永遠の終り

[題名]:永遠の終り
[作者]:アイザック・アシモフ


 SF三大巨匠の一人にして、私が最も敬愛する作家アイザック・アシモフ氏の書かれた時間テーマSF小説。それが本書、『永遠の終り』です。
 ただし、アシモフ氏の作品だけあって、この物語には他の時間テーマSFとは一線を画す面白いアイディアが盛り込まれています。人類の歴史を支配する時間管理機関〈永遠〉の存在がそれですね。氏の代表作には〈銀河帝国〉という巨大なスケールの物語が存在しますが、個人的には〈永遠〉も壮大さでは決して引けを取らないと思っています。
 同時に、このお話は恋愛ものとしての側面も持っています。ある一人の男が、初めて愛した女性を守るために罪を犯し、そして大きな激動の渦に巻き込まれていく物語なのです。
 ……主人公ハーラン君、みんなに弄ばれて可哀想です(^^;)

 下は二十七世紀から、上は七万世紀まで――優に七百万年もの長大な期間に渡って人類の歴史を管理する〈永遠(エターニティ)〉。時の流れとは独立して存在し続けるこの組織は、人々の最大多数の最大幸福を目指しています。歴史の流れに〈矯正〉を加え、核戦争や疫病のような災害を取り除いているのです。
 主人公アンドリュウ・ハーランは〈永遠人(エターナル)〉です。彼は技術士という役職に就いており、様々な分析や計算の結果から実際に歴史をどう改変するかを決めるという仕事をしています。非常に有能ですが、対人関係は良好とは言えません。
 技術士は〈現実矯正〉のやり方を選ぶ仕事であるため、数兆人もの人間の運命を操ることになり(矯正後には存在しなくなる場合も)、同じ〈永遠〉に所属する他の者からも恐れられているのです。このような経緯から普段ハーランは冷徹な風を装っていますが、内面はどちらかと言うと激情タイプですね。
 そんな彼が、ある時代で一人の美しい女性と出会います。ノイエス・ランベントは〈時間人〉(〈永遠〉に属さない普通人のこと)ですが、秘書として彼女の時代にある〈永遠〉に出入りしていました。〈永遠〉はほぼ女人禁制で、さらにハーランは潔癖性であったために彼女の存在を嫌悪します。しかし、彼女の近くで過ごすうち、それはいつしか恋愛感情へと姿を変えてしまうのです。
 そんなおり、彼女の属する四百八十二世紀に対する〈現実矯正〉が行われることとなりました。その〈矯正〉はノイエスという人間の消滅を意味します。ハーランはそれを見過ごすことができず、〈永遠〉においては犯罪であると知りつつ彼女を助けようとするのですが……。

 本作の注目ガジェットは、〈永遠〉という機関の存在です。
 時間旅行を扱う種類のSFでは、しばしばタイムパトロールという警察組織が登場し、時間旅行者が歴史を改変することを防ごうとします。しかし本書では逆に、〈永遠〉そのものが人類全体の幸福を目指して歴史を少しずつ修正していくための組織なのです。時間旅行は〈永遠人〉にのみ許され、〈時間人〉の中からある基準によって抜擢されます。
 〈永遠人〉には技術士を始めとして様々な専門員が存在します。計算士、観察士、社会学士、人生設計士、等々。各々の分野のスペシャリスト達が綿密に調査を行い、最小限の干渉によって最大の〈矯正〉が行われるよう努力されているのです。
 〈永遠〉が行う〈現実矯正〉の結果、歴史は常に変化していきます。これにより、〈永遠人〉は故郷から完全に切り離されてしまいます。何故って、大抵の場合彼らの出身時代は〈現実矯正〉を受け、既に元の状態とは異なっているのですから。父母に当たる人間が消滅していることだってあり得ます。
 女性は決して〈永遠人〉になることができず、子孫を残すことも許されていません。歴史を改変するという特権と引き換えに、自らに厳しい制限を課しているストイックな組織なのです。
 また、〈永遠〉のもう一つの重要な仕事として、時代間貿易というものがあります。例えば、森林の少ない時代へ他の時代から木材を輸出するというような行為です(歴史に悪影響を及ぼすことがないと分かっているときのみ)。これは非常に面白い概念ですよね。物語の舞台は地球上だけですが、別の時代があたかも別の世界のように見なせるというわけです。

 アイザック・アシモフ氏は、個人的な印象ですがオチを非常に大切にされる方だと感じています。氏の手がけられた作品には科学解説書にすら大抵オチがありますから(^^;)
 本作もご多望に漏れず、最後に大きなどんでん返しが待っています。元々ミステリータッチの仕掛けを含んだ物語ですが、様々な謎が明らかになる後半の展開は実に切れ味鋭く、読後の爽快感は格別です。
 本書は時間SFとしてだけでなく、ミステリーものとしても恋愛ものとしても優れた作品であると言えるでしょう。

この記事へのコメント

  • ちゅう

    ワタシは、これがアシモフ最高作ではないかとまで思っています。
    少なくとも『わたしはロボット』『銀河帝国の興亡』と並んでベスト3に入れたいです。

    自分のところでも(mixiですが)気合を入れてレビューしたくらいです(^^)

    アイデアが良いし、ストーリーのまとまりも良く(ちょうど良い分量)、ハラハラさせてくれるし、恋もある。

    そして、なんという結末!

    ああ、オチをしゃべりたい。。
    2011年12月04日 16:35
  • Manuke

    『永遠の終り』、いいですよね。ラストの一文は、ぞわっと来るほど感動しました(^^;)
    私も、アシモフ作品の中でもとりわけ好きなお話です。
    ノイエスの最後の言葉も良いのですが、ある意味ハーラン君はまんまと罠に絡め取られた気がしなくもなく(笑)
    2011年12月06日 00:15
  • この作品の時間の仕組みって書かれた年代を考えると信じがたいほど現代的。
    エヴァレット解釈もバタフライ効果もカオス的安定も知られていない頃によくこんな魅力的な設定を思いついたもんです。
    2014年01月07日 19:47
  • Manuke

    > この作品の時間の仕組みって書かれた年代を考えると信じがたいほど現代的。
    > エヴァレット解釈もバタフライ効果もカオス的安定も知られていない頃によくこんな魅力的な設定を思いついたもんです。

    ですねー。
    〈タイムパラドックスもの〉のセオリーはいくつかありますけど、それらからの発展でしょうか。さすがはアシモフ氏です。
    がんがん歴史改変を繰り返していく〈永遠〉を時間流の外から眺めると、基部(二十七世紀側)と上部(七万世紀側)が固定されたまま、中間がゆらゆら揺れて移動していく紐のように見えたりするのかも、と想像してしまいます。
    2014年01月09日 01:05
  • むしぱん

    久々に読み返しました。この小説はやはりかっこいいですね。アイデアも、オチも、タイトルも。

    正義の名の下に歴史を改変してしまう<エターニティ>は、まるでセルダン計画の壮大な時間的拡大版のよう。
    逆に、ハリ・セルダンは<エターニティ>の関係者だったなんて設定でもよいかもとか?(『序曲』や『誕生』もだいぶ前に読んだので、セルダンがどう描かれてたか忘れてしまいましたが。Manukeさんも『誕生』レビューの最後に、本書との関連可能性を指摘されてますね)

    ハーランくんはいろんな人たちに操られてしまいましたが、最終的には、かつ本人的にはハッピーエンドでなんか羨ましい。(ちょっと、もしやハーラン・エリスンのハーラン? などと思ってしまいましたが、エリスンから「なってねえなあ!」と言われたSF大会初対面時よりも以前に書かれてるっぽいので、関連性はなさそうですね)
    2017年02月04日 22:01
  • Manuke

    〈銀河帝国もの〉への本書の取り込みは、アシモフ氏ご自身があまり上手くいかなかったと述べておられますので、直接の関連性は意図されていなさそうですね。
    ただ、計算士を初めとする〈永遠〉の技術は、心理歴史学の延長線上にあるのでは、という気がしてなりません。
    本書で閉じなかった環は、第二ファウンデーションにおける心理歴史学の完成後に閉じ、銀河帝国と〈永遠〉という二つの人類圏は以後交わることなく存続していくのかな、と。まあ、これ以上は二次創作になってしまいますが(^^;)
    2017年02月06日 01:50

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