太陽系辺境空域

[題名]:太陽系辺境空域
[作者]:ラリイ・ニーヴン


 本書『太陽系辺境空域』は、ニーヴン氏の代表的作品群〈ノウンスペース・シリーズ〉を構成する十三の物語を収めた短編集です。(原題:"Tales of Known Space")
 地球人類の太陽系進出時代から始まり、次第に拡大されていくノウンスペース(既知宇宙)で起こる様々な事柄を扱った壮大なスケールのシリーズですが、本書にはその歴史の全域に渡るエピソードが集められています。

◎いちばん寒い場所

 〈ノウンスペース〉最初期のエピソードであるのと同時に、ラリイ・ニーヴン氏のデビュー作でもあります。
 脳と脊髄だけの存在となり宇宙船と一体化したエリックと、そのパートナーのハーウィーのお話です。彼等は「太陽系の中で最も寒い場所」を探検中、何もかもが凍り付くはずの場所で、動き回る物体を発見します。
 その「最も寒い場所」とは――。

◎地獄で立往生

※『無常の月』収録作と共通。

 エリック&ハーウィー、第二弾です。
 二人のいる場所は、前回とは打って変わって灼熱の惑星、金星でした。彼等が超高温な金星上空で調査を行っていたところ、突如トラブルに見舞われます。宇宙船と直結されているエリックが、ラムジェット制御機構の感覚が麻痺したと言うのです。
 ところが、宇宙船を調べてみても悪い部分は見つかりません。ハーウィーは、『故障』しているのはエリック自身なのではないかと疑い始めます。

◎待ちぼうけ

※『無常の月』収録作と共通。

 冥王星の探検調査のために着陸船でその地表へと降下したジェロームと「わたし」の二人。けれども、冥王星の地表は氷で覆われていたためロケットの熱でそれが溶け、そして再び凍り付いたことで着陸船は氷層に閉じ込められてしまったのです。
 ジェロームは放射能汚染されたロケット下部に潜り込んで状況を調べた後、自ら宇宙服のヘルメットを脱いで死を選びます。
 しかし「わたし」は、もしかしたら救出してもらえるかもしれないあることを思いつき、実行しました。それがどんな結果をもたらすのかを知らず。

◎並行進化

 火星探査にやってきたヘンリーとクリスは、着陸船の近くで奇妙なものを発見します。それは透明なブロックで組まれた井戸のような物体でした。
 しかも驚くことに、ブロックはダイヤモンド製だったのです。果たしてこの井戸は何のために作られたものなのでしょうか。

◎英雄たちの死

 探検隊として火星にやってきた十五人の男達。しかし、ある経緯により殺人事件が起きてしまいます。
 殺人犯のカーターは罪を問われることに納得できず、マースバギーに乗って逃亡を図ろうとしました。そして、被害者の兄弟だったアルフもまたバギーを駆ってそれを追いかけます。
 限られた酸素残量を巡っての駆け引きを含んだ、長い追跡劇が始まります。

◎ジグソー・マン

※『無常の月』収録作と共通。

 犯罪者は死刑となり、移植用臓器へと解体されてしまう時代――。
 ルーは、とある罪を犯した咎で監房の中にいました。明日になれば死刑を宣告される運命でしたが、ルーは自分が死刑になるほどの罪を犯していないと感じていたのです。
 そんなおり、彼の隣に収監されていた老人が、臓器に解体されることを嫌って爆弾で自殺しました。その結果、監房の壁に穴が開いてしまい、ルーはそこから脱獄を図ります。

◎穴の底の記録

 ARM(国際連合警察)のルーカス・ガーナーは、ある事件に関することで小惑星帯政府へ招かれていました。そして、マラーの遺した航行日誌を聞くことになります。
 小惑星帯人(ベルター)のマラーは、密輸の摘発で警察船に追い回されていたとき、それから逃れるために火星表面へと着陸しました。そこで彼は、第二次探検隊(おそらく『英雄たちの死』のこと)の基地を訪れるのです。

◎詐欺計画罪

 ARMのルーカス・ガーナーは、拡大ロサンゼルス地区警察署長のマスニーとレストランへやってきていました。
 そこでガーナーは、ロボット給仕に対して嫌悪の表情を見せます。マスニーが訳を尋ねると、ガーナーは九十年近く前に起きたある事件について語り始めるのです。

◎無政府公園にて

 かつて主要交通網として社会に貢献したフリーウェイは、輸送システムの進歩の結果、無用の長物と化しました。そして今、サンディエゴ・フリーウェイであったものはキングズ・フリー・パークと名を変えています。その中では暴力以外のいかなる行為も許される、ほぼ無政府状態の公園です。
 公園内にはバスケットボール大の金色の球体・監視アイが浮き、暴力を行おうとする者を気絶させてしまいます。このようにして、フリー・パークからは暴力だけが排除されていますが、それ以外は何を行っても良いとされていました。
 ラッセルがキングズ・フリー・パークを訪れたとき、知り合いの芸術家兼発明家ロンに出会いました。ロンはある手段を使って、パーク中の全ての監視アイを墜落させることができると言うのです。(無論、それすら違法ではありません)
 しかし、ロンが興味本位で本当に全ての監視アイを落としてしまったとき、彼等は無政府状態ということの真の意味を知ることになります。

◎戦士たち

 地球人とクジン人のファーストコンタクトのお話です。
 宇宙船エンゼルズ・ペンシル号は太陽系からウイ・メイド・イット星へ向かう途中、異星の宇宙船と遭遇しました。乗員達は相手との交信を試みますが、上手くいきません。
 しかし、その船は戦闘的種族・クジン人の戦艦でした。クジン人達はテレパシーを使い、相手の船が武装していないことを知ると、熱兵器を向けて中の生物を焼き殺してしまおうとします。

◎太陽系辺境空域

 〈ノウンスペース・シリーズ〉中でも主役級の人物、ベーオウルフ・シェイファーのお話です。
 ベーオウルフ・シェイファーはジンクス星で足止めを食っていました。太陽系の辺境で、幾隻もの宇宙船が原因不明のまま消息を絶ち、このせいで地球への船便が途絶えてしまったためです。
 そんなとき、シェイファーは偶然にも友人のカルロス・ウーと再会します。そして、カルロスの紹介で異星局の高官(かつ仇敵の)シグムンド・アウスフェラーと会うことになりました。
 アウスフェラーは貨物船を装った軍艦ホボ・ケリイ号で地球へ向かうところであり、カルロスを便乗させてくれるとのことでした。いかなる相手にも対処できるとアウスフェラーは自信満々ですが、シェイファーは大いに疑問です。しかし、カルロスを見捨てるわけにもいかず、シェイファーは宇宙船のパイロット役を引き受けるのでした。

◎退き潮

 『リングワールド』の主人公、ルイス・ウーのエピソードです。(ベーオウルフ・シェイファーはルイスの義父で、遺伝上の父親はカルロス・ウーです)
 百八十歳に達したルイス・ウーは、人付き合いが疎ましく感じるようになると一人宇宙船で旅に出かけるということを行っていました。その四度目の旅の途中、立ち寄った恒星系の中で、彼は偶然スレイヴァー(スリント人)のステイシス・ボックスらしきものを派遣します。
 ステイシス・ボックスは中の時間を停止させる装置で、驚くべき財宝が隠されていることが多い物体です。その発見に喜んだのもつかの間、ルイス同様ステイシス・ボックスを狙う宇宙船が姿を現します。

◎安全欠陥車

 〈ノウンスペース・シリーズ〉を舞台とする最後期のお話です。
 植民地マーグレイヴで車を自動操縦で飛ばしていた「わたし」は、思いもよらなかった事態に遭遇します。巨大なロック鳥が急降下してきて、車を丸呑みしてしまったのです。

 本書に収録されている短編は、作中の年代順に並んでいるようです。
 お話のうち『いちばん寒い場所』から『英雄たちの死』は、二十一世紀頃の惑星探査時代です。まだ太陽系は未知の世界であり、異種族も火星人のみです。
 『ジグソー・マン』から『無政府公園にて』辺りは、ARMの活躍する時代です。この頃、人類はスリント人(『プタヴの世界』参照)やパク人(『プロテクター』参照)と接触しています。
 ここから二百年近くの平穏な時期を経て、『戦士たち』で示されるクジン人とのコンタクト及び人間-クジン戦争が起こり、アウトサイダー人からもたらされた超光速駆動機関(ハイパー・ドライヴ)により既知宇宙は一気に拡大されます。ベーオウルフ・シェイファーらが活躍する時代であり、〈ノウンスペース〉で最も派手で楽しい部分ですね。
 そして『安全欠陥車』以降、ティーラ・ブラウン遺伝子のせいで劇的な事件は起こらなくなってしまいます。歴史は更に続くのでしょうが、物語としての〈ノウンスペース〉はここで終焉を迎えます。
 およそ千年に及ぶシリーズのほぼ全域をカバーする短編集として、本書は〈ノウンスペース〉の歴史を堪能することができます。〈ノウンスペース・シリーズ〉を語る上で外せない作品群と言えるでしょう。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/54367389

この記事へのトラックバック