プラクティス・エフェクト

[題名]:プラクティス・エフェクト
[作者]:デイヴィッド・ブリン


 デイヴィッド・ブリン氏は、〈知性化シリーズ〉のようにラージスケールの物語を複数の視点から多面的に描き出す才に長けた作家さんですね。しかし本書はそれらとは少しばかり趣きが異る、コミカルな異世界ファンタジーです。
 とは言っても、もちろん単なるファンタジーではありません。この根底に流れる理屈っぽい語り口はまさにSFであり、サイエンス・ファンタジーと呼ばれるジャンルに分類されるでしょう。奇妙なな異世界タティアをファンタジーたらしめているのは、プラクティス効果というSF的小道具なのです。

 主人公デニス・ヌエルはジーヴァトロンの研究をする若き科学者です。ジーヴァトロンというのは、言ってみれば異次元への通路を造る装置ですね。ただし、彼の師ドクター・ギナソウが亡くなってからは、デニスは派閥争いの余波を受けて閑職へと追いやられています。
 ジーヴァトロンはそれまでのところ芳しい成果を上げていませんでしたが、ようやく地球に似た世界への接続に成功します。ところが困ったことに、異世界側のジーヴァトロンにトラブルが生じ、一方通行(地球から異世界へは行けるが、逆は無理)となってしまいました。
 ここで抜擢されたのが我らがデニス君です。彼を大学の片隅に追いやった主任科学者が、元の職への復帰という餌をちらつかせ、デニスに異世界側の装置を修理するよう命じたのでした。しがらみの関係上、デニスには断れません。
 装置が正常に機能しているときにこちらの世界へ紛れ込んだ小さな生き物ピクソレットを連れて、デニスは仕方なくジーヴァトロンを通って異世界に移動します。しかし、異世界側の装置は滅茶苦茶に壊され、手持ちの機材では修理不能でした。デニスは島流し状態になってしまったのです。
 けれども、バイタリティ溢れるデニスはこんなことではへこたれません。この異世界にはどうやら知的生命体がいるらしいと知ったデニスは、修理のための協力を仰げるのではないかと考え、彼らと接触を図ります。ところが、そこにいたのはデニスが思いもよらない者達だったのでした。

 本作の注目ガジェットはプラクティス効果です。この不思議な作用一つで、単なる異次元を奇妙なファンタジー世界へと昇華させているのですから面白いですね。文明のあり方そのものがこのガジェットに引きずられて、我々の目には奇異なものに映ることとなります。
 プラクティスがどんなものなのかは、残念ながらこのレビューでは紹介できません。激しくネタバレになってしまいますから(^^;)
 実際に本書をお読みになり、ブリン氏の生み出されたプラクティス効果というガジェットの妙を味わってみてください。

 なお、氏の作品におけるもう一つの特徴である魅力的な登場人物の作り込みは、本作でも十二分に発揮されています。
 頭脳明晰でポジティブな主人公デニス。美しいだけでなく聡明で頑張り屋のリノラ姫。盗賊の頭目ですが憎めない小男アース。異世界からの魔術師デニスの力を利用して覇権を目論む冷酷なクレマー男爵等々。各キャラクタはいずれも個性的です。
 それから、ピクソレットと探検ロボットの二人(?)も忘れてはいけませんね。ピクソレットは豚鼻でピンク色をしたコウモリのような小動物で、物語をコミカルにもり立ててくれるマスコット的存在です。デニスの命令を忠実に実行する健気なロボットは、様々な危機的状況でデニス達を救ってくれます。
 この物語はまた、ファンタジー作品のパロディとしても楽しむことができます。デニスは一つのことに集中しすぎるあまりに無用の失敗をしたり、レノラ姫はいらんことをしてデニスを窮地に追い込んだり(笑)と、なかなかおとぎ話のようには行きません。

 エピローグに少しばかりSF的解説が集中するきらいはあるものの、そこら辺はご愛敬ということで……(^^;)
 壮大さとか深い洞察などはありませんが、本書はとても楽しいお話に仕上がっています。肩の力を抜いて楽しめる、娯楽性の強い作品だと言えるでしょう。

この記事へのコメント

  • ちゅう

    こんばんは。

    この作品はシリーズものではありませんが、まずまず楽しませていただきました。

    プラクティス・エフェクトというアイデアがなんともかんとも(^^)

    最初、その事実に気づくところが興味深かったですね。道端にひそんで伺っていると、荷馬車が来るのだけれど、車輪がなくて橇のようだ。路面に接するところが棒みたいな感じで、路面のほうは溝になっている。その溝を調べてみると・・・。

    貴族の館で、酔っ払った愚か者は、さまざまなプレゼントを押し付けられるのだが、それらをきちんと維持していく手間たるや・・・。

    等々、面白かったです。
    2011年12月13日 21:45
  • Manuke

    個人的には、飛行機に至るくだりのフラッシュバックが好きです。人選も心憎いですし。

    プラクティス・エフェクトは、ぱっと見は一発ネタっぽい仕掛けですが、これ一つで文明のあり方に激変をもたらしてしまうという辺りが良く練られてますね。
    技術改良に知識の蓄積が不要というのが技術者泣かせです(^^;)
    2011年12月15日 01:16

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