テクニカラー・タイムマシン

[題名]:テクニカラー・タイムマシン
[作者]:ハリイ・ハリスン


 本作は、ユーモアSFの名手ハリイ・ハリスン氏によるドタバタ時間SFです。
 タイトルにありますように、お話はタイムマシンを使った時間旅行をメインとしていますが、その目的は映画撮影です。つまり、過去の時代へ遡って撮影機材を現時(?)へ持ち込み、舞台セットやらエキストラやらを安価に済ませてしまおうと目論むわけですね(^^;) しかしながら、最初に思った通りに事がスムーズには運ばず、四苦八苦することになります。
 倒産寸前の映画会社を立て直す起死回生の一打として、タイムマシンを使ったヴァイキング映画の撮影を提案した映画監督バーニイ。しかし、その計画には様々な困難が待ち受けていたのです。

 ハリウッドにある映画社クライマックスは、倒産寸前の事態に陥っていました。銀行はもはやクライマックスを見限っており、一刻の猶予もありません。
 映画監督バーニイ・ヘンドリクスンは、これを打開する一つのアイディアを見いだします。ヒューイット教授の発明・ブレメアトロン(タイムマシン)を使って過去の時代へ赴き、歴史ものの映画を直に撮影してしまおうというのです。
 教授を仲間に引き入れ、バーニイは映画の構想を練り始めます。時代は十一世紀の北欧、かつてコロンブスよりも先にアメリカを発見したと言われるヴァイキングを題材とした、一大スペクタクル映画です。
 バーニイ達は現地へ時間旅行してヴァイキングの一人オッタルを拉致し、酒を報償になんとか協力を取り付けます。そして脚本家をカンブリア紀へ缶詰にして(^^;)、一時間で映画のシナリオを書き上げさせたのです(脚本家にとっては半年分の仕事)。
 けれども、銀行はクライマックス映画社の帳簿監査を早めようとしていました。そんなことをされたら粉飾決算がばれて、たちまち会社の屋台がひっくり返ってしまいます(笑)
 バーニイは社長のL・M・グリーンスパンが病気で入院したと偽装させ、一週間の時間を捻出することにします。その間に映画を完成させてしまえばいいのだと。
 理屈の上では、ブレメアトロンがある限り一週間以内に映画撮影を終えることは可能なはずです。しかし、本当にそんなことができるのか? 不安は拭えません。
 かくして、社運を賭けた『ヴァイキング・コロンブス』の撮影が開始されます。果たして、首尾よく彼等は映画撮影を成し遂げることができるのでしょうか。

 本作の注目ガジェットは、ブレメアトロン("vremeatron")です。
 セルボ=クロアチア語で『時間』の意味であるブレメ("vreme")をもじった、いわゆるタイムマシンです。ヒューイット教授はライフワークとしてこのブレメアトロンを一人で研究し続けてきたのですが、本格的なものを作るのに必要な資金を得るためバーニイに協力することになります。
 作中に登場するブレメアトロンは、試作機を除いて二つです。第一号は陸軍払い下げのトラックの荷台に組み込まれており、恐怖映画のセットと兼用するために偽物のダイヤルやらスイッチやらがたくさん取り付けられています(笑)
 一号の荷台がブレメアトロンに占領されているため輸送力に難があったことから、ブレメアトロン二号は車を載せられるほど大きなプラットホーム型に作られます。プラットホーム自体に移動能力はないようですが、ブレメアトロンは転置時に時間だけではなく空間も移動できるので問題ありません。
 一見、ブレメアトロンのおかげで映画の撮影に無限の時間が使えるかのように思えますけど、実は一つ大きな制限があります。それは過去からの帰還時、出発した時間より前に戻ることができない点です。つまり、現代で過ごす時間は巻き戻せないわけですね。ここがストーリー上で重要なポイントです。

 コメディ調のストーリーがテンポ良く進み、読者を楽しませてくれる本書ですが、実際のところ土台となるバックボーンもしっかりと設定されています。
 バーニイが撮ろうとしている映画の元となった、「コロンブス以前にアメリカを発見したヴァイキング」ですが、これは史実です。作中冒頭で説明される赤のエイリクやソールフィン・カルルセフニも実在の人物で、ヴィンランド("Vinland":『平原の土地』の意。カナダ・ニューファンドランド島と目される)へ移植した旨が記録として残されています。お話の最後のネタも『グリーンランド人のサガ』に基づくようです。
 また、時間SFとしても良くできています。ブレメアトロンの特性を活かした展開やタイム・パラドックスの処理方法、更には十一世紀の北欧における人々の生活描写まで、ユーモアSFながらも侮れません。
 コメディとしての側面を支える登場人物達も魅力的です。比較的常識人で苦労人の主人公バーニイを始め、しみったれでごうつくばりなL・M、「タクシーの運ちゃん」扱いに不満たらたらのヒューイット教授、生の歴史に立ち会えるという餌につられてひどい目に遭う言語学者ジェンス・リン博士(^^;)、そして乱暴だけど意外に芸達者なヴァイキングのオッタルと、それぞれキャラクタが立っていながらも書き割り的でなく、好感が持てますね。
 個人的にはこの『テクニカラー・タイムマシン』自体を映画化したら、なかなか面白い作品になるのではないかな、と思います。もっとも、その場合には観客から「本当にブレメアトロンを使って過去で撮影したのではないか?」という疑惑を持たれてしまうかも。:-)

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