ラモックス――ザ・スタービースト――

[題名]:ラモックス――ザ・スタービースト――
[作者]:ロバート・A・ハインライン


 このお話は、ミスターSFことハインライン氏の手による茶目っ気たっぷりのユーモアSFです。日本では抄訳『宇宙怪獣ラモックス』がジュブナイル(少年少女向け)SFとして出版されており、こちらでご存知の方もいらっしゃることでしょう。
 但し、オリジナルの『ラモックス』は必ずしも子供向けの物語という訳ではありません。形式上の主人公はティーンエイジャーの少年となっているものの、ストーリーラインとしてもう一つの流れがあり、高級官僚の男性が大きな役割を果たしています(裏の主人公に近い感じです)。外交的な駆け引きや、けれん味溢れる言葉の応酬等、こちらのお話もウィットに富んだ楽しさがあります。
 宇宙探検隊のメンバーが連れ帰った異星生物ラモックス。長らく飼われていた間にすっかり大きくなってしまったラモックスが塀を壊して外へ出たとき、大変な騒動が起こってしまうのです。

 スチュワート家には一匹のペットがいました。その名前はラモックス("Lummox":のろまの意)。しかし、ラモックスは犬でなければ猫でもない、異星生物でした。
 三代前のジョン・トマス・スチュワート八世は、人類初の恒星間宇宙船で宇宙探検を行った際、ある惑星で見つけたかわいらしい生き物をペットにするため連れ帰ったのです。それから百年が過ぎ、チワワほどのサイズだったラモックスはどんどん大きくなり、何メートルもの巨体に成長していました。
 現在の飼い主であるジョン・トマス・スチュワート十一世は高校生で、最近はガールフレンドのベティと付き合うのに夢中なため、ラモックスとは遊んでくれません。退屈したラモックスは家を囲むブロック塀をくぐり抜け、外へ出てしまいます。
 隣家の花壇に咲いたバラの花や、吠えかかってきた野良犬をぺろりと平らげてご満悦のラモックスでしたが(^^;)、たちまち見つかって大騒ぎになります。追い立てられたラモックスは怯えて逃げ回り、そのせいで町に甚大な被害をもたらしてしまいました。
 怪我人こそ出なかったものの、飼い主のジョン・トマスはその責任を問われ、損害賠償と危険極まりない怪物の処分を求めて訴えられました。対象が異星の生物だったため、宇宙関係のごたごたを引き受ける宙務省から特別監督官グリーンバーグが出向き、裁判が始まります。
 一方、宙務省常任次官でグリーンバーグの上司であるヘンリー・グラッドストーン・キクは別の問題に直面していました。今まで名前も知られていなかった異星人・フロシー星人の宇宙船が地球上空までやってきて、強硬な態度である要求を突き付けてきたのです。それが実行されない場合には地球を蒸発させてしまうと。
 フロシー星人の言う、その要求とは……。

 本書の注目ガジェットは、宇宙怪獣ラモックスです。
 外観は「サイとトリケラトプスを足して二で割ったような感じ」と記されており、その顔は人間から見ると、ばか笑いを浮かべているように見えるようです。ずんぐりした足が八本、地面から頭までの高さは二メートルほど、体重は数トンあります。
 食欲旺盛で、あらゆるものを食べてしまいます(特に鉄が好物)。体は頑丈で、銃で撃たれようが水攻めにされようがびくともしません。
 また、人語を解し、小さな女の子のような声で喋ることもできます(語彙は四歳児程度)。性格は基本的にのんきですが、図体に似合わず臆病なところもあります。ジョン・トマスとは固い絆で結ばれており、互いを家族と考えているようです。
 元々、主人公の曾祖父ジョン・トマス・スチュワート八世が宇宙探検から連れ帰ったもので、当時は仔犬サイズだったのが百年の間に巨体へと成長してしまったようです。いくら可愛いからといっても、素性の知れない宇宙生物を拾うときには注意しましょう(^^;)

 前述の通り、ストーリーにはジョン・トマス&ラモックスのサイドと、宙務省次官キク氏のサイドがあります。
 少年ジョン・トマス君のサイドは、ラモックスとそれを巡る大騒ぎのコミカルなお話です。おせっかいでかなり自分勝手な(^^;)ガールフレンドのベティや、ラモックスを殺してしまおうとする警察署長ドライザーの悪戦苦闘ぶり、そしてなにより巨体ながら愛らしいラモックスが見所ですね。
 一方、キク氏のサイドでは外交的な問題が扱われます。状況はそれなりにシリアスなのですが、シチュエーションや人物の台詞にエスプリが効いていて、ジョン・トマス君のサイドとはまた別の面白さがありますね。キク氏はジョン・トマスの祖父ぐらいの年齢で、当初は堅物のお役人のように見えますが、なかなかどうして食えない人物です。
 この両者のお話が交互に、そして最後には交差する形でストーリーが展開していきます。ジュブナイル的な少年目線と政治がらみの高級官僚視点という二面性が面白い、ユーモア溢れる異生物SFの傑作です。

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