巨神覚醒

[題名]:巨神覚醒
[作者]:シルヴァン・ヌーヴェル


※このレビューには『巨神計画』のネタバレがあります。ご注意ください。

 発掘された太古の巨大ロボットを巡る物語を文書集大成の形で綴った異色SF『巨神計画』の続編です。〈テーミス・ファイル〉三部作の第二部に当たります。
 本巻もまた前巻と同様、複数の短い文書を連ねる形で作品が構成され、それを読み進めるうちに全貌が明らかになっていくという形式を取ります。しかし、前巻で中心だった匿名インタビュアーによるインタビューは、主要素ではなくなります。この辺りはなかなかにショッキングですね。
 異星知性体が埋めたと思しき巨大ロボット・テーミスの発掘後、新たなロボット達が地球へ姿を現します。彼らの意図するところは――。

 巨神テーミスの発見者ローズ・フランクリンが事故で死亡して一年後、何故か四年前の姿でローズが発見されることになりました(前巻参照)。第二のローズは遺伝子的にも記憶的にも第一のローズと全く同じ人物でありながら、テーミスに関与した三年間のことを何一つ知らなかったのです。しかし、有能な科学者であることから、第二のローズもまた国連地球防衛隊(EDC)の科学室長に据えられることになりました。
 それから九年後、人類の前に新たな巨神が姿を現します。今度のロボットは埋められていたのではなく、突如としてロンドン王立公園リージェンツ・パークの真ん中に前触れもなく直立していたのです。
 出現後、まるで動きを見せない巨大ロボットに業を煮やしたイギリス政府は、戦車でロボットの周囲を取り囲みました。そのときロボットは動き始めると、周囲を壁状に広がる光で薙ぎ払い、ロンドン市民と兵士合わせて十数万人もの人命が一瞬にして失われてしまいます。
 EDCから派遣されロンドンに到着したテーミスですが、その武器は相手ロボットに通用しませんでした。直接の攻撃手段がないながらも、パイロット二人の機転によりテーミスは敵ロボットを破壊することに成功します。中からは、十八歳前後の少年に見える異星人の遺体が二体発見されました。
 それから一年ほど後、テーミスが格納庫から突然姿を消すという異常事態が発生しました。テーミスが動いて出て行った形跡はないため、搭乗していたパイロットのヴィンセントが何かを操作した結果、テーミスの転送機能が動作してしまったのではないかと推測がなされます。
 テーミスの消息が掴めない中、新たに異星のロボットが出現し始めます。今度は十三体の巨大ロボットが次々に地球上の大都市へ姿を現し、致死性の毒ガスを撒き散らしたのです。
 何も打つ手がない各国政府とEDC、なすすべもなく虐殺されていく人々。そして遂には――。
 果たして、人類はこの難局を乗り切ることができるのでしょうか。

 本作の注目ガジェットは、人間のコピーです。
 前巻『巨神計画』の最後にて、テーミス動作実験中に死亡したはずのローズがアイルランドで発見される、というエピソードがありました。第二のローズは発見された四年前の姿と記憶を持ち、テーミス復元計画に携わった三年間の記憶がありません。当然ながら、第二のローズは自分が本物のローズなのか、何故ここにいるのかと苦悩することになります。
 本巻では、第二のローズが第一のローズのバックアップ・コピーであったことが明らかになります。これには、遥か昔に地球へ到来した異星人と地球人の混血らしき人物バーンズが関与していた模様です。ローズは重要人物であるが故に、万が一に備えプロジェクト参加前のローズを拉致してその身体データを記録しておき、ローズが死亡した際にデータから身体を復元した、というわけです。コンピュータのバックアップと同じで、バックアップを取った後の変化まではリストアできなかった、ということですね(^^;)
 人間が物理的な存在以上のものではないとする(霊魂のようなものを否定する)ならば、脳を含む身体を完全にコピーすれば、それは元の人間と同一存在のはずです。元より、人間を形成する元素は代謝によって常時入れ替わっており、数年も経てば全身の元素が新しいものと置き換えられてしまう、と言われます。少なくとも、個人の同一性は構成元素によるものではないはずですね。
 しかしながら、コピーをオリジナルと同一存在だと感情的に受け止められるか、となると、多くの人は抵抗を感じるのではないでしょうか。作中では、物理学者であるはずのローズ本人がこのことを受け止めきれずに苦悩しますし、冷徹な匿名インタビュアーですら戸惑いを覚えたようです。
 現実においても、科学が進展していけば、人間の完全コピー(クローンではなく、記憶や性格も複製)がいつか作成可能になることは十分にあり得ます。そのとき、私達はそれをどう受け止めることになるのでしょう。
 あと、「コンピュータのバックアップは頻繁に取るべし」という教訓でもあるかもしれません(笑)

 また、匿名インタビュアーの正体の一部が明かされる部分も興味深いですね。多方面に巨大な人脈と権力を有する謎の人物が、文字通り何者でもなかったというのは皮肉かつユーモラスです。(場面はシリアスなのですが(^^;))
 集団幻想的な成り立ちだけでなく、その慇懃無礼さ、両面性を持つ言動といった側面を含め、匿名インタビュアーはシリーズ中でとりわけ重要かつ魅力的なキーパーソンだと言っても過言ではないでしょう。大多数の登場人物から不信感を持たれているにも拘らず、同時に強く信頼されてもいる、複雑なキャラクタです。
 作品全体を構成する、彼が集めた膨大な文書こそがシリーズ名〈テーミス・ファイル〉("The Themis Files")の指しているものだと思われますけど、今回の件でそれらの扱いはどうなるのでしょうか。

 異星の巨大ロボット襲来と、それが引き起こす大惨事に、ストーリーは大きな転換点を迎えます。前巻同様に本巻も、お話は実にいいところで次巻に続きます(^^;)
 果たしてどんな結末が待っているのか、予断を許しません。

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