ガス状生物ギズモ

[題名]:ガス状生物ギズモ
[作者]:マレイ・ラインスター


 目に見えないガスの体を持つ生命体ギズモ達との戦いを描いた、ディザスター・ノベルです。(原題は"War with the Gizmos")
 作者のマレイ・ラインスター氏は息の長い作家さんで、SF畑に限定しても、黎明期の一九一〇年代から円熟を迎えた一九六〇年代まで執筆活動を続けられました。また、SF以外でも冒険小説や推理小説、テレビドラマや映画の脚本・ノベライズなど、多岐にわたって活躍されたようです。
 小説家としても多作で、短編小説の総数は千五百本を超えるとのこと。日本ではいくつかの作品がジュブナイル版として翻訳されたため、そちらでご存知の方が多いかもしれません。

 アメリカの人里離れた僻地で、奇妙なことが起き始めていました。
 クマやヤマネコなど野生動物が、何かに抵抗した痕跡を周囲に残して死んでいるのがしばしば発見されたのです。死骸には傷一つない状態にも拘らず、何かと戦い力尽きたという有様でした。そして、その異常死は野生動物だけでなく、猟犬、そしてハンターや釣師にまで及び始めます。
 狩猟専門誌のライターで、自身も狩猟家である青年ディック・レーンは、この異常死を記事にすべく調べていましたが、ずっと空振りでした。
 ある日、ヴァージニア西部の山中で、レーンは遂に異常死の現場に出くわします。およそ二十から三十ほどのウサギが、折り重なって死んでいたのです。死後二日ほどは経っているようなのに、死骸には蠅一匹たかっておらず、腐臭さえもしません。それどころか、周囲には鳥のさえずりも、ブヨや蚊の羽音もありませんでした。
 疑念を感じたレーンですが、かすかな唸り声が聞こえた後、彼の顔に何か見えないものが貼り付いて鼻と口を塞いでしまいます。危うく窒息しかけたレーンが前のめりに倒れ、顔が落葉の中に埋まったところ、その何かが顔から離れてようやく呼吸することができました。
 これこそが多発する異常死の原因であり、目に見えない何かが生き物やハンター達を窒息させていたのだと理解したレーン。彼は落葉がそれを遠ざけたのだと推測し、落葉をかき集めて両手で抱え、その場を離れます。
 しばらく移動すると、レーントレーラーのそばでは大柄な女性と出会いました。彼女はゲール・ユニヴァーシティのアン・ウォレン教授で、ハゲワシの調査のために助手で姪のキャロル・ウォレンと共に山中を訪れていたのです。
 頭がおかしいと思われないよう、レーンは慎重に自分の体験を語りましたが、ウォレン教授もまたハゲワシの行動を邪魔する目に見えないガス可動体(ダイナミック・システム)の存在を認識していました。
 そして、彼らが話し合っているとき、またも唸り声が聞こえてきました。自分を襲った何かが追いかけてきたのだと悟ったレーンは、二人と共にトレーラーの中に逃げ込みます。中に入り込んだ一体のせいでキャロルが窒息しかけたものの、なんとか撃退することができました。
 ウォレン教授によってギズモと名付けられたそれは、単なる可動体ではなく、明白な殺意を持った生命体でした。目に見えない幽霊のようなギズモの存在を世に訴えるため、レーン達はトレーラーを離れ人里へと向かうのですが……。

 本書の注目ガジェットは、ガス状生物ギズモ("Gizmo")です。
 ギズモは透明なガスでできた生命体で、直径一フィート少々の球形(ビーチボールぐらい?)をしています。かすかに向こう側の景色がカゲロウのように揺れ動いて見える程度で、視認困難かつ匂いもありません。獲物に襲い掛かる場合などに唸り声を上げることがあり、主にこれで存在を知ることができます。また、電波を反射するようで、集団になったギズモはレーダーに映ります。
 ウォレン教授は、生き物が死んだ際の腐敗ガスをエネルギー源として活動してるようだと推測しています。集団で狩りを行える知能を有するものの、レーンは人間に比するような知的生物ではないと見做しています。ただ、作中でレーンは、人間以外の生き物が人間並みの知性を持つという考えに不快感を覚えると独白しており、偏見が入っている可能性も高いです(^^;)
 ギズモが肌に触れたときには多少感触があるらしく、クモの巣が触ったような感じがします。気体であるために手で払いのけることは難しく、口と鼻を塞がれるとなすすべがありません。しかしながら、ガスが何らかの構造を持っているせいか布を通り抜けることができないため、シーツを被せて押しつぶすと死んでしまいます。
 ギズモがどこから来たのかははっきりしません。ウォレン教授は、古くからあるお化けの類の迷信がギズモだったのではないかという仮説を立てています。別の登場人物バークは、ギズモが別の惑星から地球侵略に来襲した異星人だと断定していますけど、これはSFかぶれのバークによる根拠のない空想なので信憑性はありません(笑) いずれにせよ、ギズモはおそらく遺伝子がDNAではないので、地球上の他の生物と祖先を共有しない独立した生物となるのでしょう。
 現実の話として、地球生命体と祖先を共有しない生物群が他ならぬ地球上に存在する可能性が、生物学の文脈で真面目に検討されることもあるようです。地球環境は私達の親類に汚染されきっているため、ルーツを共有しない別の生物群が存在しても容易に気づくことができない、というわけですね。もしかしたら、人知れぬ沼地の上にガス生命体が漂っていたりするのでしょうか。:-)

 作品としてはギズモという存在に特化したワンアイディアの小説で、終盤が駆け足のため少々食べたりない感はあるものの、パニックものとして十分楽しむことができます。
 登場人物では、ややマッドサイエンティスト的な立ち位置のウォレン教授がいい味を出しています。事態が緊迫していても、空気を読まず(ガスだけに?(^^;))ギズモを捕らえようと枕カバーを振り回す姿がコミカルですね。
 余談になりますが、英単語の"gizmo"は一九四〇年代に米海軍で使われ始めた「得体のしれない何か」を示す仮名です。語源ははっきりしないものの、レーダースコープ上で何もないはずの場所に映る輝点を表す言葉として使われたようです。ラインスター氏が「この"gizmo"がただのノイズではなく、本当に存在していたら……」という発想を膨らめたのが本書なのかもしれません。

この記事へのコメント

  • X^2

    この「ギズモ」と似た設定で、「目に見えないが人類をはるかに凌ぐ知的生命体で、実は人類はこの種族の家畜であった」というSFがあった記憶があるのですが、タイトルが思い出せません。ご承知でしょうか?
    2019年03月13日 20:22
  • Manuke

    うーん、そのものズバリの話はちょっと思い浮かばないですね。すみません。
    ヴォクト氏の『宇宙船ビーグル号』に、星間ガス状生命体のアナビスが登場しましたけど、あれは「人類を家畜にしている」系ではなかったし……。
    (家畜にしようと目論んではいたかも(^^;))
    2019年03月14日 20:07
  • X^2

    今日になって問題の作品タイトルをぼんやり思い出して検索したところ、
    「超生命ヴァイトン」と判りました。「ギズモ」とこの「ヴァイトン」は両方ともジュブナイル化されていて、両方とも「球形の見えない生物に襲われて死者が出る」という序盤が同じような展開なので、子供の頃に読んだときに途中まで混同していた記憶が残っています。
    2019年03月14日 22:07
  • Manuke

    ふむふむ、そうでしたか。私は未読ですが、なかなか面白そうですね。
    ハヤカワ銀背のようですから簡単には入手できなさそうですが、機会があったら読んでみたいです。
    2019年03月16日 00:02