ラルフ124C41+

[題名]:ラルフ124C41+
[作者]:ヒューゴー・ガーンズバック


 本作『ラルフ124C41+』は、アメリカSFの父と呼ばれるヒューゴー・ガーンズバック氏による、未来世界を描いたSF小説です。氏の称号は世界初のSF専門誌『アメージング・ストーリーズ』を創刊した業績を称えたもので、SF界で最もメジャーな文学賞・ヒューゴー賞にその名が冠されていますね。
 ただし、だからと言って氏の作品が傑作となるわけではない、という点には留意する必要があるでしょう。正直なところ、この『ラルフ124C41+』のストーリーは控えめに言ってもお粗末です。天才科学者である主人公が悪漢からヒロインを救い出す、という一文であらかた説明が終わってしまう程ですし(^^;)
 しかしながら、それは本書に面白みがないという意味ではありません。このお話の真価は、その未来予想にあります。二十世紀初頭にSF作家ガーンズバック氏が描いた、ほとんど無邪気とも言える薔薇色の未来世界の前には、ストーリーなど些末なことです(笑)
 二十七世紀最高の天才青年ラルフ124C41プラスは、ある事件をきっかけに知り合った娘アリス212B423と恋に落ちます。しかし、アリスに横恋慕する二人の男はそれを快く思わず、彼女を誘拐してしまうのでした。

 時は二六六〇年、ニューヨークにそびえ立つ高さ二百メートルの白い塔に住む青年ラルフ124C41プラスは、数々の業績を上げた最も偉大な科学者の一人として尊敬を集めていました。地球上でわずか十人にのみ許された“プラス”の称号をその名に刻むほどに。
 しかし、その代償として彼には自由がありませんでした。危険を冒すことを許されず、旅行すらままなりません。ラルフは少々そのことを不満に感じていたのです。
 そうしたある日、テレビ電話の混線という偶然により、ラルフはスイスの山で立ち往生していた娘アリス212B423と知り合います。そして雪崩に襲われかけたアリスを、ラルフは科学的機転で救ったのです。
 礼を言いに父ジェームズ212B422と共にニューヨークを訪れたアリスを、ラルフは大いに歓迎しました。そして奇跡のテクノロジーに彩られた未来都市ニューヨークの観光案内を自ら買って出たのです。その後程なく、ハンサムな青年ラルフと美しい娘アリスは互いを愛するようになります。
 しかしそれは、アリスに思いを寄せていた二人の男には我慢のならないことです。フェルナン60O10はこれまで幾度もアリスに言い寄っていたものの、ことごとく袖にされていました。また火星人リザノールCK1618は、種族の違いから思いを口にすることすらできませんでした。けれども、アリスを他人に取られるぐらいならいっそ……と二人は考えたのです。
 そしてラルフとアリスがデート中、思いもよらぬ襲撃によりアリスは誘拐されてしまいます。ラルフはそれがフェルナンの仕業だと突き止めますが、相手は既に宇宙へと高飛びした後でした。
 ラルフは惑星長官の制止を振り切り、危険を顧みず自らも宇宙へ旅立ちます――愛する人をその手に取り戻すために。

 本作の注目ガジェットは、大きく出てしまいましょう、未来予想です(^^;)
 作中では特に、ラルフがアリス・ジェームズ親子を観光案内する形で未来都市の描写がなされますが、これが微に入り細を穿って設定されているのが面白いですね。テレビ電話やリニアモーターカー・空飛ぶ車・催眠学習といった後のSFでは比較的おなじみのガジェットから、電流で栽培される作物・自動化された物流システム・浮かぶ都市に重力サーカスのような風変わりなものまで、これでもかと言わんばかりに想像の産物が盛り込まれています。
 非常に面白いのは、ガーンズバック氏が二十七世紀の未来に実現すると願ったアイテムのいくつかが、現時点で実用化されていることです。例えば合成繊維(ナイロンが一九三五年に合成成功)、電磁波の反射で目標への距離を測るアクチノスコープ(レーダーの実用化は一九三〇年代)、太陽光を電気に直接変換する光電池(太陽電池の論文発表は一九五四年)といった具合です。本作の発表年は一九一一年ですから、時代をずいぶんと先取りしているわけですね。他にも、同一とまでは行かないものの類似した技術は枚挙にいとまがありません。
 ただし、これをヒューゴー・ガーンズバック氏の洞察力が高かったためと言ってしまうと、少しばかり持ち上げ過ぎになるでしょう。どちらかと言えば、「数打ちゃ当たる」式の方が適切なのではないでしょうか(^^;) もっとも、その弾数が尋常ではない点こそが称賛に値するわけですけど。
 作中に登場する幾多のガジェットのうち、個人的に面白いと感じるのが科学的レストランです。このレストランに入るとお客の食欲は人工的に増進させられます。出される料理は全て液状で、チューブを使って食事を飲み下します(メニューに流動食しかないレストランといった感じでしょうか)。数々の未来ガジェットの中でも、群を抜いてうらやましく思えない存在ですね(笑)

 本書のお話そのものは実に他愛ないものですし、予測される未来のテクノロジーもそれほど科学的考察に優れているというわけではありません。「近代SFの父」ジュール・ヴェルヌ/H・G・ウェルズ両氏の作品が時代を超えて評価される名作であるのに対して、「アメリカSFの父」の書かれた本作が少々見劣りするのは否めないところです。
 しかし、にも拘らずこのお話にはある種の魅力があります。それは、未来に対する希望と科学への信頼です。二十世紀初頭のアメリカで、当時二十七歳だったガーンズバック青年は、科学が世界をより良くしてくれることを信じ、素晴らしいテクノロジーに溢れる未来を思い描いたのでしょう。そしておそらくは、本書を読んだ多くの少年達も。
 今の視点で見れば、それは楽観的に過ぎるかもしれません。けれども、そうした無邪気な夢がきっかけとなり、SF黄金時代は他ならぬアメリカで開花することになるわけです。
 「SFとは何か?」という問いに明快な答えはありませんが、その根底の一つに未来への夢があるのは確かです。その意味で、確かにガーンズバック氏もまたSFの祖と言えるのではないでしょうか。

この記事へのコメント

  • k

    この物語が書かれたのは1911年です。
    いかに古い時代に書かれたかということに
    驚きました。
    未来を予測するものとして、SFを見ている
    自分がいます。
    2011年10月30日 06:58
  • Manuke

    発表されてから今年で百年になるわけですね。そう考えると、感慨深いものがあります。
    二十七世紀はまだまだ未来ですけど、本書のガジェットのうちどれだけのものが実現することになるのか、楽しみです。
    2011年10月30日 23:08
  • この話を小学生のころ読んでずっとタイトルを探していました。こんな古い時代のSFだったんですね。
    2012年06月11日 22:27
  • Manuke

    小学生の頃となると、本作のジュブナイル版『27世紀の発明王』(岩崎書店)の方かもしれないですね。
    こちらは表紙がかなり今風の絵柄に変わっちゃってます(^^;)
    (あと、集英社からも『2660年のロマンス』というタイトルでジュブナイル版があった模様ですが、こっちは絶版?)
    お話はシンプルなんですけど、SFガジェット満載なのが素敵な部分です。:-)
    2012年06月13日 00:37
  • 戦う什器管理人

    小学校の頃、読んだ。
    真鍋博のイラストの小学生向けの本だった。
    改めて考えてみると、1911年に「総背番号制」の概念があるのがすごい。
    (ま、16進だとすると7桁で2億人程度なんで、無理がある。26+10で37進にすれば若干多くなるが、チェックディジットとかが必ず出るので実際は10~12桁に位になりそうだけど)

    2012年06月13日 12:21
  • Manuke

    真鍋氏のイラストというと、やはり『27世紀の発明王』でしょうか。

    名前の桁数はおっしゃる通り少ない気がしますね。火星人も含まれますし(笑)
    ただ、どうも可変長のようなので、登場人物達はたまたま短かった、とかだったり?(^^;)

    あと、おそらく十六進数ではないように思います。
    0~9/A~Fの十六進数が一般に使われるようになったのは、確証がないのですけど多分デジタルコンピュータが台頭する二十世紀後半のはずなので。
    三十六進数なら七桁で七百八十億人ぐらいですから、ガーンズバック氏が想定していたのはこの辺りかもしれませんね。
    (さすがにチェックディジットの発想はなさそう(^^;))
    2012年06月13日 22:55

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