2010年宇宙の旅

[題名]:2010年宇宙の旅
[作者]:アーサー・C・クラーク


※このレビューには前巻までのネタバレがあります。ご注意ください。

 『2010年宇宙の旅』は、映画及び小説『2001年宇宙の旅』の続編に当たる作品で、〈オデッセイ・シリーズ〉としては二作目になります(原題"2010: Odyssey Two")。ストーリーの流れから見ると小説版の続きと考えるのが自然ですけど、両者で矛盾する設定は映画版のものを採用(ディスカバリー号の目的地が木星、等)しているため、少しややこしいですね。
 なお、本作にも映画版である『2010年』が存在しますが、前作の複雑な関係とは違い小説版が原作です。中国の宇宙船チエン号が登場しないことと米ソ対立の要素が付け加えられたこと以外は、映画はおおむね小説を忠実に映像化したものと言えるでしょう。
 木星の巨大モノリス探索時に、デイビッド・ボーマンは謎の失踪を遂げました。その秘密を探るために、フロイド博士はソビエトの宇宙船レオーノフ号に乗り木星へ向かうのですが……。

 多大な犠牲を払いながら木星へと到達したディスカバリー号。デイビッド・ボーマン船長は木星とその衛星イオのラグランジュ・ポイント(L1)で、TMA・1と同じ形状ながらはるかに巨大なモノリス、TMA・2(ビッグ・ブラザーやザガートカとも呼ばれます)を発見しました。しかし、ボーマンはスペースポッドでそれに近づいたとき、「信じられない! 星がいっぱいだ!」という謎の言葉を残して消息不明となってしまいます。
 ヘイウッド・フロイド博士は責任者として、ディスカバリー号に起きたことの責任を取り、アメリカ宇宙飛行学会議議長の職を辞任していました。ところが、ハワイで安穏と暮らすフロイドの元へ、彼の後任者から電話がかかってきます。イオ周辺に留まっているはずのディスカバリー号の軌道に乱れが生じ、建造中のディスカバリー2号を向かわせる前にイオへ落下してしまうというのです。
 このため、ソビエトが同様の調査隊を送ろうとしていた宇宙船アレクセイ・レオーノフ号に、フロイド、チャンドラ博士(HAL9000の設計者)、ウォルター・カーノウ(ディスカバリー号のシステム専門家)の三人は便乗させてもらうことにします。
 一年ほど後、冷凍睡眠から目覚めたフロイドは、一番乗りのはずだったレオーノフ号に先んじて中国の宇宙船チエン号が木星系へ到達したことを知らされました。中国船はアメリカやソビエトが思いもよらなかった方法で彼等を出し抜くことに成功したのです。
 けれども、ここで中国隊を悲劇が襲います。木星の衛星エウロパに着陸したチエン号に予期しないことが起き、宇宙船は破壊され、人間も一人を残して命を落としてしまうのでした。
 最後に生き残ったチャン教授は、自分がもはや助からないことを知りながら、レオーノフ号へ向けてメッセージを送信します――「エウロパには生命が存在する」と。

 本書の注目ガジェットは、HAL9000です。
 ハルはフィクションに登場する人工知能としてはおそらく最も有名なものの一つでしょう。ディスカバリー号の頭脳に相当するコンピュータで、非常に優れた能力を持つにも拘らず、前作ではフランク・プール以下四名の乗組員を殺害するという異常行動を起こしてしまいます。
 前作映画版では反乱を起こした理由も説明されないことから悪役のような扱いですが、小説版及び本書では「ボーマンとプールに目的地を秘密にしろと命令されたことが罪悪感となって地球との交信を絶とうとし、それに失敗すると自分が停止させられる恐怖からパニックを起こした」との解説がなされています。もっとも、いかなる理由だろうと、冷凍睡眠状態で殺された三人及び、更に数奇な運命を辿ることとなるフランク・プールにはたまったものじゃないですけど(^^;)
 『2001年宇宙の旅』ではハルの反乱とモノリスの件は関連のない独立したエピソードという印象がありますが、本書での和解を経てハルもまた本筋へと合流していくことになります。
 また、木星へ向かう者の一人でハルの設計者チャンドラ博士もなかなか面白い登場人物です。彼は人間よりコンピュータを愛し、ボーマンに停止させられたハルを復活させるため、遺棄されたディスカバリー号へと赴きます。明らかに変人ですけど(笑)、ハルを息子のように溺愛するチャンドラ博士の視点があることで、HAL9000は単なるフランケンシュタイン・コンプレックス的殺人コンピュータ以上の愛すべきキャラクタになっていると言えるのではないでしょうか。

 諸般の事情から、TMA・2の在処が小説版前作の土星から映画版の木星へと変更されたことは先に述べましたが、実はこの部分でもう一つ重要な要素があります。それはボイジャー一号・二号による木星探査です。
 惑星探査機ボイジャー一号及び二号は、一九七九年に相次いで木星系へと到達し、その画像を地球へ送ってくれました。中でも木星を周回するイオ・エウロパ・ガニメデ・カリストの四大衛星はいずれも異なる姿を持ち、人々を大いに驚かせてくれたわけです。
 これら四つの衛星は、十七世紀初頭にガリレオ・ガリレイ氏によって発見されたことからガリレオ衛星と呼ばれます。地動説の証拠の一つとして取り上げられた衛星ですが、地球から遠いためにその実体はボイジャーが接近するまで明らかになりませんでした。
 本書に登場する衛星の中で、特にイオは地球外で唯一活火山が確認されている珍しい星です(冷たい氷火山は海王星の衛星トリトンに発見されています)。ボイジャーによるこの発見は本書に取り入れられており、溶岩と硫黄にまみれたイオの描写は作品のリアリティを高める大きな要素となっています。もう一つのガジェットと併せて、ハードSFの重鎮たるクラーク氏の面目躍如といったところです。

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