ガイア――母なる地球――

[題名]:ガイア――母なる地球――
[作者]:デイヴィッド・ブリン


 本作は、多面的な視点から物語に深みを持たせることを得意とされるブリン氏が描く、近未来を舞台としたSF小説です。
 物語がごく近い将来を対象としていることもあり、作中では地球温暖化・環境汚染・生物絶滅といった環境問題が大きく取り上げられています。ただし、それがメインテーマだと考えるのは早計です。ストーリーが後半に差し掛かると、驚くべき展開がそこに待ち構えていますから(^^;)
 氏の代表作である〈知性化シリーズ〉とは無関係の独立した話ですが、多数の登場人物のエピソードが相互に絡み合いながら物語が展開していくという構造は似ていますね。本筋とは縁遠い視点もありますけど、それまで独立に動いていた人物同士が後半で関り合い、収束に向かう様は感動的です。
 物理学者アレックスは、自らが生み出したミニ・ブラックホールを地球内部へ落としてしまったことを悔やみ、それを回収するべく行動を起こします。しかし、その行く手に待ち構えていたのは、彼の想像だにしなかったことでした。

 二〇三〇年代――天才的物理学者アレックス・ラスティグは、軍の協力下で秘密裏にミニ・ブラックホールを創造していました。それを発電施設として使うことができるようになれば、エネルギー問題が解決するはずだとの思惑からです。
 ところが、ジャーナリストのペドロ・マネラにその秘密をすっぱ抜かれたことで暴動が起き、研究所が停電してしまいます。その結果、磁場ケージで保持していたミニ・ブラックホールは地球内部へと落下してしまうのです。
 アレックスは世界中の非難を浴びますが、科学委員会が「ミニ・ブラックホールは安定でないために蒸発して消滅する」という見解を出したことから騒ぎは沈静化します。アレックスは人々から軽蔑されながらも、罪に問われることはありませんでした。
 ところが、他ならぬアレックス自身だけは違いました。彼は自分の生み出した特異点が普通のミニ・ブラックホールとは異なり、安定しているかもしれないと疑っていたのです。
 もしその通りならば、特異点は地球のコア周囲を掘り進みながら周回し、ゆっくりと成長していくはずです――やがて地球全てを食い尽くすまで。
 アレックスは己の成した事態の重責を背負いながらも、特異点を地球内部から回収するべく行動を始めます。
 そのころ、地球各地では異常な事件が発生しつつありました。宇宙ステーションが宇宙の彼方へ弾き飛ばされたり、海中にあった潮汐発電所のアンカー・ブームが跳ね上げられたりするようなことが起きていたのです。
 それらは地球内部に存在するものの仕業でした。しかし、アレックスの危惧は少しだけ間違っていました。
 彼が創造した特異点・アルファは手を下すまでもなく消滅しつつありました。しかし予想もしなかったことに、特異点はもう一つあったのです。
 アレックスの与り知らぬその特異点・ベータは、彼が恐れた通りに地球を貪欲に飲み込もうとしていたのでした。

 本作の注目ガジェットは、ガイア仮説です。
 この説は現実における一九六〇年代、大気学者ジェームズ・ラヴロック氏によって提唱された概念で、地球とそれを取り巻く生物圏を一つの生命体と見なすものです。ラヴロック氏はNASAで火星大気を分析するための装置開発に従事するうち、この仮説を思いついたとのこと。
 簡単に言ってしまうと、太陽が光度を増しているにも拘らず地球の気温がほぼ一定に保たれているのは、生物と惑星の相互作用により恒常性(ホメオスタシス)が機能しているためで、これを生命と見なせるのではないかということです。(本来ならば地球は金星のような灼熱の世界になっているはずのようです)
 このガイア仮説は一種のメタファーであり、地球が何らかの意思を持っているという意味ではありません。しかし、発案者のラヴロック氏がそうした考えを否定しなかったことから、文脈によっては「惑星規模の意思」という拡大解釈がまかり通っていることがあり、ガイア理論という言葉自体が神秘主義と結びつけられたりするという少々ややこしい事態に陥っています(^^;)
 作中ではまさに、このガイア仮説が様々に解釈されています。ガイアを神と見なしてあがめる〈ガイア教会〉や、人間がガイアの脳に相当すると考える人々、より高次の視点からそれを認識しようとするアレックスの祖母にして高名な生物学者ジェン・ウォリング、ガイアを庇護するべき対象として過激な活動を続ける狂信的環境保護団体、等々……。
 また、物語の最後には、これに関連した大掛かりな仕掛けが用意されています。いささかやり過ぎの感がなきにしもあらずですが(^^;)、これには意表を突かれることでしょう。

 上で述べた通り、作中には様々な環境問題が取り上げられています。環境汚染や砂漠化のために多くの生物が絶滅の危機に瀕し、それらを保護しようとする〈箱船〉施設が作られていますが状況は深刻なようです。オゾン層は破壊され、野外での活動には紫外線対策が必須です。温暖化のせいで海抜の低い土地は水没し、難民が海上自治領を形成しています。
 また、社会構造の変化も興味深いですね。ある戦争を契機に、世界中の人々は極度に秘密を忌み嫌うようになっており、この時代にはプライバシーがほとんど存在しません。高齢化社会が進み、老人達は若者の粗暴な行動に常に目を光らせていて、若者にはそれを不満に思う者が少なくないようです。
 コンピュータによるネットワークも高度に発達し、人々はネット上で相互に自由な意見交換を行っています。(本作の発表は一九九〇年ですが、インターネットが個人レベルまで普及した状況を先取りしているのが面白いところです)
 と、これらの設定を見ると陰鬱な近未来を描いた真面目なSFのように見えますが、後半に入ると印象が大化けします(笑)
 特異点ベータの正体が判明する辺りから、お話は怒濤の勢いで動き始め、設定もかなり大胆なものが登場してきます。特にアレックス達が敵対勢力と戦う場面は、スペースオペラを彷彿とさせるものがありますね(^^;)
 前半の環境問題を読者に提示する部分は色々と考えさせられるところがあるものの、基本的に本作はエンターテイメント作品と捉えるほうがいいでしょう(解決策がちょっと現実的じゃないので(笑))。終盤の凄まじい展開は〈ディザスターもの〉的な緊迫感があり、手に汗を握ること請け合いです。

この記事へのコメント

  • Kimball

    manukeさま、

    ブリンさん、初めて知りました!!
    ご紹介ありがとうございました!\(^o^)/

    「知性化シリーズ」というのも
    なにやら気になります。\(^o^)/
    2007年07月28日 07:47
  • Manuke

    ブリン氏は個人的にお気に入りの作家さんですね。
    〈知性化シリーズ〉は超壮大なスケールとたくさんの異星人が登場する、賑やかな作品群です。
    『ガイア』はそれと比較すればやや地味ですが、後半の展開には度肝を抜かれました。お話がどう決着するのか、ハラハラさせられっぱなしです(^^;)
    2007年07月28日 23:53
  • Manuke

    この記事、今朝の朝刊でも読みました(^^;)
    確かに、『ガイア』を彷彿とさせますねー。
    この方は以前、別の加速器に対しても同じような訴訟を起こして敗訴しているようですけど。

    現実問題として、加速器LHCで作り出せる程度のブラックホールが長生きするなら、それこそ自然界に存在してもおかしくないような気がします。
    (高エネルギー宇宙線は常時地球に降り注いでいるわけですし)
    あるいは既に、それが合体して特異点ベータになり、地球を蝕んでいるのかも。:-)
    2008年03月31日 23:46

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