宇宙のスカイラーク

[題名]:宇宙のスカイラーク
[作者]:E・E・スミス


 本作『宇宙のスカイラーク』は、スペースオペラの大家ドク・スミスの処女作であり、同時にSF界における大きな飛躍を記した作品でもあります。なんとなれば、この『宇宙のスカイラーク』こそが史上初めて舞台を太陽系外に飛び出させた小説だからです。
 本作の発表は一九二八年。太陽系の外に世界が広がっていることはずっと以前から知られていましたから、スミス氏が描写するまで誰もそれを書こうとしなかったのは不思議にすら感じられます。
 それはともかく、この作品以降多くのSF作家さん達が後を追うように舞台を太陽系の外へ移すことになります。そうした発想のブレークスルーになったのが本書なのです。
 内容に深みなどかけらもありませんし、中盤は少々混沌としてもいますが、シートン一行の物語は痛快無比です。細かいことはスルーしてお話を楽しむのもよし、矛盾点にツッコミを入れつつ読み進めるのもよし、ですね(^^;)
 また、本作にはもう一つ重要な要素が含まれています。SF界で最も魅力的な敵役(と私が勝手に思ってる(笑))、デュケーヌ様のデビュー作という大きな役割が……。

 希有金属研究所に勤める若き科学者リチャード・シートンは、ある日驚くべき発見をします。未知の金属Xを含む溶液を銅製の加熱用蒸気浴槽の上にこぼしたところ、浴槽が音速の数倍もの速度で部屋から窓の外へ飛び出していったのです。Xは銅の質量を百パーセントのエネルギーへ転換させるという、夢のような能力を持っていたのでした。
 シートンは友人で億万長者のM・レイノルズ・クレインと協力して、Xの持つ力を実用化することにしました。発電所や宇宙船といったものをです。
 しかし、シートンの同僚で優秀な科学者のマーク・C・デュケーヌ博士は、シートンとクレインを殺害してその研究を横取りしようと画策します。様々な妨害工作を行い、ついには彼らから盗んだ設計図で作った宇宙船を利用して、シートンの恋人ドロシー・ヴェインマンを誘拐してしまいます。ところがドロシーが激しく抵抗したため動力スイッチが誤って入ってしまい、宇宙船は全速力で宇宙へと飛び出してしまうのでした。
 それを知ったシートンとクレインは、デュケーヌのものよりも更に高性能な宇宙船スカイラーク号を駆り、奪われたドロシーを取り戻すべくその後を追いかけることにします。
 かくして、宇宙を股にかけた一大冒険活劇がここに幕を開けるのです。

 本作の注目ガジェットは、謎の金属Xでしょう。超ウラン元素であるこの物質は、銅の表面に皮膜を作り、その質量を放射能等のロスなく完全にエネルギーへ転換させるという、なんともご都合主義なアイテムですね(^^;)
 直径十二メートルの球形をした宇宙船スカイラーク号(『ひばり』の意。ファミレスではありません(笑))は、このX金属を応用した対物コンパス、牽引ビーム、斥撥シールド、X爆薬、そして強大な推進力といった驚異的な能力を備えています。中でも推進力は凄まじく、その速度は光速を遥かに凌駕するほどです。さらに、物語後半では鋼鉄製の船体が強固な金属アレナックへと置き換えられ、スカイラーク2号へと華麗なる変身を遂げます。
 なお、この〈スカイラーク・シリーズ〉の世界では光速度の限界はなかったこととされています。作中では「アインシュタインの相対性原理は、所詮、理論にすぎん」と一刀の下に切り捨てられてしまうのです。実に潔いと言えるでしょう(^^;)

 天才かつ血気盛んなシートン、冷静沈着なクレイン、明るくてヴァイオリンの名手でもあるドロシー、そして途中から加わるマーガレット・スペンサーの四人がシートン一行の主要メンバーです。また、クレインの忠実な召し使いであるシローという日本人も登場しますけど、『宇宙のスカイラーク』ではまだ端役ですね。
 しかしながら本作の一番の立役者は、いかにもヒーロー・ヒロイン然とした彼らではなく、敵役である鉄の男デュケーヌであることに疑いの余地はありません(断言)。
 自分の利益のためには他人の命さえ頓着しない邪悪かつ冷酷な性格ですが、剛胆な神経と優れた洞察、高い行動力を持ち、とても紳士的です。また、彼は嘘をつくことを潔しとせず、交わした約束は守るという側面も持っています。
 単なる悪役に留まらない魅力的なダークヒーロー、それがこのデュケーヌ様なのです。

 ストーリー自体は単純ですが、『宇宙のスカイラーク』にはふんだんにSFガジェットが盛り込まれています。特に、後の巻で大きな意味を持ってくるキーワードが既にいくつか登場しているのも興味深いですね。そのせいで展開が一貫性に欠けるのはご愛嬌ということで(^^;)
 ドク・スミスの代表作である〈レンズマン・シリーズ〉に比べるとバックボーンの壮大さには欠けるものの、巻を重ねるごとに舞台のスケールは増していきます。荒唐無稽な世界観は、良くも悪くもまさにスペースオペラ的と言えるでしょう。

この記事へのコメント

  • Kimball

    はじめまして!!

    おそらく翻訳初版で読んでいた世代のオヤジです。
    「リチャード シートン スカイラーク」でググってこちらに
    出会いました。

    数年前はググってもなかなか「レンズマン」「スカイラーク」はヒットしなかったころを
    思うと最近はかなり多くのBLOG、Webページが
    できてうれしく思います。
    ------
    それにしても、お世辞ぬきで、この作品を実にうまく
    解説された書評だとおもいました!!
    おやじ、脱帽です。:-)
    文才があれば、自分でこうしたページを作りたかったのですが。:-)
    ------
    スタートレックの「Q」なんてのは、このシリーズにでてくる、
    (レンズマンでのエッドール人の原型?)塩素環境の生命体だろう?なんて... :-)
    2006年01月29日 12:30
  • Manuke

    To Kimballさん

    # ハンドルが素敵です(^^;)

    > おそらく翻訳初版で読んでいた世代のオヤジです。
    > 「リチャード シートン スカイラーク」でググってこちらに
    > 出会いました。

    おおっ、初版ですか。
    ウチにあるのは創元のだいぶ版を重ねたものですが、何度も読んだせいで既にボロボロです(笑)

    > 数年前はググってもなかなか「レンズマン」「スカイラーク」はヒットしなかったころを
    > 思うと最近はかなり多くのBLOG、Webページが
    > できてうれしく思います。

    「SF冬の時代」なんて言われることもありますけど、『レンズマン』のような名作古典が再翻訳されたりと、また盛り上がりを見せつつあるのかもしれませんね。

    > それにしても、お世辞ぬきで、この作品を実にうまく
    > 解説された書評だとおもいました!!
    > おやじ、脱帽です。:-)
    > 文才があれば、自分でこうしたページを作りたかったのですが。:-)

    ありがとうございます。
    文才に関しては少々心許ないのですけど、愛情はたっぷりです(^^;)
    特に『スカイラーク』は自分のお小遣いで買った初めての文庫だったこともあり、思い入れも強いですね。

    > スタートレックの「Q」なんてのは、このシリーズにでてくる、
    > (レンズマンでのエッドール人の原型?)塩素環境の生命体だろう?なんて... :-)

    ふむふむ。
    『スタートレック』はあまり見ていないのですが、やはり古典だけに様々な作品に影響を与えているのかもしれませんね。興味深いです。
    2006年01月30日 02:47
  • しん

    いま、銀河パトロール隊を読み終わったところです。!(^^)!
    2006年11月09日 21:35
  • Manuke

    やっぱりドク・スミスはいいですよねー。
    あの度肝を抜くスケール感がたまりません(^^;)
    2006年11月11日 00:10
  • goldius

    >SF界で最も魅力的な敵役(と私が勝手に思ってる(笑))、デュケーヌ様
    同志よ!デュケーヌ様は宇宙一の悪役だと思ってます。
    2006年12月23日 21:07
  • Manuke

    おお、goldiusさんもご賛同くださいますか!
    格好いいですよね、デュケーヌ様。シートン達と協力することがあっても、決して迎合しないあたりに痺れます(^^;)
    2006年12月27日 23:39
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/5287543

この記事へのトラックバック

「スカイラークシリーズ」 E・E・スミス 創元
Excerpt: E.E. スミス, 内田 庶 宇宙船スカイラーク 悪役が宇宙1の魅力を持つ(w 最終巻で主人公と協力して 我々の銀河系を守る為に、 二つの銀河系をメガクロスさせて消滅..
Weblog: 目次が日本一のブログ(自称w挑戦者求む)
Tracked: 2007-04-02 19:57