イタルバーに死す

[題名]:イタルバーに死す
[作者]:ロジャー・ゼラズニイ


 鬼才ゼラズニイ氏による、遠未来の宇宙を舞台としたサスペンスSFです。
 冒頭からぶっちゃけてしまいますが、ゼラズニイ氏は本書を不出来な作品と考えていたようで、「本を一つ抹殺できるとしたら、それは『イタルバーに死す』になるだろう」とまでおっしゃっています(^^;) 本書はゼラズニイ氏が脱サラして専業作家になったときに執筆されたもので、印税を得るためいささか書き急ぎ過ぎたことが理由のようです。
 作品を読むと、確かに終盤が散漫でキャラクタを活かしきれていない感はあります。ただ、各々の要素は決して悪くない上、ゼラズニイ氏の流麗な筆致は健在です。

 銀河の覇権を競う二大勢力、DYNAB(ディアーキック国家群及び連合諸天体、"Dyarchic"は二頭政治のこと)とCL(合同連盟)の戦争が、地球を含むDYNAB側の敗北に終わって十五年後――けれども、かつての地球艦隊司令官マラカー・マイルズにとっては、戦争は終結していませんでした。
 地球はCLの攻撃により破壊しつくされ死の惑星となり、もはや人の住める星ではありません。CLを許せないマラカーは復讐鬼と化して、テレパシー能力を持つ異星人シンドのみを協力者とし、無数のテロ行為を繰り返していたのです。もはやDYNABがそれを望んでいないのにも拘らず。
 しかしながら、複数の惑星の連合からなる巨大なCLと戦うには、マラカーはあまりに無力でした。破壊行為を行い、数人の人間を殺害しても、それはCL全体からすれば微々たるものでしかありません。
 一方、惑星クリーチの地方都市イタルバーでは、恐ろしいことが起きつつありました。
 かつて、とある寺院の遺跡で奇妙な経験をした男ハイデル・フォン・ハイマックは、無数の病気に体を蝕まれていました。けれども、彼は浄化(カタルシス)=昏睡(コーマ)と呼ぶ状態を経ると病が一時的に快癒するばかりでなく、他人の病を癒すこともできるという奇妙な体質になっていたのです。彼は浄化直後は治癒を、時間が経つにつれ病魔を撒き散らすというサイクルを繰り返していました。また、浄化時は毎回、同じ謎めいた女性と会話する不思議な夢を見るのですが、ハイデルはそこのとをさして気に留めていませんでした。
 イタルバーで、病を患った少女の治療へ協力していたハイデルは、不注意で逗留を長引かせたことで疫病を周囲に感染させてしまいます。これに怒った市民達の迫害を受けた彼は憎悪に染まり、意図的に病魔を撒き散らすことでイタルバー住人を全滅させてしまったのです。
 ある経緯から、不治の病デイバ熱を撒き散らす謎の男H(ハイデルのこと)の存在を知ったマラカーは、彼を利用すればCLに壊滅的な打撃を加えられるかもしれないと思いつきます。Hと接触して利用するために、彼は行動を開始しました。
 マラカーのかつての部下で、今は他人の夢の映像を水晶玉の中に固定することを生業とするマラカー・マイルズ。戦争の犠牲者で、マラカーを個人崇拝する娼婦ディグラ。死病を回避するために自らの肉体を化学物質で固定化し、今はハイデルの事件を調査するドクター・ラーモン・ペルス。そして、惑星改造を手掛ける大金持ちで、ハイデルの中に潜むものの正体を知る男フランシス・サンドウ。
 彼らの織りなす物語は、どのような結末を迎えるのでしょう。

 本書の注目ガジェットは、死せる医者ラーモン・ペルスです。
 ペルスは治療方法の知られていない病気に体を冒され、死の直前になったとき肉体の生命活動を化学的に停止させるという手段を取りました。彼は呼吸も飲食もせず、心臓の脈動もないのですが、体に埋め込まれた超小型発電システムのエネルギーにより、脳髄の思考能力と、多少の運動能力が与えられています。言わば、科学的に作られたゾンビですね(笑)
 ただし、その筋力(?)は弱いため、常に個人所有の宇宙船バブル・シップの中で暮らし、惑星上に降りることはできません。体は痩せ細り、頭には毛髪は残っておらず、肌は白骨のように青白い――と、まさにアンデッドさながらの姿で、宇宙船内を幽霊のように浮かんで過ごしています。
 不気味この上ない姿ですけれど、病理学で数々の業績を上げ、銀河中から尊敬の念を集めるという側面を持つキャラクタです。実は作中人物では一番良識的かも(^^;)

 復讐者マラカーはCL圏内にある惑星デイバの女郎屋で、ディグラとたまたま出会います。ディグラはDYNAB出身であることから迫害され、娼婦とならざるを得なかった娘で、戦争終結後も一人戦い続けるマラカーに英雄崇拝の念を抱いていました。H(ハイデル)の手がかりを知るディグラを利用価値があるとマラカーは考え、彼女を連れていくことにします。
 マラカーはかなりのろくでなしですが(^^;)、ディグラの崇拝を壊さないようにするため、手を出さず紳士的に振る舞うことにします。この結果、二人は疑似的な父娘関係を作ることになるのが面白いですね。

 このように、登場人物はかなり凝った設定で魅力的ですし、舞台背景も興味深く、ゼラズニイ氏の文体も美麗なのですが、残念なことに結末辺りがパッとしません。その最大の理由は、最後に美味しいところを全部かっさらっていくフランシス・サンドウにあるように感じられます。:-)
 このサンドウというキャラクタ、実はゼラズニイ氏の別作品"Isle of the Dead"(日本語未翻訳)の主人公です。元々のストーリーではサンドウは登場していなかったのですけど、本書が出版社から没を食らった後、加筆の際にストーリーに混ぜ込まれたカメオ出演ですね。
 この加筆が、本書のバランスを崩してしまったように思われます。もっとも、改訂前の作品が改訂後より良かったかどうかは分からないのですが(^^;)
 いずれにせよ、もっと終盤をじっくり描いていたら、かなりの良作になったのではないかと愚考します。色々と惜しい作品です。

この記事へのコメント