造物主の掟

[題名]:造物主の掟
[作者]:ジェイムズ・P・ホーガン


 本作『造物主の掟』は、非常に異色な異生物テーマSFです。と言うのも、ここで登場する〈異生物〉とは、有機体ではなく機械なのです。
 この異様かつ見事な舞台設定は、背景を緻密に準備されるホーガン氏の面目躍如といったところでしょうか。奇想天外な発端から生み出される、奇妙かつ親しみ深い機械生命体の社会。これが本書の醍醐味です。

 カール・ザンベンドルフは、二十一世紀においてマスメディアに名を馳せる心霊術師です。『奇跡を起こすオーストリア人』とか、『科学的に認証された超心霊術師』などという異名が付いていたりします。けれども実は、ザンベンドルフには霊能力など一切ありません。彼と配下のサポートチームが心理的・奇術的・諜報的テクニックを駆使することにより、いかにも不可思議な能力があるかのように見せかけているだけなのです。つまり、エセ霊能者ですね(^^;)
 その彼が、不思議なことにGSEC(総合宇宙計画公社)から土星へ招かれます。ザンベンドルフら一行が赴いてみると、驚くことに土星の衛星タイタンでは機械生命体――しかも知的生物――が発見されていたのでした。ザンベンドルフはその生命体タロイドとコミュニケーションを図ることに協力を要請されるのです。
 一方、タイタン上でも機械人(タロイドは自分達をそう呼ぶ)の兄弟を中心に物語が動いていきます。
 機械人文明は前近代的な段階であり、宗教的な慣習により物事が定められています。弟のサーグは宗教的なものの見方に疑問を抱いていて、自ら科学的な探求を繰り返していました。逆に兄グルーアクは特に宗教がかっており、空からのお告げを聞いてそれを広めようとしています。兄弟揃って人生ドロップアウト組なのです(笑)
 サーグは宗教的教義に反することを日頃から行っていたせいで、ついに異端者として宗教裁判にかけられることになってしまいました。これを避けるために、彼は自由の土地と言われる外国カーソジアへ逃れることにします。その道中、サーグ達は空から降りてきた天空人(ザンベンドルフ達のこと)と接触することになります。
 一方グルーアクはサーグと分かれた後、面倒な権力争いに巻き込まれそうになりました。それを回避するために荒野へ向かったグルーアクは、そこでやはり地球人と接触します。しかし、その出会い方はサーグとはずいぶん異なるものだったのです。

 本書の注目ガジェットは、タロイドら機械生命体の存在です。その出自が振るっていて、百万年の昔にタイタンへ着陸した異星の無人宇宙船なのです。この宇宙船が作る工場がやがてタイタン生態系へと変化し、そこにタロイドが生まれてくる様がプロローグに描かれます。
 本作のSF的要素はこのプロローグに集中していると言ってもいいでしょう。現実にそんなことが起こるかどうかはともかく(^^;)、これにより地球人とそっくりかつ裏返しなロボット生命体が誕生します。

 この『造物主の掟』にはまた、風刺としての側面もありますね。メンタル的に人間に近いタロイドの社会は、我々の過去のカリカチュアになっているのです。
 例えば、タロイドは造物主(ライフメーカー)信仰を持っていますが、地球人と違って彼らには実際にライフメーカーがいるわけです。つまり、無人宇宙船を送り出した異星人達のことですね。もっとも、その異星人は遥か昔に滅んでしまっていて、本書には登場しないのですが。(続編ではこれに絡んできます)
 地球人側の主要人物ザンベンドルフが詐欺師ということもあり、この面で少々皮肉的に人間社会が描かれたりもしています。

 タロイドの住むタイタン生態系は非常に奇妙かつ魅力的です。地球人側とタロイド側の双方の視点から語られる世界観を、実際に本書を読んで堪能してみてください。

この記事へのコメント

  • goldius

    人間が一人も登場しない、機械生命体の社会が成立する過程を描いたプロローグが圧巻でしたよね。小説は人間を描くものと言われるが、人間など出さなくても感動出来るSFの面目躍如と言った傑作でしたね。
    2007年03月31日 15:44
  • Manuke

    ですよね。舞台設定そのものを楽しんでしまえるのは、SFの懐の広さと言えるかもしれません。
    ストーリー本編では、タロイドは人間そっくりですけど(^^;)
    2007年04月01日 02:24
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