メカ・サムライ・エンパイア

[題名]:メカ・サムライ・エンパイア
[作者]:ピーター・トライアス


 ピーター・トライアス氏の〈歴史IFもの〉、『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』の続編です。
 前作『USJ』は、第二次世界大戦で枢軸国側が勝利した世界を描いたお話で、権威に抑圧された重苦しい世界観と、巨大ロボット「メカ」が活躍する華々しいエピソードのギャップが魅力的な、ディストピア感の強い作品です。八方ふさがりの社会でもがき苦しむ主人公ベンの目を通じて、「日本合衆国」という異様な社会が描き出されていきます。
 一方で、本作はその世界設定を受け継ぎながら、一転してエンターテイメント性の強い作品へと舵を切っています。主人公の誠はメカパイロットを志望する少年であり、社会に不満を抱きつつも皇国への忠誠心は失っていません。前作では脇役だったメカも本作では主役級扱いとなり、手に汗を握る戦闘シーンも多数盛り込まれています(笑)

 一九八四年の第一次サンディエゴ戦(前作は四年後の第二次サンディエゴ戦に相当?)にて、テロ組織GW団との戦闘で両親を失った少年・不二本誠(一人称主人公:僕)。彼は孤児として虐待を受けながらも、メカパイロットになる夢をあきらめていませんでした。
 グラナダヒルズにある高校を卒業間近の一九九四年、親友の菊池秀紀から、バークリー陸軍士官学校(BEMA)に入学するための帝国試験での不正を持ち掛けられますが、誠は不安を覚えてそれを断ります。そして、試験会場で秀紀の腕に仕込まれた不正アダプタが暴走し、秀紀は突入してきた兵士に射殺されてしまいます。
 メカ操縦模擬試験の相棒を失った誠ですが、代わりに優等生の橘範子が相棒に名乗り出てくれたため、試験を始めることができました。ところが、誠の態度に腹を立てた試験官による不正な妨害を受け、試験は不合格に終わります。範子は誠の操縦技術を高く評価したものの、誠は意気消沈してしまいます。
 そんなおり、テロリストのNARA(アメリカ国民革命組織)がジャベリン級メカでグラナダヒルズを襲撃してきました。範子と誠は、訓練のため校庭に置かれていた偵察用メカのタカ號に無断で乗り込み、NARA側のメカを食い止めるという快挙を成し遂げます。
 BEMA入学は叶わなかったものの、範子の家族の口利きにより誠は民間メカ警備会社RAMDET(ラムズ:緊急機動防衛隊)へ入ることになります。恐ろしく過酷な訓練をこなしていくうち、誠はパイロットとして成長し、同期の訓練生とも親交を深めていきます。
 しかし、訓練終了後の初警備任務のとき、独領アメリカ側へ入った誠達は、そこでNARAのメカによる襲撃に遭い、更に恐ろしいものと対決を余儀なくされます。
 それは皇国のメカを上回る超兵器、ナチスのバイオメカだったのです。

 本書の注目ガジェットは、メカとバイオメカです。
 メカ("Mecha")は第二次大戦中に日本が開発した巨大兵器で、多くは二足歩行の巨大な侍の姿をしていますが、中には四脚や六脚のものもあります。
 元々はあまり実用的な用途ではなく、天皇を象徴する像としての意味合いが強かったものでしたが、アメリカとカナダが日本軍の秘密兵器だと勘違いしたことから本気で兵器開発が始まったとされます(^^;)
 当初は列車砲に履帯(キャタピラ)を付けたようなものだったのが、改良により人型に近づいていったものと思われます。また動力源として、小惑星から採取した鉱物資源を元にした、ブラドリウム粒子生成炉(BPG:"Bradlium Particle Generator")なる装置が搭載されており、これがメカ実用化の鍵となったようです。
 本作では数多くのメカが登場し、活躍の場も前作より大きく増えています。メカパイロットの少年の成長物語が主眼なので、必然的にシミュレーションや実際の訓練、試合などでのメカ同士の戦闘も多数の場面が盛り込まれているわけですね。
 一方、日本のメカに対抗すべくナチスが作り上げた半機械・半生体部品の兵器がバイオメカ("Biomech")です(前作登場のバイオモーフの発展型)。バイオメカは機械的な骨格に生物由来の外層を被せた巨大兵器で、人間が操縦する人工物ですがイメージ的には怪獣の方がしっくり来るかもしれません(^^;) 黒い流動性の皮膚が、ほとんどの通常攻撃手段を無効化してしまう、恐ろしく強大な敵として誠達の前に立ちはだかります。この皮膚には人間の死体が使われているという、おぞましい設定です。
 ちなみに誠と四人の仲間達は物語後半、対バイオメカ用試作機リバイアサン級メカに搭乗することになり、この機体名称がそれぞれ有国(ありくに)號、吉光(よしみつ)號、助平(すけひら)號、包永(かねなが)號、村正(むらまさ)號、守川(もりかわ)號となっています。これらの名前はおそらく、いずれも中世日本の刀工由来だと思われますが、助平號だけは別の読みで呼ばれそうな気がしてなりません(笑)

 主人公・誠はさほど勇敢な少年ではないのですけど、危機的状況で目覚ましい活躍を見せ、訓練を通じて立派なメカパイロットへと成長していきます。両親の死は彼の心に影を落としていて、皇国の現状を全て肯定しているわけではありませんが、どうにか折り合いをつけようともがいています。(長いものに巻かれるタイプ?)
 ストーリー上の重要なキャラクタとして、ドイツ交換留学生のグリゼルダ・ベリンガーが挙げられます。グリゼルダはヒロイン格の少女で、高校時代は誠の同級生ですが、卒業後は一旦ドイツ側に帰国し、その後ある出来事を経て再び誠と関わるようになります。ドイツで育ったグリゼルダは第三帝国の思想に影響されているものの、その排他性も認識しており、そのことで苦悩しています。
 BEMA入学後には、メカパイロット候補生の久地樂(くじら)が仲間に加わります。前作にも登場した伝説的メカパイロットの息子の方で、母譲りのメカ操縦の名手ですが、全く協調性がなく終始食べ物を食べているだらしない性格です(日本語訳では関西弁)。当初は周りの人間を拒絶していますけど、ストーリーが進むにつれ誠達の実力を認め、頼れる仲間となっていきます。
 その他、前作の主人公の一人である槻野昭子も、シーン数は少ないながら登場します。引き続き特高課員として身内の敵をあぶり出す立場ですが、前作よりも人当たりはかなり柔らかくなっています(それでも反抗する者には暴力的(^^;))。前作では自己の矛盾に苦しんでいた彼女も、本作では皇国上層部の腐敗を認めた上で、正義のために割り切るしたたかさを身に着けた模様です。

 前作『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』では、第二次大戦に勝利した日本の抑圧的な社会が陰鬱なトーンで描かれていました。本作『メカ・サムライ・エンパイア』は少年が主人公ということもあり、社会の暗い側面は比較的薄めです。皇国日本は軍事国家かつ権威主義ではあるものの、ドイツとは距離を取っており、全体主義に対しては否定的のようです。民間人は案外普通に暮らしていますし、社会の問題も解決する余地は十分にあるのかもしれません。
 一方、同じ戦勝国で世界を皇国と二分するドイツ第三帝国は非常に不気味です。ナチス支配下にあるドイツ領アメリカでは、非アーリア人は徹底的に差別され、人道にもとる行為が平然と行われるという、USJに輪をかけて抑圧的な社会らしいことが伺えます。ヒトラーは既に死亡しているようですけれども、彼への個人崇拝は止まず、町の行く先々にヒトラーの巨大な像が立てられています。
 ただし、こうした見方はあくまで誠少年の視点によるものであり、ドイツ人であるグリゼルダは全て同意しているわけではないことから、彼の偏見が入っている可能性もあります。
 作品としての方向性はかなり変化したものの、「第二次大戦で枢軸国側が勝利した世界」という部分の魅力も損なわれておらず、現実世界との違いを楽しむことができます。いびつで異質ながらも「もしかしたらこうなったかもしれない日本」を想像するという〈歴史IFもの〉の醍醐味を、巨大メカ兵器のバトルという派手なアクションと共に味わえる、贅沢な作品です。

この記事へのコメント