海底牧場

[題名]:海底牧場
[作者]:アーサー・C・クラーク


 SF三大巨匠の一人クラーク氏の手による、リアルな近未来海洋SF――それがこの『海底牧場』です。
 クラーク氏と言えばハードSFの第一人者と言える存在ですから、当然本書も綿密な科学知識に裏付けされたバックボーンを持ちます。近い将来牧鯨局が創設されることになるのでは、と本気にしてしまいそうになるほどに。
 そして同時にこれは、全てを失った男性がもう一度人生を取り戻していく過程を描いた物語でもあります。しばしばハードSFでは物語性がないがしろにされがちですけど(^^;)、『海底牧場』はそうではありません。ストーリー自体も十分に面白く、そしてまた海へのロマンに溢れる数々のエピソードが盛り込まれている作品なのです。

 時代は二十一世紀半ば、人々は世界連邦の下にまとまり、概ね平穏さを獲得しています。しかしながら人口爆発による食料問題は深刻であり、この解決策の一つとして牧鯨局という組織が発足しました。牧牛や牧羊と同じように、鯨を食肉用として繁殖させるという目的によるものです。
 この牧鯨局に、ある日一人の男性が見習いとしてやってくるところから物語は始まります。この男性ウォールター・フランクリンは既に三十歳を超えていて、本来ならばこの訓練課程を受けるには少々遅すぎるはずなのです。けれどもその経緯は職員達に一切説明されず、彼を指導することとなった一等監視員ドン・バーレイは困惑を隠しきれません。
 実際に訓練が始まってみると、フランクリンは大変に優秀な生徒でした。ドンは友として、そして研究所に勤める女性インドラ・ランゲンバーグは恋人として、訓練過程を通じてフランクリンと親しくなっていきます。しかし、フランクリンは相変わらず自分自身の出自を明かさないままでした。
 そうした中、とある事件がフランクリンの身に起き、彼の抱える秘密が明らかになります。それは不幸な事故のために前途有望な未来と幸せな家庭を失った、あまりにも悲しい過去だったのです。

 本書の注目ガジェットは牧鯨局の存在とその描写ですね。前述の通りこの組織は鯨を海中で放牧し、栄養価の高いその肉を人々に提供することが目的です。
 ドンのような監視員の役割は、まさに牧童そのものです。鮫や鯱のような外敵から守り、入り込むべきでない海域へ鯨が立ち入らないよう誘導したりします。
 もちろん、生身の人間では海中を自由に泳ぎ回ることは困難です。このため彼らは小型の潜水艇に乗り込み、鯨達の相手をすることになります。
 大海原に広がる鯨の牧場。高性能の潜水巡視艇を駆って鯨を誘導するのは、カウボーイならぬホエール・ボーイ。細部まで事細かに設定されたその様は、読む者に迫真のリアリティを感じさせてくれます。

 本作『海底牧場』は、後半の展開に少しばかりナイーブな部分が見受けられます。個人的には、その論理には頷きかねると感じた箇所がいくつかありました(^^;)
 とは言え、本書がハードSFとして、海洋ものとして、そしてハンデを負った人間が立ち直る物語として十分に読み応えがある作品であることは間違いありません。ウォールター・フランクリンの半生を文章で追うことにより、エピローグではきっと大きな感動が待っていることでしょう。

この記事へのコメント

  • goldius

    初めてここに来た時、一週間に一回程度のぺースでコメントとTBをすると書きましたが、実行出来ずにすみませんでした。一日に集中する場合は、何件程度が許容範囲でしょうか?
    2007年03月27日 15:35
  • Manuke

    いえいえ、お気になさらずに。
    あと、件数も別段上限などはありませんから、ご自由にどうぞー。
    2007年03月29日 00:01
  • ちゅう

    これもずいぶん以前に読みました。と言っても、捕鯨への風当たりが強くなってきたころでしたから、さほど前でもないでしょうか。

    得々として、養殖鯨のシステムを描いていて、え”~などと思っていましたが・・・うん、結末はクラークらしく。。

    一応、納得でした(^^;
    2011年12月01日 20:42
  • Manuke

    例え養殖でも、昨今の風潮だと鯨を食料源とすること自体に反発が強そうです(^^;)
    ホエール・ボーイ、なかなか格好いいイメージなんですけどね。
    2011年12月03日 00:11
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「海底牧場」 アーサー・C・クラーク 高橋 泰邦訳 早川文庫
Excerpt: 海洋SFというサブジャンルを確立したSF史上に残る作品。 ? 長編海洋SFとしては世界一。 問題は長編海洋SFなんてほとんど存在しないことだがw 短編も含めても..
Weblog: 目次が日本一のブログ(自称w挑戦者求む)
Tracked: 2007-03-27 15:31