地球最後の砦

[題名]:地球最後の砦
[作者]:A・E・ヴァン・ヴォクト


 奇才ヴォクト氏による、時間SFを納めた中短編集です。
 本書は中編『地球最後の砦』と短編『消されし時を求めて』の二編が収録されており、どちらも時間移動を扱ってはいるものの互いに関連性はありません。
 『地球最後の砦』は、主人公となる女性ノーマと、その元恋人ガースンの二人の視点から描かれており、話が進むにつれ様々な要素が絡み合い混乱を深めていく(主人公達にとっても、読者にとっても(笑))という、ヴォクト節が効いた作品です。
 一方、『消されし時を求めて』は、主人公が記憶喪失(健忘症)から始まるという点でやはり主人公は混乱していますけど、お話としてはシンプルで切れの良いストーリーに仕上がっています。なお、こちらは別の形で長編化が行われているようです。(詳細は後述)

◎地球最後の砦

 かつて、物理学者ジャック・ガースンからの求婚を断り、自らのキャリアを選んだノーマ・マシスン。十一年後、夢破れた彼女は川に身投げしようとし、踏み切れずに思いとどまりました。
 そこへ、奇妙な容貌の男が声をかけてきます。ドクター・レルと名乗るその男は、自由のために戦うカロニア人を助けるために義勇兵を集めており、その募集センターの受付にノーマをスカウトしにきたと言うのです。不思議なことに、ドクター・レルはノーマの名前だけでなく、彼女の経歴や事情まで熟知している様子でした。ノーマは訝りながらも、その申し出を受けることにします。
 ところが、彼女が受付を行った義勇兵志願の青年は、奥の部屋に置かれた謎の機械に送り込まれ、姿を消してしまいます。ドクター・レルが集めていたのは、カロニアのための義勇兵などではなかったのです。
 それを知ったノーマは、センターを去り警察に助けを求めようとしました。けれども警察署に入る直前、ノーマは老婆の姿になってしまいます。追いかけてきたドクター・レルは彼女の孫を装い、祖母がボケてしまったのだと警官に偽ってノーマを連れ帰りました。
 レルはノーマを元の年齢以上に若返らせると、自分が遥か未来の超人であり、戦争のため過去から人員を集めていたことを彼女に告げます。自分に敵対すればノーマは若さを失い、逆に協力すれば永遠に若いままでいられると。
 手に負えなくなったノーマは、かつての求婚者ガースンに手紙で助けを求めます。ガースンはノーマの書いた内容を真面目に受け取ろうとはしませんでしたが、ドクター・レルの行っている義勇兵集めがアメリカの法に反しているだけでなく、カロニア大使館すら募集を認識していないことを突き止め、募集センターに押しかけました。しかし、レルと手下の男達にあっさり捕まってしまい、義勇兵と同様にタイムマシンで未来へ送られてしまいます。
 その未来では、地球を支配する〈栄光人(グローリアス)〉と敵対勢力〈惑星人(プラネタリアン)〉(太陽系諸惑星に移住した地球人の子孫)が戦争を行っていました。〈栄光人〉は自分達以外の人間を見下しており、過去の時代から集めた男達の人格を消去し、物言わぬ兵士として戦場へ送り込んでいたのです。ガースンは〈栄光人〉に服従するふりをして人格消去から逃れようとしますが、ドクター・レルにはお見通しでした。
 一方、現代に取り残されたままのノーマは、自分の年齢を操るドクター・レルの能力が決して超常の力ではなく、アパートの鍵に仕込まれた装置の仕業であることを突き止めます。そして、未来に連れ去られたガースンを救おうと装置を使ったとき……。

◎消されし時を求めて

 青年ラルフ・ドレイクは、病院で目を覚ましたとき、最近の二週間の記憶を失っていることに気づきました。
 彼はその期間の初めに、文房具メーカーにセールスマンとして雇われた後、自分の故郷に近いキスリング支線のウォーウィック・ジャンクションへ向かったことが分かっています。しかしその後、溝の中で意識を失っているところを発見されるまでの足取りは不明でした。
 その間に一体何があったのか――それを知るためにウォーウィック・ジャンクションへ赴いたドレイクは、見知らぬ青年ビル・ケリーに声をかけられます。彼は失われた記憶の間にドレイクと知り合っていたのです。ドレイクは事情を話し、ケリーに経緯を聞くことにしました。
 彼によると、ドレイクとケリーは同じ汽車に乗り合わせた乗客同士でした。ピファーズ・ロードに到着したとき、若い娘の売り子セラニーを見かけたケリーは、以前彼女から購入した驚くべき万年筆をドレイクに見せたのです。その万年筆は先端を押すと、紙コップ一杯になるまで青いインクを吐き出すことができたのです。それどころか、押す位置によってインクの色まで自在に変えられるという代物でした。セラニーの父である天才発明家が生み出したというその万年筆に、ドレイクは驚嘆するばかりです。
 その話に興味を持った白髪まじりの老人にケリーが万年筆を見せると、途端にその万年筆は壊れてしまいます。頑丈で、セラニーに「一生もつ」と言われた万年筆があっさり壊れたことにケリーは驚きますが、老人は謝罪し、代金の一ドル札をケリーに渡しました。
 客車に乗り込んできて新たな商品を売っていたセラニーに、ドレイクは壊れた万年筆を見せて二人分を買おうとしました。動揺したセラニーは壊れた事情を尋ね、ドレイクが説明すると、セラニーは万年筆を壊した老紳士を恐怖の目で見つめ、大慌てでプラットフォームから走り去っていったのです。そして、ドレイクはピファーズ・ロードで降車しセラニーを追いかけていった――それがケリーの語ったあらましでした。
 果たして、自分はそこで何をしたのか。それを知ろうと、ドレイクはかつてと同じくピファーズ・ロードへ向かったのですが……。

 表題作『地球最後の砦』は、あらすじの時点でもかなり入り組んでいますけど、ここから更に複数の要素が絡んできます(^^;)
 ドクター・レルの属する〈栄光人〉側だけではなく、敵対者の〈惑星人〉もまた過去の時代から兵士を集めており、人格消去を免れたガースンは自分以外の過去から連れてこられた兵士達と対峙することになります。また、これとは別に、ノーマとガースンはそれぞれ〈栄光人〉/〈惑星人〉より更に上位と思しき存在から使命を授かり、世界の存亡が彼らの行動にかかっていることが明かされます。
 ヴォクト作品の特徴と言える複雑なプロットは本作から始まったようで、作品としてはやや短めですが、ワイドスクリーン・バロックに分類されるのではないでしょうか。展開がやや強引なきらいはあるものの(^^;)、ストーリーは綺麗に収束するのが小気味よいですね。
 余談ですが、冒頭に登場する地名カロニアは架空のもののようです。カロニアがどこにあるのか、カロニア人が何故戦っているのかといった説明は作中に一切ありません(笑)

 『消されし時を求めて』も、小粒ながら切れの良い時間SFです。時間を移動することができる《所有者("Possessor")》やその居城である〈不死宮("Palace of Immortality")〉など、短編で終わるには惜しい設定が盛り込まれています。
 ヴォクト氏もそう感じられたのか、本作は後年に長編化が行われています。ただし、単純に短編を書き直すのではなく、既存の複数の短編を修正しつつ繋ぎ合わせるという形で(^^;)
 これはヴォクト氏が"fixup"と呼んだ手法で、晩年にいくつかの作品がこのように長編化されています。本作は、『フィルム・ライブラリー』(『時間と空間のかなた』収録)及び『はるかなるケンタウルス』(『終点:大宇宙!』収録)と合わせて、"Quest for the Future"という長編になっています。
 ただし、この"Quest for the Future"の評価は今一つ芳しくありません(特に主人公のPeter Caxtonが嫌われている模様(笑))。日本語には翻訳されておらず、未読のため詳細は不明ですけど、ちょっと読んでみたい気がします。:-)

この記事へのコメント

  • X^2

    「消されし時を求めて」の方は絶対に読んでいるはずなのに、「地球最後の砦」の方はまるで記憶がないのはなぜかと不思議に感じましたが、調べてみると前者は「終点:大宇宙!」に収録されている「捜索」と同じ話のようですね。書かれているように、不死宮を始めとする設定と途中までの訳の分からなさが一気に解明される展開が印象に残っているので、その後の長編化された話にも興味があるのですが、やはり別々の話を無理やりつないでいるので整合性が失われていて駄作と化しているのでしょうか。
    2019年06月29日 17:41
  • Manuke

    > 「消されし時を求めて」の方は絶対に読んでいるはずなのに、「地球最後の砦」の方はまるで記憶がないのはなぜかと不思議に感じましたが、調べてみると前者は「終点:大宇宙!」に収録されている「捜索」と同じ話のようですね。

    はい、そうです。
    原題は"The Search"ですね。

    > 書かれているように、不死宮を始めとする設定と途中までの訳の分からなさが一気に解明される展開が印象に残っているので、その後の長編化された話にも興味があるのですが、やはり別々の話を無理やりつないでいるので整合性が失われていて駄作と化しているのでしょうか。

    どうやら、そうみたいです。
    繋がりのないお話をまとめたせいで、主人公の言動がちぐはぐになってしまっているという状態なのかもしれません。
    ただ、これでもヴォクト氏の"fixup"の中ではマシな方という意見もあるようです(^^;)
    短編を連作に変えたものでは、『宇宙船ヴィーグル号』のような成功例もあるだけに、もったいない気がしますね。
    2019年07月02日 01:17