たって、劇中で扱わなければならない超光速移動手段の信憑性を高めたいと感じ、物理学者のキップ・ソーン氏に考証を頼まれたそうです(あとがきにソーン氏への謝辞があります)。これに対し、ソーン氏は通行可能なワームホールを示されたとのこと。
 面白いことにキップ・ソーン氏はこの後、ワームホールが過去へ時間旅行できるタイムマシンとして使える可能性に思い至りました(『キップ・ソーンのタイムマシン』、『ワームホール型タイムマシン』と呼ばれます)。光速度不変を原理とする相対性理論の世界では、超光速はタイムトラベルと表裏一体なんですね。
 SFと科学の関わりは必ずしも一方通行ではなく、SFが新たな科学的着想の発端となりうる一例かもしれません。
 これはSETIそのものにも当て嵌まるでしょう。人類とは別個に進化した地球外知性の存在を確かめたいという気持ちの中に、センス・オブ・ワンダーのきらめきが確かに隠されています。そして、本作の感動はまさにそこにあるのです。

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