造物主の選択

[題名]:造物主の選択
[作者]:ジェイムズ・P・ホーガン


※このレビューには前作『造物主の掟』のネタバレがあります。ご注意ください。

 このお話は、土星の衛星タイタンに発生した機械生命圏及び知性体タロイドを描いた『造物主の掟』の続編に当たる作品です。
 前作では、地球側のタロイドを搾取しようとする勢力とタイタン側の宗教的支配層の双方を退け、タイタン文明にルネッサンスをもたらすことに成功しました。今作では、その地球人とタロイドの前に更なる困難が立ちふさがります。それは、そもそもの発端である無人探索船の制作者、すなわちタロイド達の造物主(ライフメーカー)です。
 機械知性体タロイドの文明はひとまずは暗黒時代を脱したものの、未だ抵抗勢力は存在し、再び支配権を取り戻そうと画策していました。しかし双方の思惑は、造物主たる異星人ボリジャンの復活により翻弄されてしまうのです。

 土星の衛星タイタンに発見された、機械で形成される生命圏と、知性ある機械・タロイド。地球のGSEC(総合宇宙計画公社)は、それを地球の工業生産に利用するため奴隷化しようと目論みました。しかし、似非心霊術師カール・ザンベンドルフとそのチームが、仇敵だったはずの心理学者ジェロルド・マッシーと手を結び、その奸計を打ち砕くことに成功します。
 機械人(タロイド達の自称)側でも、中世暗黒時代さながらの宗教的戒律に縛られた社会を脱し、ルミアン(地球人のこと)の助けを借りて近代的な文明が築かれようとしていました。かつて異端者として迫害を受けたサーグ(地球人側からはガリレオと呼ばれます)と、その兄にして〈教化者〉のグルーアク(同モーセ)も、分離国家カーソジアで平穏を得ることができました。
 しかし、彼等の敵対者もまだ完全に力を失った訳ではありません。一人の地球人が事故死したことをきっかけに、事態は動き始めます。
 機械人の王の座を追われたエスケンデロム一派は、死体をさらし者にしてルミアンが不死の存在ではないのだとことさらに喧伝し、民衆に動揺を与えます。そしてまた同じ事件を口実に、GSECはタロイドが非人間的な機械であると地球人社会で訴え、科学者達の手から支配力を取り戻そうと画策していたのです。
 ところが、それらの事件とは無関係な物事がタイタンの上で発生しつつありました。主任科学者ウェルナー・ワイナーバウムらは、タイタンの機械生態系の中に埋もれていた奇妙な情報を発見していたのです。それが進化の果てに生まれたのではない、タイタンに不時着した探索船が持っていたオリジナルの情報であると推定したワイナーバウム達は、秘密裏にそれの復元を試みます。
 それこそは探索船の制作者、異星人ボリジャンの精神を情報化したものでした。そしてボリジャンはワイナーバウムの予想を遥かに超えた、手に負えない大迷惑な存在だったのです(^^;)

 本書の注目ガジェットは、異星人ボリジャン("Borijan")です。
 ボリジャンは太陽系から千光年離れた位置にある惑星タールで生まれた知的生命体で、大型の飛べない鳥を祖先に持ちます。
 直立二足歩行生物で、筋組織が上半分に集中した細長い脚の上に丸い胴体が載り、両肩からは左右ではなく前方に腕が突き出しています。顔の上部には独立して動く一対の目、下部にはくちばしがあります。また、顔の側頭部から肩にかけてひだのある膜があり、これが発声と感情表現を兼ねる器官となっているようです。手が生えたダチョウのようなイメージでしょうか。
 ボリジャンの異質性は、外見よりもその性格です。彼等は非常に猜疑心が強く、お互いを全く信用していません。相手を出し抜いて自分だけが利を得ることを喜びとし、逆に相手を信用することは愚かなことだと考えています。およそ隣人にいて欲しくない存在ですね(笑)
 面白いのは、ボリジャンが不信と裏切りをベースに文明社会を形成している点です。ボリジャンが徒党を組むのは自分の利益になるときだけであり、誰もが仲間を出し抜こうとしているため連帯意識は存在せず、組織も長続きしません。全員が詐欺師で構成された惑星規模のコン・ゲーム、と言った辺りでしょうか(^^;)
 但し、ボリジャンの相互不信が暴力沙汰に発展することは基本的にない模様です。あくまで社会的な裏切りに留まるというのはスマートなやり方とも言えるでしょう。もしかしたら、ボリジャンの持つ非常に強い猜疑心のせいで、暴力要素が社会から徹底的に排除されてきたということなのかもしれませんね。

 本書の魅力の一つは、シリアスな場面においてもどことなくユーモラスな印象のある点です。
 地球人側の主要人物であるザンベンドルフからしてインチキ霊能者ですし、タロイドの社会や生態系もパロディ的な要素を多く含みます。性格は最悪ですがどこか憎めないボリジャンも、異なる価値観で成立した社会と併せて興味深いです。
 展開も、グルーアクの受難(^^;)やザンベンドルフ一世一代の大芝居等、読者をニヤリとさせてくれる場面が盛りだくさんです。ザンベンドルフが(偽)超能力実験で科学者のお歴々をたばかる辺りもなかなか巧妙ですね。
 終盤はやや急ぎ足気味に感じますが、それもこの作品世界をもっと堪能したいと思わされるからかもしれません。地球と全く異なる環境でありながらメンタル的には人間に良く似たタロイド、そして逆に生物的には類似しているのに価値観の異なるボリジャン――二種族の対比が面白い、異生物SFの傑作です。

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