3001年終局への旅

[題名]:3001年終局への旅
[作者]:アーサー・C・クラーク


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 本書『3001年終局への旅』は、『2001年宇宙の旅』/『2010年宇宙の旅』/『2061年宇宙の旅』と続いてきた〈オデッセイ・シリーズ〉の四作目にして最終巻です(原題"3001: The Final Odyssey")。
 作品の舞台は、タイトルにある通り三〇〇一年です。三十一世紀最初の年であり、ディスカバリー号の事件からちょうど千年後に当たります。人類はエウロパを除く太陽系各所へ広がり、灼熱の世界である金星のテラフォーミングに取りかかろうとしている、そんな時代です。
 そして本書の主人公は――第一作目にてHAL9000に殺害され、宇宙の藻屑と消えたフランク・プールその人です。
 数奇な運命を経て三十一世紀に復活したフランク・プール。彼はその未来世界で、かつての同僚ボーマンだったものと千年ぶりの再会を果たします。

 西暦三〇〇一年を迎え、新しいミレニアムのお祭り騒ぎが一段落した頃――。
 海王星軌道の外側で彗星を捕獲する作業を行おうとしていた宇宙曳船ゴライアス号にメッセージが届きます。それはスペースガードのレーダーが拾った物標を調査してほしいという要請でした。
 たまたま手が空いていたディミトリ・チャンドラー船長は、ぼやきながらもその求めに応じ、そこで驚くべきものを発見します。それはかつて、ディスカバリー号で起きたHALの反乱により、宇宙の彼方へ放擲されてしまったフランク・プールの遺体だったのです。
 ゴライアス号はプールを回収し、彼を地球へと連れ帰りました。そして三十一世紀の医療技術によってプールは蘇生されます。
 息を吹き返したフランク・プールは、自分の生まれた時代より千年が経過した世界を目の当たりにします。それは地球に四本の巨大な宇宙エレベータが屹立し、人々はブレインキャップを被って仮想現実を五感で体験することができる時代でした。プールは戸惑いつつも、ガイド兼教師役であるインドラ・ウォーレス博士の助力を得て、次第に三十一世紀に馴染んでいきます。
 しかし、完全にお客様扱いの自分の立場と、二度と接することのない過去の時代への郷愁に、プールは鬱ぎかけていました。そんなおり、彼を救出したチャンドラー船長がプールの下を訪れます。次はルシファー(恒星と化した木星)へ向かうというチャンドラーの言葉に、プールは思い出します――自分がかつて成すべきだった任務をまだ終えていないことを。
 そしてプールは、千年の時を置いて再び木星へと向かうことに決めるのです。

 本書の注目ガジェットは、西暦三〇〇一年の世界です。
 アーサー・C・クラーク氏の著作はしばしば、〈近未来もの〉と〈遠未来もの〉に分類されることがあります。『楽園の泉』に代表される近い時代を対象に緻密な科学考証を基に描いた小説と、『都市と星』のように超未来の世界をイマジネーション豊かに紡ぎ上げた小説の二グループですね。
 本〈オデッセイ・シリーズ〉は、モノリスを制作して知的生物の進化を促す超存在・魁種属を扱っていることから、どちらかと言えば〈遠未来もの〉に属すると見なされているようです。しかし、第一作『2001年宇宙の旅』のディスカバリー号とHAL9000、第二作『2010年宇宙の旅』のガリレオ衛星とエウロパ生命、第三作『2061年宇宙の旅』のハレー彗星と、〈近未来もの〉的な側面を併せ持っていることも重要なポイントです。
 最終巻である『3001年終局への旅』は、その両者が交わるエピソードと言えるのではないでしょうか。四本の宇宙エレベータ及び地球を取り囲むリング状巨大構造物スター・シティは『楽園の泉』の発展形ですし、逆にブレインキャップや人間の情報化は『都市と星』の完全都市ダイアスパーへと通じる過程にあるようです。
 ある程度想像の翼を広げながらも、荒唐無稽になり過ぎないところにとどめているという意味で、本作は両者の中間的な場所に位置します。また、登場するガジェットの数々を見ても、クラーク氏の集大成と言っても間違いではないでしょう。

 クラーク氏はこの〈オデッセイ・シリーズ〉において、シリーズを通しての整合性をあまり重視されなかったようで(^^;)、各巻それぞれに設定の矛盾が見られます。
 第一巻の小説版『2001年宇宙の旅』は映画版と平行して書かれた作品で、続巻との食い違いが目立つのも無理からぬところですが、その後のお話でもいくつか方向転換が見られます。
 あとがきでの発言を読むと、物語の連続性よりもそれぞれの執筆時点で盛り込みたいと思ったことを優先されているようですね。多作な作家さんであるにも拘らず、その諸作品に続きものがほとんどない(『宇宙のランデヴー』シリーズは事実上、共著者ジェントリー・リー氏の作品ですし)のは、そうした姿勢の表れなのかもしれません。
 本書『3001年終局への旅』でも、非常に基本的かつ重要な設定変更があります。それは超光速の否定です。モノリスを生み出した魁種属("Firstborn")は大変に進歩した存在ではありますが、ほとんど全能に近い扱いだった前巻までとは異なり、限界を持ち物理法則に縛られた種族であると位置づけられたようです。
 この「引き下げ」により、モノリスに対して人類の付け入る隙がでてくるわけですね(笑) 最後のオチの部分はいささかネタとして弱いようにも感じられますが(個人的には、もっと動的なアタックの方が納得できます)、〈オデッセイ・シリーズ〉の締めくくりとして落ち着くべきところに落ち着いたという印象があります。
 果たして本書の更に千年後、四〇〇一年にはどんな物語が待ち受けているのか、そんな想像を巡らせたくなるお話です。

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Tracked: 2007-08-19 11:23